広い、何故か虚空と虚無を思い出させる広場に、彼女はいた。


意識が無いのだろう、冷たい地面にぐったりと寝転んでいる。

 緊張で荒れ狂う心臓を意識しながら、キラは走って彼女に近づいた。

名前を呼びながらゆすり起こすと、ゆるゆるとまぶたが開いて無事な事を悟る。

そのことに安堵の息を吐きながら、いつの間にか自分達を囲むように立っている黒装束の集団を睨みつけて、言ったのだった。

「・・・・・・・・・今度は、何が目的だ。」

すでに目の前に立つ者達が、昨日自分を襲ってきた奴等と同じ組織であることを知っての言葉だ。

 彼女まで巻き込むなんて、という怒りを込め、いつもより低い声を出すと、腕の中の彼女が一瞬震えた。

 キラは安心させるように微笑みかけ、彼女を促して一緒に立ち上がる。

そして、なんの返答も返さず向かってくる相手に、応戦するべく剣を抜いたのだった。


 それからは、背後にいる彼女だけ・・を守るために立ち回った。


案の定、そんな考えの元で戦っていたら。


彼女を守るためにも決して受けてはいけなかった、


―――――――――傷を、受けた。




紫鬼 〜第拾話〜





 なんで、どうして・・・!!?

人気の少ない道を走りながら、フレイの頭の中はその疑問に埋め尽くされていた。

 何故朝起きたらいきなりキラの顔があったの。

 何故私は自分の部屋で寝ていなかったの。

 何故キラが血だらけだったの。

 私の足元に転がった、血だらけの物体はなんだったの。

 なんで、私は殺し合いに巻き込まれていたの!!?


目から涙がぽろぽろ出て来て、視界の邪魔だ。

走りすぎて息が苦しい。普段走る事なんて滅多に無いのに。


 不意に何かに足を囚われ、フレイは盛大にこけてしまった。


擦った足から血が出て、溜まらずに立ち止まって足を抱えた。

 ふと見れば、履いていた下駄の鼻緒が切れている。

それを握り締めて思い出すのは、先程の言葉だ。



『僕がなんとかこの人たちをひきつけるから、君はその隙に逃げて。』

それになんて返したかは、正直言ってよく覚えていない。


『ほら、やっぱり君は優しい。でも悪いけど、僕は逃げるわけにはいかないんだ。・・・だから、ね?』

何よ、こんな時に言う言葉じゃないでしょ?
 それに逃げられないって何。あなたが凄く強いって私知ってるわ。何を言っているの。


『あなた、やらなきゃいけないことがあるって、言ったじゃない!こんな、こんな所で・・・!』

そう、それから私はそう言った。いつだったか、城の方を見てキラがそう言っていたのよ。

 その時の キラの瞳がすごく輝いて見えて、しかも自身ありげに言うから、私は柄にも無く見とれてしまったわ。

だけどさっき、そのキラの瞳がすでに何かを諦めているように見えて。

 それが酷く悔しくて、悲しくて。

でも何処かで悟っていたの。あぁ、キラは私を逃がすために死ぬ気だ。って・・・。


『僕だって、諦める気はないよ。・・・君に、城へ応援を呼んできて欲しいんだ。』

嘘よ、うそつき。

 嘘は私の特権だわ。あなたが使わないでよ。


ホント、腹立たしい。なんて傲慢なセリフを吐くの。

なんでそんな諦めたような苦笑をするの。


なんで、なんで、なんで・・・・・・・・・・!?



「なんで私は、逃げ出してしまったのよ・・・・・・・・・!!!!!」


違うの。本当に腹立たしいのは私自身に対してなの。

 一瞬でも生にしがみついてしまった自分が、酷く汚らわしい。

キラもどこか必死で、私はためらっても結局頷いてしまったわ。

そしてこうして逃げているの。自分を助けるために。キラを犠牲にして!!


「うっ・・・、ひっく。」

あぁ、流れる涙が煩わしくて仕方が無いわ。


 ―――――――――・・・こんなこと、してる暇なんて、無いのに。


キラ、あの時なんて言っていたっけ?

『君に、城へ応援を呼んできて欲しいんだ。』

そうよ、そう言ったわ。


理性では、それはただ私を納得させるために言った言葉だってわかってる。


でも、でも!!


 キラを死なせたくないのよ!!!


