「と、いうことで。とにかく今日はもう、早いけど宿を探しちゃおう。」

カガリの足、早く治療したいしね。
そう言って穏やかに笑う青年に、反論をする者はいなかった。

だって背後に黒のオーr(自主規制



紫鬼 〜第陸話〜





 ところ変わって街に下り。キラたちは一番最初に目に付いた旅籠屋はたごやを、今日の宿と決めた。

さすがザラ君国というのか、街のはずれにあるにも関わらず、品よく、清楚で、広大な敷地をもつ旅籠屋であった。

の、だが・・・。


「これは、ちょっと広すぎるだろ・・・。というか、俺にはちょっと・・・敷居が高すぎだと思うんだけど。」


旅籠屋の番頭に自分達の部屋へと案内させた後、シンが居心地がわるそうにそう呟いた。


 そう、一番最初に目をつけた旅籠屋・・・それは、いわゆる○○御用達ごようたしという類の、有りたいていに言っちゃえば高級旅館と言うヤツで、今まで忍ぶる者として生きてきたシンはなんだか落ち着けないのだ。

更に、先程玄関で告げられた一泊の宿泊費にも肝を抜かされた思がした。


「一人一泊食事付き●万円・・・。あの人、儲かってんのかな・・・?」


キラがその値段を聞いてすぐ、考えるまでも無い、とでも言いたげに頷いた様子に、倹約生活を迫られていたいたいけな少年(?)シンが、ついついそのような疑問を持ってしまっても仕方が無いだろう。

そんな風に部屋の大きな窓から見える広大な庭先の、更に背後にある夕日を眺めながら黄昏たそがれていたシンに、同室となったレイが声を掛けた。


「おい、何を黄昏ている。キラさんが俺達を呼んでいるぞ。」


そう言うなりいつもの無表情で部屋を出て行こうとするレイをボーっとしながら見送っていると、レイは部屋の出口で唐突に立ち止まり、はぁ、とため息をこぼし、呆れたような顔でシンを振り返った。


「・・・部屋を知らないだろう。ぐずぐずしてると、置いていくぞ。」


そう言って、今度こそ部屋を出て行ってしまう。

 レイだって自分と一緒に部屋に案内されたのに、なんでこいつだけキラさんの部屋を知っているんだ。ぁあ、しっかり者のこいつの事だから、ちゃんと別れる前に確認しといたんだろうな・・・。って、待てよ?


飽和中の頭の中でシンが自問自答を繰り返していると、不意に脳裏を掠めた違和感があった。

 そして本能の赴くまま、つい先程の出来事を脳内で再生してみる。

はぁ、とため息をこぼし、呆れたような顔でシンを振り返った。

―――呆れたような顔でシンを振り返った。


―――――――呆れたような顔


「あ、呆れたような顔ぉぉおおお!!??」

あの無表情のレイが、綺麗だけど顔の筋肉動かないんじゃないかってちょっと心配させられたあの、レイが!!?


「・・・君、それはちょっと失礼だと思うよ・・・。」

と、信じられない思いで何度も何度も恋する乙女のごとく「レイの“表情のある顔”」を脳裏に再生させては叫んでいたところで、不意に耳に心地よい声がシンに掛けられたのだった。

そこで漸く我に返ったシンは、開け放したままの部屋の入り口付近の壁に寄りかかり、こちらをじろりと見るキラを見るや否や、思わず言葉を失ってしまった。


 だってまたあの黒いオー(自主規制?



・・・とにかく。キラは固まったシンを一瞥し、自分の部屋のある方向だろう方を向いて口を開いた。


「まぁ、いいよ。僕も君に言わなきゃいけない事があったし、この状況は喜ぶべきなのかな。」


と。そう言うなり、キラは扉を閉め、シンの方にずんずんと向かってくる。

そして彼は、勝手にそこら辺にあった椅子に座った。それからシンを一瞥し、視線で席につくように要求したのだ。

呆然とその指示に従い、ヤケに柔らかい椅子に腰掛け、シンはおずおずとキラを見る。


(レイが呼び出し・・・って言ってから、もう、(いつの間にか)結構経ってるよな・・・。やっぱ、怒ってる?)

 なんだか、怒られ方はきっと今までのどの師範よりも恐いんだろうな・・・(だって黒のオ)などと思っているので、ついついびくびくとしてしまう。

そんなシンを、キラは彼の思惑とは逆に、必死に笑いをこらえて見ていたのだった。



 レイ一人で部屋に来たから、シンはどうしたのか、と訊ねたら、「部屋で一人黄昏てます。」と答えられたので、面白がって見に来たのだが・・・。

予想に反し、黄昏てる・・・というより、頭を抱えて叫んでいる少年がいたのだった。
 あれは微妙に面白かった。感情の起伏が激しい子だな、と微笑ましくもあるのだが、いかせん、今はそんな事を考えている暇は無いのだ。

