『海とか、市場とか、花火とか・・・。“外”には、きれいなモノが沢山あるんだよ?』 そう、遠くを見るような瞳で語る彼が悲しそうに見えて、今にも消えてなくなりそうなくらい、儚く見えて。 どうしても“ココ”につなぎとめておきたくて、必死に彼の裾を握り締め、言葉をつむいだ。 『 よりも?』 その言葉に、まさか自分と比べられるとは思わなかったのか、彼は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに柔らかく微笑んで、答えてくれた。 『もちろん。比べ物にならないくらい、きれいだよ。・・・いつか、見に行こうね。』 そのあたたかな微笑みが嬉しくて、自分の顔にも自然と浮かぶ笑みを自覚しながら、言葉を返した。 『うん!』 と。すると、私の顔を見て何を思ったのか、急に泣きそうな微笑みに変えた彼に、どうしようもなく不安になり、裾を握り締めていた手に力を入れて、泣きそうな声で、言葉を続けた。 『・・・ も、一緒だよね?』 その時はもちろん、貴方もこうやって私の隣にいてくれるんでしょう? その、私の足りない言葉でも、しっかりと意味を汲み取ってくれたらしい彼は、私の頭を撫でながら、ちゃんと答えてくれた。 『もちろん。僕も、君も、アウルも、スティングも一緒に。皆で、見に行こう。・・・“皆”で。』 心なしか強調された“皆”という言葉を、怪訝に思わなかったわけでもないが、微笑んだまましっかり約束してくれたことが嬉しくて、それはあまり気にせず、彼の体に飛びついて言ったのだった。 『うん!約束だよ!』 もう、顔の造作も、名前も思い出せない。確かに親しかったはずなのに、すでにこの場面でしか思い出せない、「彼」。 その思い出にすがりつくように、ステラは初めて見る海を、迎えがくるまで、身動きひとつせずにじっと、見つめていた。 ―――今隣に、彼はいない。 「・・・うそつき」 無意識に呟かれた言葉は、波の音に、虚しくかき消されたのだった。 紫鬼 〜第伍話〜いきなり襲ってきた者たちの体から、一本一本丁寧に自分の苦無を抜き、それについていた血を刺さっていた者の服で拭く。 その、キラのやけに慣れた仕草を見ながら、レイはたった今起こった出来事を思い返していた。 軽やかな立ち回りで黒装束の連中を翻弄し、必ず一撃で仕留めていくキラ。血なまぐさく、誉められる行動でもないのに、その動きは神舞を舞っているかのように清廉で、美しかった。 そして、その動きに目を奪われている間、時間にしても1分となかっただろう、その短い時間のうちに、この南のふもとで動く者は、キラとレイしかいなくなっていたのだった。 そこまで思い出して、ふと思う。レイが見た場面だけでは、苦無を利用しての急所攻撃しかしなかったが、山済みにされている死体の大半は、頚骨を折られて死んでいるのだ。 あんな細腕のどこにこんな力があるのだろうか・・・と、意味もなく首を折られた死体を見ていると、キラが苦笑しながらレイに声を掛けた。 「珍しい?」 と。それに、「いいえ。」とだけ答えると、キラは「そう?」とクスクス笑いながら言って、山積みにされた死体に近づいていった。 忍という職業柄、死体が珍しいという事はないと思ったが、レイの無表情の下の不思議そうな雰囲気を感じ、何を思っているのかが気になったのだ。 彼が何を見ていたのか、好奇心も手伝ってその視線を追うと、そこには首を折られた死体が。言わずもがな、キラによって殺された者である。 その事実に我知らず眉を顰めていると、視線をキラに移したお陰で、その憂い顔を見てしまったレイの口から、言葉がこぼれた。 「・・・・・・どうかしたんですか」 と。キラは静かに笑い、それ、僕の質問だったんだけどな。と言って、レイと同じように、「なんでも無いよ」と、否定の言葉を吐いたのだった。 だが・・・、顔には出さずに自嘲する。 自分は、レイが登場してくるまで、紛れもなく、 ジブリール帝国の忍集団・・・通称ブルーコスモスは、必ず体のどこかに青い鉢巻をつけるから、一目見たときにすぐ“そう”だとわかったのだ。 そして、それを殺す機会に恵まれたことを、我知らず歓喜していたのだった。 (病んでいる・・・。) レイの存在で、その事実にすぐに気付き、気を引き締めて動いたが・・・。危なかったと、思う。 この先きっとまた、ジブリールからの刺客が現われる。 その時自分は、果たして正気でいられるだろうか。 ・・・暗い思惑に、囚われずに済むだろうか。 そんなことを考えていると、レイが「大丈夫ですか」と訊いてきたので、キラは曖昧に頷いておいた。 それに、無表情を装いながらも、怪訝そうな、それでいて心配そうな瞳を返すレイに、訳もなく少し嬉しくなり、「別に、表情を殺さなくっても大丈夫だよ?」と苦笑交じりに言えば、彼は予想以上に大きな反応を返したのだった。 