震える足を叱咤して、立ち上がる。


 そのまま鼻緒の切れた下駄と、もう一方の下駄も脱いで、そこら辺に置き去りにして走り出した。


 早く、行かなきゃ。


顔をぬらす涙を拭う時間も、体を汚した泥を払う時間ももったいない。


 切れた息を整えるなんて、それこそ時間の無駄よ。


いっそこんな心臓、壊れてしまえばいいわ。



キラ、キラ、キラ・・・・・・・・・!!


 会って、もう一度会って今度こそ言うの。

「好き」って。「愛してる」って。

恥ずかしくて今まで一度も言えなかったけれど、今度こそ。

そうすれば貴方、きっと私の髪を撫でて、嬉しそうに微笑んでくれるわ。

 私、貴方の笑ってる顔が好きなの。もう二度と見れないなんて、冗談じゃないわ。



必死に幸せな未来を想像して、ともすれば崩れてしまいそうな体を励まして。

舗装されていない道は、とがった小石やガラス辺も多いけれど。

フレイは一瞬たりとも血でぬれた足を止めず、城へと走りつづけたのだった。




「意外と遠くまでいったな。だが無駄だぞ、お嬢ちゃん。」

けれど、そんな努力はその一言で無に返されてしまった。

 城はもう、目の前にあるのに。

ついに先程の黒装束に追いつかれた。そのことに絶望しかけたが、なんとか気を取り直して、腕の一本や二本くらい犠牲にしたって逃げてやる、と決意する。


だがしかし。碌な抵抗もできぬまま腹に受けた衝撃を最後に、フレイの意識は暗転したのだった。



足を血で真っ赤にして、息が出来なかったのだろう、走っていたくせに真っ青な顔の少女。


気を失った彼女を支えながら、男の内心はやるせない思いでいっぱいだった。

ジブリール国王の手紙から大体のことは察せられた。

 これからさっきの坊主とこのお嬢ちゃんを待ち受ける出来事も。


だがどうしてやることも出来ない自分への腹立たしさに、ネオは近くに建っていた柱を力いっぱい殴ったのだった。





激しい上下動を感じる。


激しいといってもガクガクあごが鳴るようなものではなくて、高い場所へ上ったり下りたりするような、そんな浮遊感をただよう上下動だ。

やばい、吐きそう・・・そう思って手で口を押さえようとしたが、手が動かない事に気付いた。

いや、手だけじゃない。指、足・・・全てが縄状のもので拘束されていて、動かない。

 そこで漸く今自分は誰かの肩に担がれているのだと気付き、自分を担ぐ人物に気付かれないように、わずかに体を動かしてみる。

少し痺れているが、然したる問題ではない。

 さて、どうやって縄抜けして見せようか・・・などと思っていると、不意に赤い色彩が目に入った。

思わず状況も忘れて呟いてしまう。


「フレイ・・・・・・?」


 そう、彼女もまた別の男に、キラと同じように担がれて運ばれていたのだ。

声に気付いたのだろう。キラを担いでいた人物の更に後ろを走っていた男が、意外そうな顔でキラに声を掛けた。


「もう薬の効果が切れたか・・・。気分はどうだ?」

何を言っているのだろう。この男、敵ではないのか?大体、自分はなんで縛られて運ばれて、フレイも運ばれてるんだっけ?どう見ても敵のこいつらに・・・。


そこまで内心で呟き、キラは驚きで目を見開いた。

さっぱり記憶が飛んでいたが、自分もフレイもこの黒装束たちに殺されそうになていたのではいか。


 そこまで思い出すと、キラは縛られた手と指を器用に使い、自分を担いでいた男の腰から苦無を引き抜いた。


そしてそのまま男の背中に刺そうとしたが、それは適わなかった。


後ろを走っていた黒装束・・・キラに話し掛けた男が、彼の腕を握って止めたからだ。

それからすぐ、男はキラの手から苦無を奪って、キラを担いでいた男に声をかけた。

「おい、そろそろ俺が代わる。」

「・・・・・・いいのか?」

「ああ。それよりお前、苦無落としたぞ。」

「!?・・・・・・わりぃな。」

短い会話を終えると、キラを担いでいた男は、後ろを走っていた男の手から奪うように苦無を取り戻し、キラの体を投げ渡したのだった。

 どうやらその男が最後尾だったらしく、キラの一連の動作は誰にも見られていないし、気付かれてもいない。・・・・・・・・・そう、今自分を担ぐこの人物以外は。

 相手の、自分を庇うようにも見て取れる行動の意味がわからなくて、キラが怪訝そうな顔で見ると、男は苦笑してキラを抱え直した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだかまるで、襟巻きのように、首に引っ掛けて。