「シン・アスカ、落ち着いて。先程も言ったとおり、言わなくてはいけないことがあるんだ。」

 先程のブルーコスモスの襲撃のことだ。彼には知っていてもらわねばなら無いのだ。

しばらくして、よやく落ち着きを取り戻したような少年を見、キラは口を開いた。

「さっきジブリールの忍集団に襲撃された。で、不覚だけど、一人逃がしちゃったみたいなんだ。」

と。

それは間違いなく、・・・最高で最悪の不覚だった。
 気付いた時にはすでに気配は遠く、また自分も回りに群がる男達を相手にしなければならなかったので、そちらの方にまで手が回らなかったのだ。

男達の始末の後に跡を追おうかとも思ったのだが、曲がりなりにも精鋭ぞろいと名高いブルーコスモス。片がついた時には逃げた者の気配はすでになく、諦めるしかなかったのだ。


それを思い出すと同時に感情という物が一気に凍りつくのを感じながら、だがそれをシンには悟らせずに、そこら辺の旨を教えた。

すると、彼は先程の子供のような顔は止め、眉根を寄せた真剣そうな顔でしばらく考えるそぶりをした後、吐き捨てるように言ったのだ。


「じゃぁ、新たな追っ手が来る・・・?」

「確実だね。ブルーコスモスの間では、僕の顔を知る者も多い。目隠しをしてたけど、気づく者は気づく。・・・勘でしかないけど、多分・・・逃げたやつは、僕の顔を知っていたんじゃないかな。でなければ、真っ先に逃げるなんてこと、無いはず。」


そう憎々しげに呟くキラを見ながら、シンは自分の思考に沈んでいた。
 まず始めに、何故ブルーコスモスに顔が知れているのか、と思ったが、「紫鬼」は様々な国で活躍しているというから。自分の一族ともつながりがあったようだし、別段おかしくもないか、とすぐに思い直す。

 だがそう思い至ったと同時に、シンの胸中に生まれ出た感情があった。


それは紛れも無い・・・・・・、“憤怒”という感情。


「何故・・・。」

不意に、いつの間にか俯いていたシンから低い声が発せられた。

キラはそれを耳に留め、自らもいつの間にか俯けていた顔を上げる。

と、その次の瞬間。


彼の目の前を通る鋼の残像と、特有の空気を切る音が聞こえたのである。


 それを感知した途端、キラの体は勝手に動いていた。

 一瞬後には先程までのシンとキラの位置は摩り替わり、シンはキラの座っていた椅子側に移動させられていた。

そしてその首には、いつの間にか取り出されていた、背後に回ったキラの苦無が僅かに食い込んでいたのだった。

 シンの両手は持っていた苦無が振り落とされた挙句、後ろ手に掴まれていて、足もいつの間にか膝をつかされていた。


・・・いったい何が起こったというのだろうか。

キラは反射的に動いた自分の体に呆然としつつも、すぐに我に返って何があったのか分析する。

しかし考えるまでもない。シンはいきなりキラに苦無の刃をつきたてようと・・・その命を奪おうとして、見事反撃されてしまったのである。



――――自分の攻撃は完全に相手の意表をついていた。

シンは屈辱的な格好のまま唇を噛み、内心でそう呟いた。

なのにかわされた攻撃、見えなかった反撃。

これほどの腕を持つ人物は、確かに尊敬に値する。


だが、


「何故、ジブリールとまで繋がる必要がある!!?」


そう、シンにはそれが何としても許せなかったのだ。


何故、あんな国の有益になるようなことをする。
何故、何故、何故!!!!


何故、ジブリールの味方をするのか!!!?



―――――あんたは、俺の敵なのか!!!?



 苦無を引き下げてシンの体を開放し、キラは彼の慟哭に似た疑問を、彼にしては珍しく呆然と聞いていた。


「・・・・・・ジブリールの、みかた・・・?」


そして彼は、シンの言葉を反復して呟き、不意に



笑った。



「ぼくが、ジブリールの、みかた・・・?」


キラはやけにおぼつかない口調で、しかし口元には笑みを・・・焦点の合わない目で、何処か狂ってしまったような笑みを浮かべて、もう一度言ったのだ。

振り返ってそれを見、我を取り戻したシンは、キラの異常な様子に呆然と「キラさん・・・?」と呟いた。


すると、自分を呼ぶ声に気付いたのか、キラもはっと我に返り、口元に手を当て、慌てたように口を開く。


「ごめん、ちょっとシンが天地がひっくり返っても、すっぽんが月になってもありえないような事、言うから・・・。動転しちゃったよ・・・。」


そう言って彼は、おどけたように笑った。

それからすぐに、キラは真剣そうな顔で言ったのだ。

「シン、僕がジブリールの味方なんて、ありえないから。ちなみに多分君の思い至ったであろう“紫鬼”の経歴だけど。ただの一度も、僕はジブリールのために動いた事はないし、味方になった覚えも無いよ。むしろすっごい僕、あそこに嫌われてるし、暗殺命令も出されてるから。」

