「アウルーーーーー!!!」

ステラの悲鳴のような声が何処からか聞こえてきた。

その後すぐ、彼女の断末魔の叫びも。


スティングは?どうなのだろうか、大丈夫なのか、と視線をめぐらすと、目的の人物はすぐに発見することができた。

 だが、彼はすでに動きを止めていた。

体から何本もの刃物を生やし、血の海に倒れ伏していたのだ。

キラはその姿にどうしようもない不安に襲われ、何度も何度も口の中で同じ言葉をつぶやきながら、目の前に現れた忍刀をもつ男の急所に一本の苦無を埋め込んだのだった。


「大丈夫、大丈夫。死んでない、気を失ってるだけ。大丈夫、大丈夫・・・・・・・・・」


 ・・・・・・だが、頭の片隅で理解していた。スティングはすでに息をひき取っているのだ。
そしてステラはアウルの疑う余地も無い死を見たから悲鳴を上げた。

 わかっているのだ、そんなこと。いや、わかっていたのだ。・・・・・・この作戦を命じられた時から、このような結果になることを。



 実際にこの地に着いてから気づいたのだ。5000人よりはるかに多い人数、予想に反し、その大半を忍達が占めていたことに・・・・・・。

 気づいた時には遅かった。地の利を生かした作戦を使うつもりだったのに、いつの間にか囲まれていて、引き離されて、一対多数の戦闘を強いられたのだ。

 いくら精鋭揃いと言えど、訓練された数十人の忍が一斉に攻撃してきたら、一たまりもない。

 その通り、一人数百人近く殺した頃には、体の至る所に決して浅くはない傷を負っていたのだった。


そして聞こえた、先ほどのステラの悲鳴と、スティングの姿。

―――――――――すでに彼らの死は、確実であった。



・・・・・・死んでしまった、僕の大事な子供達。


 キラは涌き出てくる涙と笑いを抑えもせずに自分の忍刀を取ると、向かってきた数人を一瞬でただの肉塊にしてしまったのだった。

 そして、ホルダーから苦無は無くなって――すべて投げたりして消費した――いたことに気づけば、自らが切り捨てた忍の懐から苦無を、時には刀を奪いながら、更に多くの血を流し続けたのだった。


 その、何処か狂ったように笑いながら、信じられぬ勢いで人を斬っていくキラを見た者達は、底知れぬ恐怖と畏怖を感じて忌々しげに呟いたのだった。

「化け物・・・・・・・鬼め!!」

「鬼・・・・・・そうだね、僕にぴったりかもしれない。」

ひゅ、と「鬼」と呟いた男が息を呑んだ音がした。

 いつの間にか少年に背後を取られていたのだ。だがそれを認識したと同時に、男の命はあっけなく散っていったのだった。



紫鬼 〜第捨弐話〜





「聞いたか、イザーク。ジブリールで“鬼”が出たらしいぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前がそのような噂を信じる部類の人間だとは知らなかったぞ。」

「いや、あながちただの噂じゃないみたいだぜ?ニコル辺りなら知ってんじゃねぇの?」

「えぇ、知ってますよ。」



――――――あるジュール王国の誇る大河の土手で。

イザークは一人涼みながら趣味の民俗学の本を読んでいたというのに、ディアッカが現れ、ニコルが現れ。

今までの経験から、このパターンだけは逃げることが適わないのだと悟り、イザークは彼にしては珍しくもおとなしく本を閉じたのだった。


 そして、どうしてもその先を言いたいらしくキラキラとした目でこちらを見るニコルに、イザークはため息を吐きながら視線で先を促した。

「その“鬼”が発見されたのはうちとの国境付近です。すでに僕の部下を走らせて、ってかぶっちゃけ僕も見に行ったんですけど、凄かったですよ。壮絶と言うか・・・・・・」

そう言って、思い出したように顔をしかめる。

 ニコルは現在ジュール付き忍一族でかなり高い地位についている。

よって王子たるイザークの護衛に就任されているのだが、そんな彼がイザークの元を離れるとは何事か、と他人が聞いたら眉をしかめるような事を平然といい、だがそんなこと今更イザークもディアッカも気にしたりはせず、彼のしかめっ面を意外そうに見ていた。