思わず「僕は襟巻きでもマフラーでもない!!」と叫びそうになったが、なんとか抑えた。

男が本当に小さな声で話しかけてきたことで、この体勢の意図に気付いたからだ。


「俺はネオ。お嬢ちゃんなら気を失ってるだけだから、安心しろ。」


と。どうやら、他の者に気付かれないように話すため、このような格好にしたらしい。

 キラは怪訝そうに眉を顰めながらも、ネオに小さな声で語りかけた。

「僕はキラです。今回の襲撃の目的を聞いても?」

何をご丁寧に敬語を使って自己紹介までしてるんだろう・・・と頭の片隅で思いながらも、なんだか憎めない雰囲気をかもし出している男をじっと見て、訊ねた。

 嘘やごまかしは許さない、とでも言いたげな瞳を向けられ、ネオは苦笑して答えたのだった。


「今回の目的はお前だ、キラ。ザラの暗殺でも、諜報でもない。“生きたお前キラ”を連れて来る事が目的だった。」

 何、と瞠目するキラを見、ネオは更に続ける。

「お前、昨日一人で4人、一瞬で殺っちまったんだろ?すぐに仲間が国王にその報告をして、夜明けには返信が返ってきた。
“面白い。連れて返って来い”だと。最寄にいたほとんどの隊が集まって、お前さんの捕獲に尽力を尽くしたわけだ。」

 おどけたように言うが、その瞳は必死に何かを耐えているように見えて、キラは文句も何も言えなくなってしまった。


「フレイは・・・・・・?」

彼女が何故連れて行かれるかは、話を聞いていたので知っている。

自分でも何を聞きたいのかがわからなくて尻すぼみに言うと、ネオはキラの頭をかき回すように撫でて答えたのだった。


「あのお嬢ちゃんを追ったの、俺だったんだけどな。見つけた場所、結構城の近くだった。もう見えるところまで行ってたんだ。」

 キラは唐突に話し出したネオの言葉を聞き、驚きを隠せなかった。

確か、自分たちがいた地点は城から随分遠かったはず。それこそ、たった十数分で着く距離じゃなかったはずだ。

 目を見開いて驚いているキラを見、どう思ったのかネオは自分の頭を一掻きして続けて言ったのだった。

「・・・・・・途中で、鼻緒の切れた下駄を見つけた。多分あの子のものだ。・・・お嬢ちゃん、お前のためにかなり頑張ったようだぞ。足とか、体とか・・・、血がたくさん出てたし。息もできないくらい走ってたらしい。軽く当身を食らわせただけなのに、未だ意識を回復出来てないことから、必死具合が伝わるだろ?・・・・・・愛されてるのな、お前。」

 多分、ネオは親切で状況の説明をしてくれたのだと思う。だがキラは、できる事ならそんな話聞きたくなかった。

自分の迂闊さと無力さを再確認させられたようで、ひどく悲しい。


 キラは、湧き出てくる涙を必死に抑えながら、心の中で必死に彼女に謝罪していた。



―――――ごめん、僕のせいで巻き込んでしまって。

ごめんね、君に辛い思いを、痛い思いをさせてしまった。


僕が不甲斐ないばかりに・・・


本当に、ごめん・・・・。



何故か落ち込んだように口を閉ざしてしまった少年に、ネオはわずかに困惑した。

 よく自分の嫁さんや兄に「無神経」と言われるが、もしや知らぬ間にまた失礼なことを言ってしまったのだろうか。


 もんもんと悩み、それぞれが自らの思考に沈みんだことによって、結局その場には沈黙と後悔しか残らないのであった。





「ん、・・・・・・・・・・・・・・・こ、こは・・・・?」

次に起きたとき、フレイは見知らぬ屋敷に寝かされていた。

 不意に足に激痛が走ったので見てみると、両足が丁寧に手当てされていた。

それを見て、漸く思い出した。自分が何をしたか、何があったか。


「きら・・・そうよ、キラは!?き、キラ!キラ!・・・キラァ!」


不安で、不安でしょうがない。痛む足を引きずって、また際限無く溢れ出す涙を押さえもしないで、フレイはキラの名を呼びながら唯一の出入り口、ふすまへと近づいていったのだった。

