「こんな予定じゃなかった・・・」 最後まで穏やかな仮面を被り続けるつもりだった。そうして誰からも油断して貰いたかったのに。 あんのファッキンワカメがアスランに微笑みかけつつ『平和的な説得』などほざいたから、思わず毒殺云々の事を思い出してしまった上、視線の先にいたアスランが、毒に苦しむ想像上の彼と重なってしまって。 ・・・・・・耐えられなくなって、キレてしまったのだ。 結果年下の3人は怯えまくっていたし、艦長も若干蒼い顔でキラに対する認識を改めていたように見えた。議長は・・・・・顔を見たら確実にタコ殴りの刑を実行していただろうから、どんな反応をしていたかすら知らない。 「あぁもうどうしようでも別にいいかなぁ・・・」 キラがどんな性格をしていようが、どうせ議長は『最高のコーディネイター』に固執するだろう。 油断を誘ったのは、そうすればこの先事が簡単に運ぶだろうと思っての事で、大した意味はない。だがまだ投げ出すのは早いと、キラは再び猫は被り続ける事を決意した。 それに幸か不幸か脅された旨を明言してしまったので、「怒ると性格が変わるタイプ」と判断されるだけで済むはずだ。実際は怒るも何も、標準装備が笑顔で毒を吐く方なのだが。 「・・・・・・キラ」 不意に、何がなんだか分からないままキラの呟きを聞いていたアスランが口を開いた。 ちなみにその他の面々は、既に部屋を出ている。話し合いの為に連れてこられたこの部屋は、そのままキラの部屋として割り当てられたのだ。 キラは困惑げなアスランの顔をじっと見て、彼が何を思っているのか悟った。というか顔を見ずともそんな事わかる。 「・・・・・・説明するから、ドアの外に人がいないか見てきて」 キラは軍服のポケットから名刺サイズの機械を取り出して、静かに電源を入れた。 拘束されし自由6「それは?」 言われるがままドアの外に人がいないのを確認したアスランは、キラが手にした物を見て訝しげに眉根を寄せた。 「盗聴器破壊装置」 特殊な電波を出して音を拾う機械全てを破壊するそれは、以前アスラン自身が請われて造った物だ。故にそれがどう言った効果を持つのかなんて、聞くまでもなく知っている。 キラだってそれをわかっているだろうにと、アスランは眉間の皺を深くしてため息を吐いた。 「そんな事を聞いてるんじゃない。何故それを、ここで使うんだ」 「当然、盗聴器がこの部屋にあると思っているから」 しれっとした顔で答えるキラは、装置の微弱な振動が止まったのを見てそれをポケットに戻した。そしてどうにも返答し難いと押し黙ったアスランを見、こちらも重々しくため息を吐いたのだ。 「君、分かってるでしょ? 僕はザフトじゃないんだ、これは当たり前の処置。どうしてそんな顔をするの」 議長はこんな手を使わないとでも思った? 吐き捨てるようにそう言った彼は、最早忌々しいとでも言いたげな顔を隠そうともしていない。 こんなキラは本当に珍しかった。彼は昔から、滅多な事では人に悪感情を抱いたりしない。それがこうも明らかに議長に対しての嫌悪感表現していると言う事は、それ相応の理由があるのだろう。 そしてその理由もきちんと客観的に吟味した上で、彼は漸く人に対して悪感情を抱くのだ。 キラのそう言った理論的と言うのか優しいと言うのか、それとも甘いと言うべきか迷う性格は、長年一緒にいたアスランが一番よく知っている。 故に彼の議長に対する怒りや悪感情が、勘違いや見当違いではないかと聞く事ができない。キラは確信を持っているのだ、議長がした何かについて。彼にはそれを確かめられるだけの能力もあった。 「・・・・・・議長はお前に、何をしたんだ」 アスランは目を伏せ、時間をかけて漸くその言葉を出す事ができた。本当は信じたい。議長はキラの思うような人ではなくて、プラントに住む人達の為に努力している素晴らしい人なんだよと、キラが確証を持っていると分かっていても、説得したかったのに。 アスラン自身議長に対し、決して見過ごす事のできない程の不信感を抱いていたので、振りだけでもそうする事ができなかった。 だが今するべきなのは、議長を庇う事ではなくてキラが知りアスランは知らない何かを知る事。