当然というべきか、忍であるニコルは結構色々な戦場を経験していた。

 その彼が顔をしかめる現場。いったいどのような物だったのか。

と、乗り気でなかったイザークまで興味を持ったように更に先を促すと、ニコルは一度困ったように笑って、だがすぐに口を開いたのだった。


「まさに地獄、でした。死体が折り重なっていて・・・・・・。
事の発端はまたジブリーツの反乱らしいですけどね。それがなんか妙だったんですよ。」

 また、というのは、何もジブリールで反乱が起こるのがこれが初めての事ではないからだ。と言うのも、今の王権に入ってからジブリールでは度々反乱の類が起こっているのだ。

 だがその度に、優秀な忍で構成される軍隊に鎮圧されているのである。

王も反乱軍もいい加減懲りないな、と頭の片隅で思いながらも、イザークは続けられたニコルの話を黙々と聞いていたのだった。


「反乱軍の死体はこれでもかと言うくらいあったんですけど。ブルーコスモスと思われる死体は一つも発見できませんでした。」

 それは確かに妙なことである。今までも内乱を偵察に行かせたことはあったが、ただの一度も忍の死体が片付けられていた事は無い。

ちなみに、ブルーコスモスは必ず体の何処かに青い鉢巻を巻いているので、すぐにそれだとわかるのだ。


訝しげに眉をしかめて自分の思考に没頭し始めたイザークに苦笑し、ニコルは「それともう一つ」と言って再びイザークの気を引きつけた。


「珍しいことに、大規模な爆発の後があったんですよ。」


 素早く、身軽な忍で形成される集団相手に、砲弾や爆発物が使われることは少ない。

簡単に避けられてしまう上、一歩間違えれば自分たちの方が危険に陥るからだ。

それなのに、爆発の後があった、と。またも思考に沈んだイザークを尻目に、ディアッカがニコルに質問をしたのだった。


「その爆発の周りに、反乱軍はいたのか?」

「・・・・・・・・・・・・流石ディアッカ。いましたよ、ゴロゴロと。」

そう言って嫌そうに笑うニコルに、ディアッカは苦笑し、イザークは漸く事態を悟った。


「・・・・・・・・・自爆、か?」

「まぁ、そう考えるのが妥当かと。ただ規模が規模でしたので、もしかしたら反乱軍の方が鎮圧に来た少数の忍を囲って道連れにしていったのかも知れませんね。」

 どんな精鋭だろうと、周りを何重にも囲まれて全員一斉に自爆されたら、一溜まりもありませんから。

何を考えているのかわからない微笑を浮かべたまま、普段では考えられない仮定を述べたニコルを、ディアッカは「まさか」と笑い飛ばしたのだった。

 ―――――何故なら普通は、自爆するのは囲まれた方なのだから。


そこでふと、ディアッカは先ほどから何も言わないイザークへと視線を移した。

だが先ほどまでいた姿はすでにそこには無く、辺りを見渡せば彼はいつのまにか川ギリギリに移動し、何か作業をしていたのだ。

 不思議に思って近付くと、イザークが振り向き、徐に立ち上がった。

そして、足元を見ながらニコルに問う。


「それでニコル、“鬼”は何を指しての言葉だったんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・その反乱軍の一人が、息を引き取る寸前に『鬼が出た』と言っていたそうです。多分、鎮圧に出てきた忍を指していたのだと思います。」

 だから僕はあんな仮説を立てたのですよ。とディアッカにもついでに言い、ニコルもイザークの足元に視線を落としたのだった。


 そこには、水に濡れ、炭化した布に包まれる人のような形をしたものが。

ニコルは目を細め、それのすぐ近くにしゃがみ込むと、徐にその炭化した布を払いとったのだった。


 現れたのは、確かに人の顔。

黒く煤が付いているので人相はわからないが、まだ若い部類に入ると見た。

ニコルは胸に手を当て、どうやらジブリールから流されたらしいその人物の冥福に黙祷を捧げたのだった。

 ・・・・・・こうして、川からジブリールの者が流れてくるのも、決して珍しいことではなかった。

何故ならば、ジュールの誇る大河はジブリールとも繋がっているのだから。


 だがそんなニコルの行動は、イザークの言葉によって無意味なものとなってしまったのだった。


「馬鹿者、こいつはまだ生きてる。」

「・・・・・・イザーク、呼吸が止まってます。」

「心音は?」

そう言われて胸に手を置くと、微弱ながらも鼓動を感じた。

ジブリールからここまで流れてきたと言うのなら、とっくに溺死していなくてはおかしいのに。

 そう疑問に思うと同時に、あぁ、仮死状態になっていたから助かったのか。とも納得した自分に気づいて苦笑し、ニコルはすぐさまイザークの指示を仰ぐように彼に瞳を向けたのだった。