強張り、目を見開いた、信じられないモノでもみるような・・・というか、鳩が豆鉄砲をくらったときのような顔を向けてきたのだ。 今までが無表情だっただけに、その反応にちょっとびっくりしていると、山の方から、「クルッポ〜」という、鳩の鳴き声が聞こえた。 内心、凄い、本物の鳩が出てきた・・・!噂を(してないけど)すれば影ってやつ?などと思っていると、肩にわずかな重みが乗ったのに気付いた。 はっとそちらに目を向けると、なんと純白の鳩が、人懐っこくキラの肩の上で羽を休めていたのだった。 いきなり肩に乗ってきた鳩に、目を見開き、驚きを露にするキラを呆然と見ながら、レイは混乱する思考を整理しようと奮闘していた。 「表情を殺さずとも、よい」 そういわれたのは、これが二度目だ。 一度目は、数年目前に、頭領から言われた。 その時は、亡き父の言い付けと全く異なる言葉を掛けられ、ただその言葉を否定する事しか出来なかったが、今のこの、心境はなんだろう。 頭領に言われた時には湧かなかった感情が、今、レイの頭を占めていた。 いいのだろうか・・・。感情を表に出して、いいのだろうか。それは、許される事なのだろうか。 取り留めのない疑問が渦巻く中、唐突にキラが鳩から視線をレイに戻し、言った。 「いいんだよ。シンだって、僕だって、普通に驚いて、笑って、泣いて、悔やむ。いいんだ、感情の抑制とか、そうゆうのなんて、必要な時だけすれば。」 今は、全然必要じゃないよ。 そう、レイの心を見透かすように言って、穏やかに笑うキラに、レイも、意識せずに顔の筋肉を動かした。 柔らかで、ささやかな微笑。 それでも、キラは満足に思い、また、笑った。 レイの様子で、彼が無表情だった理由を粗方悟った。 きっと、何かが彼の足枷となっていたのだ。 元は、「レイって優等生の鑑っぽいし、仮にも教官の前にいるのだから、昔の慣わしに則って、“忍らしく”表情を抑えてるだけなのかな」、とか思っての言動だったのだが、実はそんな表面上のものなどではなく、結構根の深いものだったらしい。 自分の言葉に過剰に反応し、まるで許しを請うような小さな声で呟かれた言葉が、それを語っていたのだ。 きっと本人は、その言葉を口に出していた事を自覚していなかっただろうけど。 それでもキラは、自分の言葉で、レイが“何か”から救われたことを悟り、とても嬉しくなったのだった。 そうして、何だか(死体のゴロッゴロ転がっているような)場所に似合わない穏やかなムードにいい加減焦れたのか、今までおとなしくキラの肩でくつろいでいた鳩が、いきなり羽を広げ、キラ達の頭上高くに舞い上がったのだった。 それを見、キラは慌てて口を開いた。 「ゴメン、トリィ!!悪気はないんだ!」 と。 そう、この純白の鳩は、キラの愛鳩(?)、トリィであったのだ。 いつも、何時の間にかいなくなって、でもちゃんと仕事はして、必ず最後には帰ってくるから放し飼いにしているので、今ココに現われても別段おかしくはないのだが、流石にいきなり登場されると驚いてしまう。 そのことを怒っているのかと思ったが、どうやら違うようだ。トリィはしばらくキラの頭上で旋回し、一度鳴くと、また山の方へと戻っていってしまった。 それを見とめると、心なしか眉を顰め、キラはレイに声を掛けた。 「レイ、シンに何かあったみたいだ。」 と。それに、怪訝そうな顔をするレイに、内心良い変化だ、と思いながらも、トリィの向かった方向へ走り出す。 レイが着いてきているのを確認しながら、キラは説明を始めた。 「あの鳩はトリィって言ってね。僕の友達なんだよ。」 それから、そのトリィの姿を見失わないように、上を向いて木々を渡る。 「トリィは驚くほど頭がいいから。シン関係でないにしても、僕らを“どこか”に連れて行く必要性があると感じているみたい。だからああやって時折旋回して誘導しているんだ。」 そう言って、言葉を切った。 どうでもいいが、あの鳩、なんか人間離れならぬ鳩離れしていないか?鳩ってあんなに速く飛べただろうか。あんなに頻繁に旋回できるほど身が軽かっただろうか。 そんな事を考えながら、レイはただ、キラの背を追っていったのだった。 「おぃ、シン?聞いてるのか?」 「はいはい、聞いてるよ。で、何だって?」 「聞いてないじゃないかよ!だから、キラとはどれくらいの付き合いだよ?」 「今日一日のお付き合いだよ・・・。」 「一日ぃ?浅いなぁ。てかさっき師範っぽいとか言ってたじゃんか!」 「今日から師範っぽい人になったんだよ!・・・てかなんで俺はこんなことしゃべってんだ!!?」 「・・・元気だなぁ・・・。」 5分ほどトリィについていくと、上のほうからシンと、少女のものらしき声が聞こえて来た。 何故一緒にいるのかはわからないが、確かにこのまま南のふもとに彼女と共に下りられるのは、大変都合がわるかったので(何せ死体の山を作っちゃったから)、トリィに感謝しながらも、キラは笑いを噛み潰し、声のする方へ向かっていった。 