周りを囲むのは、黒尽くめの男達。 二十人を軽く越すそれらに囲まれながら、キラはただ、「守らなければ」という思いで剣を振るっていた。 背後には、未だ状況を理解できてはいないのだろう、赤髪の少女が呆然と立っている。 「彼女だけは」という一心で、キラは後先考えずに、彼女に向けられた剣先を弾いた。 そのせいで、彼自身の防御はおろそかになってしまったのだった。 ―――案の定、 彼女に向けられた剣先を弾いたと同時に、キラの腹に何かが食い込んだのだった。 『・・・っ・・・・・・!』 途端に感じる鋭い痛み。 ちらりと視線を向ければ、わき腹に苦無が刺さっていたのだった。 キラに苦無が刺さった途端、男たちは不思議とそれ以上の攻撃を加えることはしなくなった。 不自然な静寂の中、キラは剣を持っていないほうの手で苦無を抜き、投げ捨てた。 途端にあふれ出てくる赤いモノ。 だがそんなモノは気にせず、キラは剣を構えなおし、彼女に小さな声で言った。 『僕がなんとかこの人たちをひきつけるから、君はその隙に逃げて。』 ―――出血のせいだろうか?・・・頭がくらくらする。 言葉をかけられたことで漸く我に返ったのか、彼女はキラの状態を見て、驚いたように言った。 『キラ!?あなた、傷だらけじゃない・・・っ。わ、私はほっといて、あなたが逃げなさいよ!キラ一人なら、出来るでしょ!?』 その大声に、もうちょっと状況を把握してほしかったな、と内心思いながら、キラは彼女に微笑みを向けて言った。 『ほら、やっぱり君は優しい。でも悪いけど、僕は逃げるわけにはいかないんだ。・・・だから、ね?』 この男達の狙いは、どう考えたって自分だろうから。 装束から忍だということはわかるが、どこの者なのかとか、目的はわからない。 だが、自分が標的である事だけははっきりしているから、尚更この場から逃げる事はできないのだ。 でももしかしたら、君は見逃してもらえるかもしれない。 そんな、望み薄だとはわかっていることを考えていたのだ。 『あなた、やらなきゃいけないことがあるって、言ったじゃない!こんな、こんな所で・・・!』 どうやら、彼女は自分がここで刺し違える気があるのを、悟ってしまったようだ。 それに苦笑し、キラは剣を握ったままの手で彼女を抱きしめ、言った。 『うん。僕だって、諦める気はないよ。・・・君に、城へ応援を呼んできて欲しいんだ。』 そして更に、彼女を抱く力を強める。 数秒後、唇をかみ締めて頷く彼女を見、キラは安堵して、笑った。 ――――――自分の状態を、悟りながら。 息が苦しい。血の出が激しい。 苦無には、毒が塗ってあったようだった。 紫鬼 〜第漆話〜まだ薄暗い中、キラは雀の鳴き声を聞きながら、目を覚ました。 目覚めは、これ以上ないほどに悪い。 内心悪態をつきながら体を起こせば、腹の古傷がズキンと痛んだ。 思わずそこに手を置くと、滲んでもいない血の幻が見えたのだった。 それに我知らず自嘲し、キラはベットから足を下ろしたのだった。 「おはよう。レイ、シン。」 彼らの部屋へ行けば、レイとシンが、それぞれ自分の装備の点検をしていた。 その姿に微笑し、キラも己の装備品を床に広げる。 一応、キラが何をしているのか知られてはいるものの、彼は極力カガリに人殺しの道具を見せたくなかった。その旨を昨夜の内にシンとレイに言っておいたので、彼らは特に驚きも見せず、キラを迎え入れたのだった。 「おはようございます、キラさん。」 「おはようございます。」 そう言う彼らに頷きで返し、キラは静かに、苦無を投げた。 ・・・・・・・・・え? と思う間もなく、キラが投げた2つの苦無はレイとシンの鼻を掠め、直線上にあった壁に突き刺さったのだった。 それを見、それからギギギ・・・と油を長年注していない機械の如き擬音がしそうな動きで、少年二人はキラに視線を戻した。 するとそこには、美しい顔で、にっこりと微笑みかけてくる少女のような青年が一人。 それだけ見れば、彼が全く無害な人物であろうと錯覚してしまいそうになるが、実際は無害どころが・・・いや、無害なんだけど命の危険を感じちゃう人物なのだ。 それは、笑顔のまま彼の手がまた苦無を取り出そうとしているしていることからもわかってしまう。 それを見、シン達は我を取り戻すと、キラの手が新たな脅威を放る前に口を開いた。 