口を挟む隙間も無い、ものすごいスピードの反論と途中含まれた嫌悪感も露な口調にに、シンは漸くキラの言い分を信用することが出来た。


―――――顔を知られていたのは、暗殺命令が出されていたため・・・。


その事実に、シンは心底「よかった」と思い、ほっと安堵の息を吐き出したのだった。



そんなシンを見、キラは内心苦笑した。

 未熟な子供。

だが、深い悲しみと絶望を知る、子供・・・。

そしてそれを、多分彼は怒りで、覆い隠そうとしている。





『殺してやる・・・・・・』




不意に脳裏に浮かびあがった自分の声に、キラは一瞬体を強張らせた。




『殺してやる、皆、皆・・・! ジブリール・・・!! ジブリールの奴等、一人残らず・・・皆殺しにしてやる・・・・・・!!』




 それからふと頭をよぎった銀髪の青年に、キラは体の力を抜き、もう一度苦笑したのだった。


 どうやら、シンの“敵”とやらも、その経緯も、自分たちは同じらしい。

嫌な偶然だ。

だが。

自分の姿と重なる少年の、「これから」が少し、気になった。



「・・・ほらシン、立って。ごめん、首、血が出ちゃってる。」


そう言って、いまだに座ったままのシンに、手を指しのべる。

シンはその親切を素直に受け取り、差し出された手を取り、立ち上がったのだった。







「おぅ、遅かったな・・・て、シン!?」

キラに続いて部屋に入ってきたシンを見、カガリは驚いたように立ち上がった。

「首! 怪我してんぞ!? 何かあったのか!!?」

そう言って、先程自分も使った救急箱を取り出し、シンに傷の手当てをしようとする。

だがそれは、キラによって止められてしまったのだ。

「いいよ、カガリ。そんなことシン本人にやらせれば。」

という、なんとも冷たい言葉によって。


「「え・・・?」」


キラってこんなこと言うようなやつだったっけ?

そんな事をシンとカガリが思っていると、キラは穏やかに笑って言う。

お仕置きだよ。シン、治療した後、僕とレイの苦無と刀、それからカガリのナイフも、磨いといてね。その後、ご飯とお風呂、入っていいから。」

「・・・は?」

未だ呆然とした感のあるシンに、レイが声を掛けた。

「その首の傷、もしかしてお前が原因で・・・キラさんにつけられたのか?」

と。


――――って、あれ??


「「おっお前、いつからそこに・・・!?」」

「・・・キラさんがこの部屋を出てってからずっと、ここにいたぞ。」


そう、先程まで全く姿が見えなかったレイは、なんと一緒にいたカガリにも気付かれず、ずっとキラの部屋の壁に寄りかかって立っていたのだ。


「お前・・・綺麗な顔してるくせに、存在感ないな・・・」

「・・・カガリ、彼ずっと、気配を消してたんだよ・・・。気付かなくて当然。」


と、始めから気付いていたキラが、苦笑と共に一応彼のフォローを入れた。

レイはカガリの護衛として置いてきたのだ。忍の護衛方法は、身を隠しての対処なのだから、気配に気付かなくて当たり前なのである。

ちなみに、護衛の件は意図的に伏せてしまう。そんなこと、彼女が聞けば憤慨するだけなのだから。


だがそんなフォローをされてしまったレイはカガリの暴言など気にせず、シンにもう一度、静かに訊ねた。


「どうなんだ?」


するとシンは、気まずげに視線をそらし、無言で顔を俯けてしまったのだ。

それを更にレイが追求をしようとしたが、キラが止めた。

「そうだよ」

と、肯定の言葉を返したのである。

だがそれを聞き、レイがシンに叱咤の声を上げるよりも、シンが顔を上げるよりも早く、キラは言葉をつなげた。


「でもま、今回はさっき言った通り、武器の磨き上げで許すよ。・・・けれど、次はないと思いなよ。」


そう言って、殺気すら交えた視線をシンに向ける。

そしてこれは同時に、レイに対する牽制でもあった。罰は与えるのだから、もうこれ以上責めてあげるな、と。

 それを受け、シンば真顔で頷き、レイはキラの優しさに苦笑して、それからしっかりと頷いたのだった。


それを見とめ、キラは一変して笑顔で、カガリとレイに言う。


「さぁ、僕らはとっとと風呂に入っちゃおう! ここ、たくさん温泉があるらしいし! カガリ! 僕と一緒に温泉巡りしよう!」


と。

それを聞いて驚いたのはシンとレイだ。

やっぱり、そんな仲なのか・・・と、僅かに涙を滲ませて邪推してしまったそんな時。


「・・・君らね・・・、僕ら従姉弟いとこだよ?変な想像しないでよ・・・。」


という、キラのちょっとうんざりした顔と、カガリのしてやったり、という顔が、少年たちに向けられていたのだった。






(あとがき)
 建物とか、何式?とか聞かないでくださいネ・・・。(汗
未知の世界です。和洋折衷なんです。ホテルっぽくても番頭さんがいるし、ふかふかのソファーっぽい椅子があっても旅籠屋さんなんです。
そこら辺は、笑ってスルーしたってくだせぃ・・・(泣

そして、今回の「黒の・・・(以下略)」は全て、シン君のセリフとお思いください。
ちょっとくどかったかしら?(苦笑

さてさて、話はだんだん沼にはまっていきますよ・・・!(ニヤリ



     
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