 そして、ふすまに近づくにつれ、こちらに近づいてくる足音に気づく。

声に気づいてやって来てくれたのだろう。きっと、キラだ。

そう思うと自然と笑顔が浮かんで、フレイはふすまを勢い良く開け放ったのだった。


 しかし、目の前に捜し求めていた人はいない。

突然開いた扉に驚く、見知らぬ女の人が一人いるだけだ。

「ぇ・・・?きら、は・・・・・・・・・?」

よほど不安そうな顔をしていたのだろうか。その女の人はそっとフレイを抱きしめ、やさしい声で言葉を発したのだった。

「フレイ・アルスターだな・・・?私はナタル・バジルール。君の世話と、・・・監視係を受け持つことになった。「キラ」とは、君の夫か?」

 何を、言っているのだろうか、この人は。・・・監視?

キラが私の夫?彼、ザラのお城では結構有名だって聞いたわ。お茶屋でも何度か話題になっているを聞いたし。この女の人、キラのこと知らないのかしら・・・・・・?


「どういうことなの・・・・・・?」


わけがわからないわ。

そう呟くと、ナタルと名乗った女性は、フレイを抱きしめる力を強めて、更に言ったのだった。


「落ち着いて聞きなさい。ここはジブリール帝国だ。君の国では、ないよ。」



「・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」



無意識にナタルにしがみつくように腕をまわし、フレイはだんだん見えてきた状況を信じたくなくて、ゆるゆると首を振った。

ナタルはその無意味な行動を痛ましそうに見、体を一度離して、子供に言い聞かせるように語り掛けた。


「大丈夫だ、ちゃんと説明してあげる。とにかく、立ったままだと辛いだろう?一度部屋に入って、座ってから話そう。」


 それにギクシャクと従って、フレイは目を見開きながら、ナタルにすがりつくようにして言い出した。

「キラは?キラはどこ?・・・・・・・・・キラ、彼も怪我してたの。ここにいるんでしょ?」

 ナタルはまた痛ましそうにフレイを見、彼女を座らせながら答えてやった。

残念ながら、彼女の求める答えは、出せそうに・・・ない。


「・・・ここに、男はいない。いるのは君と同じように連れてこられた他国の女と、その監視役のジブリールの女だけだ。」


外になら、男の監視役もいるが、それは今答えなくてもいいだろう。

 フレイまた首をゆっくり振り、子供のように繰り返して言った。

「じゃぁ、何処なの・・・?どこにいるの。きら・・・キラは何処?」

焦点を失いつつある瞳をするフレイに、ナタルは唇をかみ締めて己の感情を殺し、彼女を叱咤した。


「気を確かに持て、フレイ・アルスター!君の夫は無事だ。ただ、ここにはいないだけ・・・。大丈夫だ。君と、君の夫の両方が元気になったら、また会える。二週間に一度は、共に一夜を過ごすこともできる!・・・だから、そんな死にそうな顔をするんじゃない・・・・・・!」

 こうして、壊れていった女たちを、ナタルは何人も見ていたのだ。

 そして今度は、この幼い少女まで巻き込まれてしまったのだと言う。自国に対する怒りと、無力な自分に対する腹立たしさでついフレイを抱きしめる力を強めると、 腕の中の彼女が苦しそうに身動きした。