「き、きききキラさん!?おおおおおおお俺達、何か貴方様を怒らせるようなことしましたっけ?」 「・・・・・・・・・シン、とりあえず落ち着け。」 ・・・レイはどうやら、シンよりは冷静だったようだ。 まぁそれは性格かな、と思いながら、キラは苦無から手を引いてシンの質問に答えてやることにする。 「何もしてないよ。これは、第二ステージ。」 すると、その言葉に疑問の視線を向けてくる二人に苦笑し、キラは続けて言った。 「はっ。まさか、カガリがいるからって指導が無くなったなんて思ってるわけないよね?」 ((・・・・・・・・・今、「はっ」って言った、「はっ」って。・・・鼻で笑われた・・・・・・・・・!?)) 会って今日で二日目、すでにお馴染みとなってしまった黒いオーラを浮かべたキラに怯える少年達の内心は無視し、キラは尚も続けて言った。 「今日からしばらく、今みたいに不意打ちでモノ投げるから。そうだな、・・・苦無は取りいくの面倒だし、適当に小石を拾って投げることにするよ。最初はわざとゆっくり外側狙ってあげるけど、最終的には見えないくらい速く体のど真ん中に当てるから。もちろん苦無でv」 その言葉に思わず「鬼ぃっ」と小さくシンが呟くと、間近にいたお陰でそれを聞き取れたレイが、「・・・そう言えば、あの人を初めに“鬼”って呼んだの、誰だろうな」と遠い目で呟いたのは、蛇足である。 キラはそんな彼らの様子もさっぱり無視して、一通り装備の点検が出来たのか、ホルダーに苦無や釘のような物(初対面でレイ達を貼り付けにしたアレだ)や、太い針のような物を次々と差していったのだった。 それを何とは無しに見ていたレイが、不意に声を発した。 「それは・・・・・・!?」 その声にキラが手を止めてレイを見ると、彼はキラの手元に視線を固定し、心なしか顔を赤らめて言ったのだった。 「それは、“ シンもレイに釣られるようにキラの手元を見ると、そこにはキラキラと光る、細い釣り糸のようなものを輪状に巻いた物体が。 糸自体はとてつもなく細いくせに、随分と長いのか、巻き幅が大きいのに太さがある。それが二つキラの手には握られていた。 だが、コウシなんて名前を聞いたことは無いし、キラの手にあるものも見たことは無かった。 首をかしげるシンに「後でレイに教えてもらうといいよ」と言っておいて、尚も熱心に自分の手の中にあるものを見ているレイに苦笑し、キラは鋼糸を自分の顔の位置まであげた。 それから、微笑んで言ったのだった。 「よく知っているね。あんまりこの国では知られていない武器なんだけど・・・・・・。」 するとレイは一つ頷き、興奮を隠し切れない様子で言った。 「はい、前に頭領に見せていただいて・・・。俺には、適性があるかもしれない、と言われました。」 「へぇ、ギルさんが・・・。」 「・・・・・・使えるのですか。」 ―――「 作り方はレイも知らないが、糸のように見えて、それは肉眼では見れないほど細かいのこぎり状の刃を持ち、触れたもの全てを切り裂く性質を持つという。 普通、使用する時は特性の皮の手袋をしてから持つのだが、キラはそれをせず、素手で鋼糸のコイルを持っていた。 それは、キラが鋼糸の扱いに長けていることを意味する。 だが、鋼糸は使う人を選ぶのだ。 刃が見えないから、持つのさえ困難。訓練をしなければ、特性の皮の手袋をしていても指が落ちてしまうという。 そして、広範囲攻撃のみの使用であるから、優れた空間把握能力を必要とする。 また、鋼と言っても細いせいでひじょうに柔らかいし、刃のある位置も決まっているから、高度な技術と多大な努力が必要とされるのだ。 以上の点により、鋼糸は主人を選ぶとされ、使える人もきっと大陸中をあわせてみても、片手で足りるほどしか居ないのだとか。 そんなモノを使いこなせる人物が、目の前にいる・・・? そう思うと冷静にはいられず、確信しつつもそういった質問をしてしまったのだった。 レイのそんな様子に苦笑し、キラは頷いて答えた。 「うん、使える。・・・・・・コレは、とある国の女王陛下の伴侶殿に作ってもらったんだ。・・・女性の髪を溶かして打ち込んだのだとか言ってた。結構使い勝手がいいよ。ちなみに、使い方は仮面に教わった。」 ((・・・・・・仮面・・・・・・?)) 「うんそう、仮面。その、伴侶殿の双子の兄。