「もうすぐ、終わるよ・・・・・・。」 草木も眠るような深夜に、一人の青年がとある墓地を訪れていた。 しかし彼にはそのような場所を恐ろしいと思う概念はない。 ただ暗く冷たい、そう思うだけ。 一つの墓石の前に立ち尽くし、彼は更に言葉を紡ぐ。 「・・・・・・・終わらせるから・・・・・・。」 決意の滲むその口調を聞いていた者は、声を発した本人しかいなかった――――・・・・・。 紫鬼 〜第拾漆話〜翌朝、キラは日の昇らぬ内にジュールを出立した。 まず向かったのは変人・ラウ・ル・クルーゼ国王の治める帝国プロヴィデンス。 かの国はジュールと並ぶ軍事力を有し、おそらく近い内に起こる大戦で主力を担うこととなるだろうと目されている。 そんな国の絢爛な執務室のバルコニーに降り立ち、キラは呼吸を整えようと深呼吸した。 ジュールより発って丸一日走り通しだったのだ。幾ら彼でも呼吸が乱れてしまっても仕方が無いだろう。 しかし彼が深呼吸したのは、ただ息を整えるためだけ、という訳ではない。 なにせ今からあの仮面国主に会うのだ。心の準備や「仮面を見るな、笑うな、引くな、むしろ表情を出すな」と自分に暗示をかける意味も含まれていたりするのである。 ちなみに、彼が連絡もせずにバルコニーに降り立っても未だ護衛の忍が出て来ない所を見ると、クルーゼはどうやらすでにキラの訪れを予想していたらしい。 そんな所で「やっぱり食えない人だ」と再確認してしまい嘆息し、キラは繊細な造りの窓をコツコツと叩いた。 「クルーゼ王陛下、紫鬼です。」 執務室の中にいる人物が、目的の人ただ一人であることは気配からわかっている。だから特に気兼ねすることも無く、キラはそのまま窓を開けた。 「やぁ、久しぶりだな、キラ君。」 すると彼を出迎えたのは、王専用のふかふかのソファーに座って足を組み、ワイングラスを握って悠然と此方を見るプロヴィデンス国主。 ・・・・・・うわぁ、カッコつけすぎ。しかもカッコいいとか思う前に怪しいよ、仮面だし。 キラは内心で呆れ返りながらそう思い、だがソレを口にすることなく無言でクルーゼの前に跪く。 それから、恭しく懐から親書を取り出し、クルーゼに差し出したのだ。 「・・・・・本日は、召集を伝えに参りました。」 「ほう、ついに準備が整ったか。」 「はい。」 「我等の方も準備万端に整ってある。・・・・・・今まで、ご苦労だったな。」 不意に、いつに無く優しい口調で掛けられたその言葉に、キラは思わず顔を上げた。 そこには、仮面で覆い尽くされていても尚わかってしまう、優しい微笑を浮かべた顔が。 そんな物を今まで向けられたことなどなくて、キラは思わず目を見開いてしまったが、すぐさま我を取り戻す。 そして、それと同時に眉根を盛大に寄せて問うたのだ。 「何を、考えていらっしゃるのですか・・・・・?」 生憎と、彼はその笑みが本当に自分を労わるような笑みなのだと思えるほど、お気楽な性格をしてはいない。 どんな笑みであろうが、必ずや仮面の裏側には毒が塗ってあるのだと・・・嫌と言うほど身に染みてわかっているのだ。今更そんな笑みを向けられようが向けられまいが、今まで育んで来たキラの警戒心が絆されるような事はない。 胡乱げな眼差しを向けられ、しかしそれを面白そうに受け取りながらクルーゼは答える。 「さぁな。まぁ、君達の害になるようなことはしないと誓っておこうか。」 笑いを含みながら言われたその言葉に、キラは更に警戒心を強めた。いっそ密かに見張りをつけておこうか、と思い始めながらも、キラはその考えを頭を振ることで振り払い、クルーゼをひたと見て言ったのだ。 