結局、その流れ者は城へ持って帰った。

 すぐさま医師の治療を受けて呼吸も取り戻したが、怪我が酷くしばらくは意識が戻らないとのことだ。

 イザークは月を肴に酒を飲みながら、背後に気配を感じて振り向かずに声を掛けた。


「なんだ、ディアッカ。」


 するとディアッカは苦笑し、「あ〜・・・」と濁しながらイザークの横に座った。

それから、徐に懐から酒を取り出し、自分の酌に注いで言う。


「一つ、聞いても良いか?」

と。イザークは珍しくもわざわざ確認するディアッカに器用に片眉を上げて見せ、「なんだ」と憮然と答えたのだった。

「なんで姫さんが生きてるってわかってた・・・?というより、よく引き上げる気になったな。」


あぁ、とイザークはため息のような相槌をこぼし、酒を見ながら先ほどのことを思い出していた。





 ふと違和感を感じて川岸に寄ると、なんと炭化した物体が体を川から半分引き上げた状態で、動きを止めていたのだ。

またジブリールからの水死体か、と思いつつも、その不自然な状態で死んでいるそれを疑問に思い、近付いみたら行き成り足をつかまれた。

 それに悲鳴を上げなかったのは奇跡に近いだろう。
驚いたことにその手は件の水死体のものだったのだのだから。

 イザークはしかし、すぐに平静を取り戻して自分の足を掴む水死体(仮)の手を引き剥がし、脈をとったのだ。

すると、わずかに感じた鼓動。すぐさま全身を水面から引きずり出し、イザークは顔らしき部分を覆っていた布を引き剥がしたのだった。

 だが、顔の判断ができない。だから煤を取ろうと頬に手を当てたそのとき。

行き成りその水死体(仮死?)が目をあけたのだった。

その瞳を見た途端、イザークは心臓がデロっと口から飛び出そうになるほど驚いた。

黒い顔に行き成り浮かんだ大きな目、想像してみてくれ、怖いだろう!? なぁ!!?(必死

しかも、その紫の瞳は驚くほどの殺気をイザークに向けていたのだ。

 イザークは本当に怖くなり、これは目の錯覚、錯覚、錯覚、錯覚、錯覚、と繰り返し呟き、そっとさっきの顔を覆っていた布を再びかぶしたのだった。

そして立ちあがったその時、こちらに近付いてきた側近二人の気配に、イザークは話題転換をかねて声を上げたのだが、少々パニックを起こしていたらしく失敗してニコルに足元の水死体(確定)を発見されていたのだった。


 その後、ニコルによって再び布を取り除いた顔はすでに目を閉じていて、そこで漸く冷静になったイザークは落ち着いて正しい判断を下していったのだった。



――――――――だなんて、誰が言えようか。いや、言えない。(反語)