どっかの国の王様だったりするんだよね、コレが・・・。」 ・・・・・・今、何気なく二人の思考を読まれちゃった上に返答されちゃった二人(顔に出すぎなんだよ byキラ)は、その事実は無かった事にして、他の点に視点を置くことにしたのだった。 「そう言えば、キラさんって何処の忍なんですか?」 と、至極もっとも、というか、何故今までそれを疑問に思わなかったのだ、と言いたくなる疑問を。 普通、忍はどの一族も必ずどこかの国家について、その国の命令のみに従うものなのだ。 だがキラ・・・否、「紫鬼」は、様々な国でその名を轟かし、ザラ君国や、今話で出てきた二つの国とも、随分と懇意にしているようだ。 また、カガリのこともあるから、オーブの忍なのか・・・?と思いもしたが、直感が違うと告げている。 ならば、何処の・・・?と考えていると、キラは残りの装備品を片しながら、あっけらかんと言ったのだった。 「誤解しているようだけど、僕、どこの忍一族の生まれでもないから。僕はもともと、ただの城仕えの武士だったんだよ。」 そう言って、武器の納まったホルダーを体にくくりつけ、立ち上がる。 「・・・それじゃ、部屋に戻るから。朝ご飯は一緒に食べようね。」 その言葉と共に、一瞬向けられた瞳と、弧を描く唇。 それは、言葉の内容とは正反対に、獰猛で、それでいて冷たい光をたたえていたのである。 その、殺気さえ漂う様子にシン達が硬直している間に、キラはとっとと部屋から出て行ってしまったのだった。 「これ以上検索するな、ってことかな・・・。」 最後のあの笑みは。 そうシンが呟くと、レイは無言で頷き、何時の間にか中断されていた作業を再開し始めた。 それを何とは無しに見、シンはキラが出て行ったドアに視線を戻すと、「・・・気になる」と口の中で呟いたのだった。 いつかは必ず聞かれると思っていた質問。 でも、いざ聞かれると少々辛いものがあるのだ。 キラは一瞬甦った記憶に一つため息をつくと、思考を振り払うように目を瞑り、頭を振った。 目の前には、カガリの部屋に続くドアがある。 ゆっくりと目を開き、キラは意識して微笑を浮かべ、そのドアをノックし、返事を聞く前にあけたのだった。 「――――――おはよう、カガリ・・・・・・。」 ―――苦しい。 暗転した視界の中、荒い息を吐いて。 キラは冷たい地べたに押し付けられていた。 立たなければ、と思って体を動かそうとしたが、虚しくも、指がわずかに土をえぐっただけだった。 それを見、キラを押さえつけていた男が言った。 『まだ動けるのか・・・。・・・・・・いったい、こいつに何人 『先日の分も合わせれば、10人丁度です』 『こんな忍でもないガキに・・・、いったい、何なんだ、こいつは。』 『・・・・・・女は、どうしますか。』 『追え。まだそう遠くには行っていないはずだ。・・・何かに使えるかもしれんからな。』 その言葉に、会話を聞いていたキラが、見えない瞳を見開き、口を開いた。 『か、のじょに、・・・手を、出すな・・・・・・・・・!』 それを聞き、驚きを露にした気配を感じたが、キラは今度こそ後頭部に感じた衝撃に、意識を失ってしまったのだった。 『まさか、まだ話せるなんて・・・』 『あぁ、・・・・・・恐ろしい奴だ。それでは、薬の切れないうちにジブリールへ戻るぞ。』 『はっ』 ごめんなさい、君を巻き込んでしまった。
僕のせいで。 本当にごめん、 ――――――フレイ・・・。 (あとがき) 鋼糸・・・v 最近、ナルトの二次創作にハマりまして。いいっすよね、スレナル・・・! 主人公最強主義の私の心をチョロリ(?)と奪っていってくれました・・・!! で、話を戻せば、色々なところで「鋼糸」が使われているんですよね。 あぁ、便利だな・・・(*´ー`) と思いまして、早速採用。 「使える人が少ない」っちゅーフレーズもツボ。それを使えてこその最強!勿論キラ様は取得済みv そして漸く出ました、赤髪の魔女。 ・・・・・・ってのは冗談で、彼女は今回いい人。 フレイ嫌いな人はココでおさらばっすね(泣 コレを機に好きになってくれたりすると、ひじょうに嬉しかったりします。(まだ大して出てこないけどUu) |
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