「その言葉、信用しますので。・・・僕はこのままアークへ向かいます。王殿下達に何か伝言はございますか?」 信用してやるから、変な気を起こすな。 暗にそう言われてしまい、クルーゼは隠れて苦笑した。実はキラのこのように不遜なところは、クルーゼの密かなお気に入りだったりするのだ。 仕えるべき忍の分際で、このような口を叩けるのはこの少年のみだろう。・・・そう仕向けたのは、何を隠そう自分自身なのだが。 しかもそれが決して不快などではなく、頭の回転の速い彼らしいオブラートに包んだ嫌味が、彼の隠れた純粋な少年らしさを不思議とかもし出し、むしろ好ましいほど。 大分前に、その嫌味の報讐によって少年らしからぬ彼の少年らしさに気付いてしまい、それが余りに嬉しくてクルーゼはついついキラで遊んでしまうのだ。 しかしそんな内心を他者に悟らせる訳も無く、クルーゼは尚も笑いを含んだ口調で返す。 「いや、ないな。」 「そうですか、では失礼させていただきます。」 そう言って立ち上がって一礼し、キラは踵を返そうとする。 だがそれは、クルーゼの「待ちなさい。」という言葉によって止められてしまったのだ。 「・・・・・・何か?」 「今日はもう遅い。客間を用意させるから、一休みしてからアークへ向かいなさい。」 何を言われるかと思えば、そんなこと。 数日は眠らずに走りつづける事も出来る。ぶっちゃけブルーコスモスにいた時は、そんなこと珍しくも無かったのだし。 だから彼は、微妙に気の聞くクルーゼに僅かに感謝しながらも、丁寧に断りを入れようとした。が、 「命令だ。全く、君が倒れたらまたムウや虎がうるさい。私の為にも、とりあえず一眠りしてから行きなさい。」 そう言うため息混じりの言葉によって、それもまた遮られてしまったのだ。 命令、と言われれば紫鬼たるキラが逆らえるはずも無く、彼はクルーゼの気遣いに苦笑し、「御意」と言ってその国に一泊することを承知したのだった。 翌日その早朝。キラは昨夜の内にクルーゼに「挨拶はいらない」と言われていたので、無言で城を抜け、次の国へと向かった。 次なる国は、ラミアス女王の治める地、アーク公国。 おそらくジュール・プロヴィデンスに次いだ軍事力を持つ、別名「からくり王国」と呼ばれる国。 優れたからくり技術により、現在遠距離での高威力を可能とする武器を開発中なのだとか。 すでにその話を聞いたときから数ヶ月は経っているので、もしかしたらそれも完成しているかもしれない。キラにそう思わせるほど、この国の技術者達は優秀なのだ。 そして、今回もまた女王陛下の執務室に降り立ち。 残念ながら今回は彼女の護衛である忍に攻撃をされたが、顔見知りだったので軽く見逃された。 そして、窓を数度叩き、入ろうと取っ手に手をかけたその瞬間・・・・・・・・・つ・・・、捕まった・・・・・。 悲しいかな、キラが窓を開ける前にそれは内側から開け放たれ、外開きなのでぶつかりそうになったのを危ういところで横に避けた結果、柔らかな女性の腕に拘束されてしまったのだ。 その腕の持ち主が誰か、とか、何事だ! とか考えるだけで阿呆らしい。 キラは引きつった笑いを浮かべながら、腕の持ち主に声をかけたのだった。 「・・・・マリューさん、召集を伝えに参りました・・・・。」 僅かに疲れたような口調になってしまったのはご愛嬌。この見た目に反した女傑には、何を言ったところで変わらないことなど身に染みてわかっているのだ。「放してくれ」と言った所で聞かなかった事にされるのが関の山。 だからキラはとっとと先に進めることにし、抱きしめられたままそう言ったのである。 