 こんなことがあったんなんて恥ずかしすぎて絶対誰にも一生言わないだろう。



イザークは酒を一口のみ、ふ、と笑ってディアッカの問いに答えたのだった。

「ふん、そんなことはどうでもよかろう。それより、なんだその“姫”とは。」

多分今日拾った者を指すのだろうが、確かあいつは男だったはずだ。

 ディアッカはそんなイザークの不信そうな目を受けながらも、にやりと笑って答えたのだった。

「あいつを、召使に湯浴みさせたんだよ。そしたら顔が女みたいにかわいくて。歳はニコルと同じ位か? まぁ、だから。」

だから何だ、と更に聞こうと思ったが、こいつのことだしどうせどうでもよい理由からだろう、と思いとどまり、イザークは無言で酒を飲みつづけたのだった。







『もっと早く、こうしていればよかったかもしれないわね。』

「・・・・・・え?」

暗闇の中、いつのまにかそこに立っていたキラは、唐突に響いた声にそう聞き返した。

 ついでに声の出場所を探ってみたが、まったくわからなかった。

彼が暗闇の中困惑していると、またどこからか声が響いたのだった。


『実はちょっとね、ほっとしてるのよ』


この声は、何処かで聞いたことがある。


「フレイ・・・・・・・・・・・・・・・?」


そう言うや否や、キラの目の前にフレイが突如現れたのだった。

髪にはキラのあげたかんざしが乗っかっている。

 そしてその顔には、ジブリールに連れてこられてから一度も見ていない、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。

―――――輪郭がぼやけているように見えるのは、気のせいなのだろうか。


『そうよ、キラ。』


それから、今度は慈愛に満ちた笑顔を。

キラは妙な胸騒ぎを感じ、心臓の辺りの服をつかむと、フレイに一歩近付いた。

フレイも同じように一歩キラに近付き、『何、泣きそうな顔をしているの。』と困ったように笑っていた。


『お別れ、言いに来たのよ。』


何・・・・・・・・・・・お別れ?

何を言っているのかわからない、と言うと、フレイはまたキラに一歩近づき、続けて言ったのだった。


『生きてね、キラ。私の分も、生きて。』


「何、言ってるの・・・・・・・。フレイ、君・・・・・・!」


『キラ。一度も言ったことなかったけど・・・・・・・・・・・・・・』


 どうしてだろう、フレイに近付きたいのに体が動かない。

もどかしげに唇を噛み締めていると、フレイが足を動かし、キラにゆっくりと抱き着いてきた。

そして、耳元でささやくように言うのだ。


『私、あなたのことずっと・・・・・・・・』



――――――――愛してたわ。







「イザーク!!!」

「なんだ、慌しい。」

少年を拾った翌日。王子としての執務をこなしていたイザークは、ディアッカの久しぶりにみる焦った表情に、訝しげにそう声を掛けた。

 ディアッカは走ってきたのだろう、荒くなった息を整えながら、イザークに説明を始めたのだった。


「姫さんが、逃げた。」

「何!?」

彼はまだ動けない体のはず。しかも、部屋の周りには厳重な監視を付けていたはずなのに。

ディアッカはイザークの内心を読み取ってか、少し苦々しい表情で言う。

「監視は皆生きてた。気を失ってるだけだ。・・・・・・・・・・・・あいつ、相当な手練だったんだよ!!」

あの小柄な姿と可憐な容姿、それと武器を所持していなかったことで簡単に城に連れこんだが、もしや刺客や間諜の類だったのでは、と顔を青くするディアッカに、イザークはすぐさま捜索の手を回すように言い、ニコルら忍連中にもそう命じたのだった。







 キラは痛みのせいではない何かに震える足を動かし、ジブリールに戻ろうとただただ歩いていた。

自分が川に流されたのは覚えていたから、今何処にいるのかわからないが、川に沿って歩けば戻れる。

そう考えて、キラはかすかに聞こえる水の音の聞こえる方へと、急ぎ足で歩いていったのだった。


 ―――――もし。もしもキラがジブリールに死んだと決め付けられたら。

   人質の意味の無くなったフレイは、間違い無く殺される。

そんな事態にならないように、キラはただただ、川を目指して歩いていたのだった。



漸く川が見えたころ、そこに人が集まっている気づいた。

・・・・・・・・そして、その人々の足の間から見える、赤い髪にも気づいてしまった。


嫌な予感がし、震える足を必死に動かしてその人壁を掻き分けると、そこには――――――――・・・・・・・





イザークが彼を見つけたと同時に、思わず耳を塞ぎたくなるような悲痛な声が、辺り一帯に響いたのだった。


「あああああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁああああああああああ――――――――・・・・・・・・」