議長がキラに何をしたのか、知って自分自身でも判断する事なのだ。 キラはそんなアスランの複雑な内心と決意を察したのだろう。議長に対する感情を抑え、静かな口調で答えた。 「・・・・・・・・・さっき、僕が議長の『平和的に説得』っていう言葉に怒ったのは、議長がアスランを殺すと脅して来たからだよ。食事に毒を入れるのなんて簡単な事だと、そう言ったんだ」 アスランは大きく息を吸った。裏切られた、そんな言葉が頭を掠め、信じ難いと言う言葉も飲み込んでキラを見る。 彼は真っ直ぐにアスランを見返していた。その瞳には嘘の気配なんぞない。幸か不幸かキラの嘘を見通す自信なんて物を持っていたアスランは、それが事実なのだと確信してしまって。 俯き頭を抱えてしまいながらも、彼は先を促した。キラはアスランのそんな様子に心を痛めていたが、知らせない訳にはいかないのだと密かにこちらも腹を括る。 「そもそも僕がのこのことミネルバに来た理由は、議長が通信でヒビキの名を出したからだ。君は知ってるよね、カガリと僕の戸籍上の両親は、血の繋がった実の親でない事を」 そう言えば、と小さく呟いたアスラン。うっかり忘れていたが、では『ヒビキ』とはキラ達の本当の両親のファミリーネームなのか。 「うんまぁ、遺伝子上の父親がユーレン・ヒビキって言うんだけど。彼、所謂マッドサイエンティストって奴でね、・・・・・・・・・・・・・・・まぁ色々あって、公にされたくない名なんだ」 「・・・・・・はしょりすぎじゃないかそれ・・・?」 「我慢して。僕にだって人に言いたくない事はあるんだよ。カガリさえ知らない事なんだし」 ではラクスは? アスランはそう言いそうになるのを我慢する。俯いていた事が幸いしてか、キラがアスランのそんな些細な疑問に気付く事はなかった。 しかし初めてキラ達の父親の話を聞いたが、複雑な感想を抱かずにはいられない。アスランはカリダもハルマも良く知って世話になっていたので、余計に気まずいと言うか何と言うか。 しかもキラの父親を語る口調が、何とも冷たくて。議長に対してと同じか、それ以上な程の忌々しさを感じさせるのだ。 遺伝子上の父、その言葉には一層刺々しさを感じ、何があったのかと聞きたくなった。だがキラは深く突っ込まれる事を望んではいない。むしろ拒絶している。 更にはもう一人の当人であるカガリも知らないとあっては、それ以上結局は赤の他人であるアスランに聞けるはずもなく。 「・・・わかった」 納得して先を促すしか、道は無かった。 「ごめんね。・・・とにかく、あの時言外に言ってたんだよ。『ヒビキの事を公にされたく無いのなら、大人しくこちらに来い』って。行かない訳にはいかなかったから来た・・・・・・と、いう事になっている」 「・・・? 本当は違うのか」 脅し、また脅しか。アスランはここに来て漸く、議長に対する評価を完全に変えた。それまではまだ諦めも悪く信じられないと思い、心が揺れていたが、最早それも無い。 何故ならば議長が「ヒビキと言う名から決して逃れる事はできない」と言った事を思い出してしまったからだ。 その時は意味がわからなかったが、今となればわかる。アスランにとってこれが決定打となった。 そう思って顔を上げた矢先、キラは不可解な事を言う。まるで脅されてミネルバに来たと見せかけ、他に理由があるのだとでも言いたげに。 「うん、そんなのぶっちゃけ関係ないんだ。公にされたらされたで、覚悟は疾うにできてるし。ここには僕なりの目的があって来たんだよ。決して脅されたからじゃない」 アスランの疑問を肯定したキラは、アスランが持ち直した事で遠慮がなくなったのか、また議長に対する怒りを露にしていた。 元々アスランは議長以上にキラを信頼していたので、ショックは大きかったが切り替えは早い。キラの態度は少しだけ複雑だったが、それだけだ。 「目的って?」 「・・・・・・・・・シン・アスカとレイ・ザ・バレルに会って話をする事と、ある女の子を議長の元から浚う事」 アスランは一瞬、動きを止めた。女の子を浚う、キラが。