そして、レイと視線をかわし、手ごろな木の上で気配を殺して彼らが姿を見せるのを待つことにする。 すると、それほど待たずして現われる二人の姿。 シンが少女を負ぶっているところを見ると、たぶん少女が負傷したかなんかで、シンが運んであげてるんだな、と、彼らのこの状態を想像しつつ、木の上から声を掛けた。 「シン、お疲れさま。」 と。 すると、すぐさま自分に向けられる二つの顔。何故かどちらも蔓延の笑顔を浮かべている。 何気に、少女をおぶりながらも、まだ目隠しを取っていなかったシンに、「意外に律儀な子だったんだね」なんて少々失礼なことを感じてしまったのは、この際内緒だ。 それはともあれ、おぶられている少女。 彼女の顔は大変見覚えがあった。 「か、カガリ!?」 何故こんなところに、と驚き、彼女の名前を呼ぶと、彼女は更に笑みを深くし、言った。 「キラァ〜v会いたかったぞっ!!」 と。 シンは内心、こいつら知り合いだったのか、と思いながらも、漸くこの少女から開放されることを嬉しく思い、妙に弾んだ声でキラの名を呼んだ。 「キラさぁ〜ん!!」 ・・・と、少々間延びした声、というか、キャラが壊れ始めてきているのを感じさせる声になってしまったのは、この際目を瞑ろう。 そんなハート乱舞の幻想が見えそうなふたりの様子に少々引きながらも、キラは木から飛び降り、彼らに近づいていった。 「や、やぁ。シン、目隠しもう取っていいよ。カガリは、立てる?」 そう言いながら軽々とカガリの体をシンから引き寄せ、彼女の体を抱っこし、顔を近づけて微笑みかける。 カガリも嬉々としてキラの首に腕を絡ませ、「残念だがな、完全に足をひねった」と言って笑いかけた。 「ちょっと待ってくださ〜い。なんですかあのラブラブオ〜ラ。どうゆう関係だよ、あの人たち〜。」 「いや、ラブラブオ〜ラと言うより、親子のような兄弟のような・・・全く色気を感じさせない気がするのだが。」 たしかにね〜。更に謎だな〜、おぃ。 とゆうかその間延びした口調止めろ。 あいつと数時間でも過ごしたの、マジで疲れたんだって〜。しょうがないだろ〜? などと、少年二人が密かに言葉を交わしていたのは、カガリもキラも、綺麗さっぱり無視したのだった。 一通り再会のスキンシップと、それによって返される少年らの反応(ぇ)を楽しんでから、キラは少年ら二人に、カガリの紹介を始めた。 「彼女は、カガリ・ユラ・アスハ。オーブ連合国の姫様だよ。」 と。 「「・・・・・・・・・・・・・・・は?」」 そりゃもう見事に、初めてレイとシンの声がはもった瞬間であった。 ―――血のような、赤。 昼間はあんなに青く、キラキラと光っていた海は、今は水平線に沈む夕日のせいで、血のように真っ赤に染まっていた。 それをぼーっと見ながら、ステラは自分に向かってくる二組の足音を耳に止め、ちらりと音のする方に視線を向けた。 「お、いたいた!ったく、ど〜こ行ってたかと思えば、こんなところにいたのかよ!」 アウルが不機嫌なのかそうでないのかわからない口調で、ステラをからかうように掛ける声を聞きながらも、彼女は全く反応を返さなかった。 それに拍子抜けしたように、アウルはため息をひとつこぼし、スティングに向けて、「どうにかしてよ、これ」と言った。 するとスティングは苦笑いを返し、ステラに近づきながら、言った。 「ステラ、早速次の仕事が舞い込んできたぜ。 次のターゲットは・・・よくわからんが、あのおっさん曰く“鬼”らしいぞ。 サザーランドの隊がそいつを殺そうとしたら、返り討ちにされたらしい。運良く見つからずに逃れてきたヤツからの情報だから・・・ておい、聞いてるのか、ステラ!?」 スティングの声を聞きながらも、やはりステラは反応を返さず、ただただ海を見つづけていた。 ・・・こうしていれば、いつかはあの思い出の彼が、迎えに来てくれるような気がして。 その日の内に、少年少女三名は、その地を旅立った。 彼らの負う仕事は全て、厄介な相手の暗殺。 その成功率100%の彼らは、国内でも知る者は極端に少ない、ブルーコスモスとはまた違った極少数の忍集団、ファントム・ペインの一員だった。 (あとがき) スランプ突入っすよ・・・。なんか上手く書けない・・・_| ̄|○|| 本編では、レイキラレイ・キラカガ・キラ←ステラな感じにしちゃいましたけど。 ・・・連載当初の予定では、レイもカガリも全くでない感じだったのですよ。 最近レイの株が(私の中で)上がりに上がり、彼の出現率に反比例して少なくなるシン君の出番を増やすため、カガリに出てきてもらいました。 でもキラカガ嫌いな人多いからな〜。反応がこっわいぞ〜。(汗笑 でもでも、カガリとはあくまでも「友愛」「親愛」の類であり、「恋愛」ではないのですYO! だから安心してください!(?) |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||