喉が切り裂かれんばかりのその悲鳴に、イザークは一瞬体を強張らせ、しかしすぐに我を取り戻して少年を取り囲むように立つ野次馬を掻き分けた。


そして、開いた視界の先に見えたのは、



 ―――――ずぶ濡れの死んだ少女を抱きしめ、涙を流す少年だった。



少女の左胸には苦無が刺さっていた。きっと殺されてから川に流されたのだろう。

 そして、彼女の顔には、穏やかな微笑が浮かんでいたのだった。


頭が真っ白だった。

 拾った少年が未だ泣き叫んでいることも、明らかに殺された少女の穏やかな死に顔も、少年と少女の関係も。全てがわからなかった。


 だから呆然と目を見開いて彼らを見ていると、不意ににイザークの耳がかすかに少年の声を拾ったのだった。


「殺してやる、皆、皆・・・! ジブリール・・・! ジブリールの奴ら、一人残らず・・・皆殺しにしてやる・・・・・・・・・・・・・・!!!」


搾り出すように出されたその言葉は、呪詛にも似た響きで。

 しかしその瞳は、吐き出された言葉とは裏腹に、何の感情も表してはいなかった。


 イザークはその言葉の内容と表情のギャップにまた目を見開き、ディアッカが駆けつけるまでずっと、少女を腕に抱いて涙を流しつづける少年をただ見ていることしかできなかった。







 少年はその後、無抵抗で城に連れていかれた。

イザークは、外見だけならば特に取り乱した様子も無く静かな様子の少年を見、やるせない思いでいっぱいになった。

 先ほど、少年の憎悪と悲しみの姿を見れば、今のこの状態がただの虚勢や絶望の姿であることがわかるだろう。


だが今は聞かねばならぬことがある。それに、少年の為なのだ。と己を励まし、イザークは口を開いたのだった。


「娘は共同墓地に埋葬した。・・・・・・・・・それでよかったか。」

 冷たい鉄格子を隔ててそう問えば、彼は一瞬イザークに視線をやり、またすぐに俯いて「はい」と答えた。

 その様子に、イザークは相手にばれないようにため息をこぼし、静かに聞いたのだった。

「お前は、ブルーコスモスか。」

 それに返ってきたのは、微かな頷きだけ。


「・・・・・・・・・・・・・ではあの娘は、人質か。」

 ジブリールがたまに他国から人質とともに優秀な人材を浚ってくることは知っていた。

あの様子を見、イザークはそう見当をつけたのだ。

 そしてそれにもまた、頷きがかえってくる。


それからしばらく無言の空間が訪れ、イザークは俯く少年に、静かに語りかけることにしたのだった。


 それは、少年の慟哭を聞き、その後よく考えた結果の行動。

今真実を彼に教えなければ、きっと彼はただの復讐者になってしまうだろう、と言う危惧を防止する為と、己自身の為に、彼は語る。


「俺は、近日王位を継ぐことになっている。」

急激な話題転換に疑問を感じたのだろう、少年は顔を上げ、訝しげにイザークに視線をやった。

イザークはそれを受け、彼をしっかりと見据えて続ける。

「・・・・・・王位についた暁には、どうしてもやりたいことが一つだけあるんだ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前も、それに加わらないか?


と、イザークはその内容を少年に話し、そう聞いたのだった。


するとまた数分の無言空間が現れ、イザークは少年の返事をただ待ちつづけていた。



そして、数分後。
徐に「是」と答えた少年に満足げに笑い、イザークは牢の鍵を取りながら、また静かに問いかけたのだった。


「そういえば、お前、名は。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“鬼”、とでも呼んでくだされば結構。」

また随分と、やさぐれたものだ。

その返答にそう思いながら瞠目し、イザークは苦笑して返したのだった。

「・・・フン、変哲のない。ついでだから“紫鬼”にしておけ。」

そちらの方がお前らしい。


 そう、どこか挑むように言う口調に、なんだか彼女に似ている、と思って、キラは少し口元に笑みを浮かべたのだった。







「あぁ・・・・・・・・・。」

懐かしい夢を見た。


 自分以外誰も居ない空間で、キラはそう呟いた。


それは、幸せで、悲しい過去の夢。



 ほろり、ほろりと止めど無く顔を流れる水滴に、キラはそっと手を伸ばしたのだった。



―――――――――いつのまにか朝は、すぐそこまできていた。






(あとがき)
いや、キャラ違いますねぇ、みなさんUu
そして漸く終わった過去編に安堵。いや、ぶっちゃけこれでも削ったんスよ。
 



     
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