この少女めいた顔をしたキラが、真っ黒なお腹と真っ白な猫を器用に使い分けてそれでも外見だけはいつだって可愛らしいキラが、女の子を浚う。 「犯罪だろ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味で言ってる? 君なんで鼻押さえてるの? 何想像したの? 吐けよおい」 「やっぱりお前、シンの事知ってたんだな」 「聞かなかった事にするつもり? ていうか鼻血拭いてくれない? カガリに言いつけるよ変態」 「でもレイ? 何でレイなんだ?」 「聞けよ」 蹴られた。諸々の事情でキラは手より先に足が出る事は知っているが、覚悟してても早すぎて防御に遅れる。というか防御したらしたで怖いので、どうしても動きが遅くなるのだ。 だが不埒な事を想像してしまったのを肯定する訳にはいかない。確信されてようが無駄に足掻き、アスランは知らぬ存ぜぬで通した。蹴られた腹が痛かったが、特にリアクションもせずに先を促す。 「というか女の子って、もしかしてミーア?」 「ミーア? あぁ、ミーア・キャンベル。あの子じゃないよ」 というかキラは何処から何処まで知っているのだろうか。むしろ全て調べつくしたのかも知れない。彼のハッキング能力は天才の更に上を行っていると言っても過言ではないので、それも不思議ではないのだ。 だが彼女ではないと言うならば、議長の元にいる女の子とは誰の事なのか。・・・・・・一瞬大勢の少女を囲っている議長を想像してしまい、後悔した。キラの視線が痛い。 「アスラン、君そんなキャラだったっけ。意外とそう言うのに疎いと思ってたんだけど」 「お前はその顔でやる事やってるよな」 アスランはキラの隣に立った少女をラクスしか知らないが、アークエンジェルに乗っていた時期サイと言う少年から、ガレッジでのキラの華々しい戦歴を聞いてしまっていた。 信じられなかったが、本人も頬を染めて(この時はまだ見た目どおり純朴なキラだった)肯定していたので、信じざるを得なかったのだ。 「・・・・・・・・・・・・・・アスラン、ご飯食べようよ。もう御昼時だし、お腹空いた」 今度は逃げたのはキラだった。珍しい。 アスランもまたへたれた彼にしては珍しくもそれ以上追求せず墓穴を防ぎ、大人しく昼食を取る事に決めたのだった。 まだアークエンジェルとフリーダムが再び現れた理由も、キラが議長を嫌う理由――二度脅された、それだけではない気がする――も聞いていないが、事を焦る必要はない。 シンとレイの件にしても、大体想像はつく。正体不明の少女については、アスランはあえて以降も何も聞かない事に決めた。墓穴は掘りたくないのだ。 「あ、アスラン」 「ん?」 「僕が目的を持ってここに来た事と、ハッキングが趣味だって事言わないでね。ってかハッキングって言葉も出さないで」 そもそも身近な人しか知らないとは言え、キラは自分から趣味がハッキングだと教えた人は一人もいない。 それが犯罪だって事は知っていたし、アスランの時は油断していたのだ。そしてアスラン以外の人たちは、皆アスランが思わず零してしまったから知っていたのである。 故に現時点で知っているのは両親とアスラン、カガリ、ラクス、そしてアークエンジェルの現ブリッジクルーのみ。サイやミリアリア、ディアッカ達ですら知らない。 故にいくら議長とて、キラがプラントのマザーに侵入し情報を得ているなど思いもよらないだろう。むしろ勘付かれては困るのだ。 「君、前科があるんだし」 「・・・・・・・すまない。約束する」 アスランも議長に・・・と言うより、犯罪に煩い軍連中全員に知られてはいけない事などわかっているので、殊勝にも頷いたのだった。 (あとがき) アスランへの説明を先に持って来ました。彼の性格を考慮したら修正前の順番はあり得ないですし。 以降の道筋は修正前と同じ。シンとバトってアスとバトり、付け足しでレイとも色々あって漸く謎の女の子(誰でしょうね、むふふふふ)の登場です。 H18.11/26 加筆修正
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