するとマリューは「そう・・・」と言いながらキラを放し、続けて「お久しぶりね、キラ君。大きくなったわね〜」と親戚の小母さんヨロシク声を発したのだ。 「・・・・二ヶ月前に会ったばかりです・・・・。」 「それでも久しぶりよ。はぁ、やっぱりもう女装は難しいわね、これじゃ・・・・。」 身長を自分と比べ、肩幅や首周りをぺとぺと触り、二年前から成長してしまったキラを嘆く。 会う度に行われるその作業に、キラはもう慣れっこだったりする。だから大して構うことはせず、懐から親書を取り出して言った。 「召集は約三週間後となります。詳細は此方に。」 「えぇ、確かに受け取ったわ。」 そう言って、彼女はその親書を近くにあった机の上にのせる。それから、キラに真剣な目を向けて続けたのだ。 「キラ君。」 「はい。」 「例の武器が出来たの。予想よりも高性能で、多分そこら辺の忍でも回避不可能だと思うわ。」 やはり、すでに出来ていたのだ。 キラは何故かそれを誇らしく思い、喜色を浮かべて彼女により詳細な説明を求めた。だが、 「いやぁね、今はもう深夜と言っていい時間よ? 私もそろそろ寝ようとしていたのだし、明日にして頂戴。あなたも、部屋を用意してあげるから眠っておきなさい。」 そう言って有無を言わせぬ口調でにっこり笑いかけられてしまえば、キラに反論できるはずもなく。結局その日も優雅に王城で休養を取る羽目となったのだ。 翌朝。キラはマリューとムウから新しい武器の説明を受け、実際に使うところも見ることが出来た。 その名を「銃」といい、小さな弾を火力で吹っ飛ばす、というからくりの武器。それは恐ろしいほどの速さを有し、当たったら首も吹っ飛びそうな勢いである。 よってコレならば普通の兵士でも対忍戦に対応できるだろうと判断し、キラはマリュー達にそれを量産することをお願いしたのだ。 するとそれは快く引き受けられ、並びに兵士の育成もマリュー達にお願いし、聞き受けられるとすぐさま、キラはその国を発ったのである。 ―――今の時間から出れば、次なる国、砂漠の虎が治めるバナティーヤに着くのは、また深夜だろうと思いながら。 そして予想通り、バナティーヤに着いたのは一日も終わる時間帯。 アイシャという夢見師の御蔭で、今度は護衛の忍に攻撃を加えられることも無く、キラは役目を果たした。 だがしかし。 やはり王やその伴侶に色々と言い包められ、一泊する羽目になったのは、もはや言うまでもないだろう。 「いや、毎度のことながら大変だったな・・・・・。」 「大変だったよ、ホント。」 今度は、所変わってザラ君国。 キラは幼馴染に酌をされながら、流れてもいない涙を拭う仕草をする。 ちなみに、大きな広間の中では、すでにシンとレイ、ステラ、アウル、スティングが酔いつぶれていた。 シンとアウルはとっくに意識を飛ばし、レイとスティングは赤い顔で未だ飲み比べを行っている。 ステラはラクスが着るような綺麗な着物を着て、その彼女の膝でまどろんでいた。 それは、なんとも幸せな風景。血を流す必要も無く、涙を流す必要も無い。 酒の力を借りて陽気に笑う、綺麗な洋服を着るエクステンデットの子供達と、彼らの友人となってくれた二人。 その光景を、キラは穏やかな顔で見ていた。 窓辺に陣取り、アスランと酌を交わして。またこれも幸せな風景だ、と笑い、キラは言った。 「アスラン、お願い聞いてくれてありがとう。」 「・・・・・・・いや、気にするな。俺も楽しかった。」 今回は諸国を回る際、キラは当然ステラ達も連れて行かなかった。 だから保護者同然のキラの不在に僅かに不安そうな顔をした彼らを、キラはアスランとラクスに預ける事にしたのだ。 