慌てて腕を放すと、先ほどの焦点を失った瞳とは違う、しっかりと意志のある瞳をナタルは向けられ、安堵と、わずかな恥ずかしさを感じたのだった。

「あなたの方が、よっぽど死にそうな顔をしているわよ。・・・それと、キラは私の夫じゃないわ。」

そう、まだ一度も「愛してる」と言ったことのない、今思えば恋人なのかどうかも怪しい関係。

でも・・・・・・・・・自分は彼を愛していて、彼も自分に愛を囁いてくれた。



 そうだ、次に会ったら絶対、「愛してる」って言おうと決意していたのだ。



だけどきっともう、そんなこと口にできない―――――・・・。



ここまでくれば自分の状況がわかってしまっている。


 フレイは、キラの戒め・・・・・・人質だ。


結局一度も「愛してる」って言えないのだとわかると、フレイはなんだか笑いたくなった。


「馬鹿ね、私。一度もキラに愛してるって言えなかったわ。恥ずかしくて、いつも憎まれ口を叩いてた。・・・・・・ほんと、私の馬鹿・・・・・・。」


最後の方で、また涙が溢れて出てきてしまった。

ナタルは静かにフレイの言葉を聞き、微笑んで慰めの言葉をかける。

「過去形なんかにするんじゃない。君も、そのキラという男も、まだ生きてる。いつでも言えるさ。」


だがフレイは、その言葉に自嘲の形に顔をゆがめて答えたのだった。

――――――――身が切れそうな思いをしながらも・・・、「否定」の言葉を。


「私、キラに対する人質なんでしょ?・・・・・・唯でさえ重荷なの。これ以上彼を戒めたくなんてないわ。負担をかけない為にも、私はもう、絶対言えないのよ・・・。」

 フレイは、ナタルがこの部屋に駆けつけてからずっと、大粒の涙を流しつづけている。

 笑いながら、泣くのだ。

それが痛ましくて、見ていられなくて。

ナタルはまたこの強がりな少女を抱きしめ、ただその背を撫で続けていたのだ。



不意につぶやかれた言葉は、聞かなかった事にして・・・・・・。







赤く濡れた荒野に、キラは一人空を見上げて佇んでいた。

力なく地べたに腰をおろす彼は、感情というものが削げ落ちてしまったかのように、無表情だ。



―――――今日、初めて人を殺しました。

初めて、ただ逃げ惑う人を殺しました。

初めて、武器をもったこともないような子供を殺めました。

初めて・・・・・・・・、自分を心底汚い人間なのだと実感しました。




キラとフレイがジブリールに連れてこられて今日で五日目。

 キラはその五日間、傷の完治を待たずして、強制的に忍としての技を身に付けられていた。

言葉どおり血反吐を吐いた五日間。

 そして今日、有無を言わさぬ地獄の特訓が終わり、卒業試験だと称する任務を請け負った。


それは、ジブリール政権に否定的な村の殲滅。


 キラは己と愛するものを守るため、何百という無抵抗な村人を犠牲にしたのだ。

その事実に、いっそこのまま舌を噛み切って死んでやりたい心地になる。

だが、やはり死ねないのだ。そして、命令に逆らうことも許されない。

まさか皆殺しという命を受けた上に監視をつけてまで、慈悲というものを否定されるとは思わなかった。


 知れず口元には苦笑とも、自嘲ともとれる笑いが生まれる。



『君はずいぶんと人殺しの能力が高いと聞いた。』

『その力をわが国にささげるなら』

『ザラ君国・・・、アスラン・ザラとフレイ・アルスターに手を出さぬことを』

『――――――――約束しようじゃないか・・・。』



 この国の国王の気色の悪い口調と言葉が脳裏によみがえる。

それは、ただキラを縛り付けておくだけの言葉。

だが充分、否、充分すぎるほど、その効力を発していたのだった。





――――赤く、他者の穢れない血でぬれた、自分の穢れた腕を見て。


先ほど監視役が去っていく際に残した言葉を思い出す。


それは、最愛の少女の目覚めという、嬉しい知らせ。


だが、思うのだ。


今は、会いたくない・・・・・・と。





穢れた自分は、もう綺麗な彼女に触れません。



 自分のせいで巻き込んでしまった彼女を、愛する資格なんてないのです。



きっと僕はもう、彼女に愛を囁くなんてこと、できません。



彼女を、苦しめたくないのです。



どうか、どうか恨んでください。



愚かな己を、どうか君だけでも罰してください。



でも、どうか今だけは。



最後の、愛を囁かせて。



「愛してる、フレイ・・・。」





同時刻、会ったばかりの女性の腕の中で。愛する少女が同じ言葉を吐いたことを、少年が知る由もなかった。    




(あとがき)
 く、暗い・・・果てしなく暗い・・・。上に痛い・・・。
どうしよう、過去編意外に長くなっちゃったUu
あと1話でなんとか終わらせたい・・・というか、ぶっちゃけ次も痛い・・・。
やばいよ、まだ付き合ってくれる人、いるのかな・・・?(ビクビク



     
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