よって彼らには直接「城に滞在して、殿様と姫様の言うことを聞いていてね。」と言い、シンとレイにはそんな彼らの傍にいてくれるように頼み、アスラン達にはそんな彼らに“普通で幸せな生活”を教えてやって欲しい、と手紙でお願いしたのである。 「“普通で幸せな生活を”、か・・・・・。」 「・・・うん。」 唐突にアスランが呟いた言葉に、キラは小さく頷いた。 「僕は、甘いのかな・・・・?」 自分は、真綿でくるむように彼らを庇護しようとしている。だが、この世に産まれてからずっと苦渋を嘗めさせられていた彼らには、この位で丁度いいと思うのだ。 彼らは孤児で、物心つく前にジブリールの施設に入れられ、人殺しを強制されてきた。 そんな人生を歩んできたからこそ、彼らは“普通で幸せな生活”という物を知らない。 綺麗な着物を着て、やりたい事をやって。気分転換に外を歩く事だって許される・・・・そんな生活を。 そしてアスランはそんなキラの思いをちゃんと汲み取り、苦笑して答えたのだ。 「さぁな、俺にもわからない。でもま、良いんじゃないか? 楽しかったって言っただろ?」 人道を外れず、楽しければそれでいい。そう言って優しく笑うアスランに、キラは何だか嬉しくなって、彼の額をぺちりと叩いた。 「キラ、お前・・・・・・(怒」 「いや、昔っからアスランはおでこを触られるの嫌だったよね、何で・・・?」 ニタニタ笑いながら答えの解っているはずの疑問を言うと、キラはアスランに行き成り頬をつままれてしまったのだ。 「お前は昔っからよく女の子に間違えられたよなぁ・・・・? 何でだ?」 「ははははは、アスランこそ、小さい頃は女の子と間違えられてたよねぇ、何でだっけ?」 キラも負けじとアスランの頬を抓み、にっこり笑ってそう言い返す。 「俺の質問に答えろキラ・・・・・。」 「僕の質問には僕が答えてあげるよ。それは、レノア様が面白がって大殿様に内緒で君にラクスの服を・・・・・・・」 「実はお前も同じ目に合った事を、俺は知ってるぞ・・・・・・・・・・!!」 はははははははははは、と笑いながら血管を浮かべて頬を抓り合う彼ら。見ようによっては随分面白い光景だが、さっき目の覚めたばかりのシンから見れば、それは仲睦まじくじゃれ合っているようにしか見えない。・・・・・・まぁ、違うとも言い切れないのだが。 ブッスーと面白くなさそうに、シンが二人を寝転びながら見ていると、不意に自分の上にアウルが乗ってきた。 「あいつら仲良いな〜。」 そう言ってへらへら笑うアウルは、自分に劣らず酒臭い。さっきまで一緒になって泥酔していたのに、いつ起きたのやら。 そう思いながら鬱陶しそうにアウルをどけ、シンはキラとアスランに視線を固定しながら何となく言ってみた。 「俺もキラさんの頬つねってみたい・・・・・。」 するとアウルは、一瞬何を言われたのか解らない、とでも言いたげに目を細め、数秒後理解すると同時にゲラゲラ笑い出したのだ。 「無理だって、なんたってお前ポチ(犬)だし〜。噛み付いたと思われて厳しく躾られるのが関の山・・・・・・!」 「アウル・・・・・・お前・・・・・・・・」 ムカついたので寝転んだまま蹴りを入れると、アウルは「痛てて・・・・」と言いながら起き上がり、俄かに痛んできた頭を抑えて突如切り出す。 「なぁお前、明日自分の一族に帰るんだって〜?」 「まぁな〜。すぐ帰ってくるけど。」 現在、シンもレイも長期の任務を請け負っている。それは、国主であるアスランの護衛という任務である。 彼らが旅をしていた間は誰かが代行してくれていたらしいが、戻ってきたのだからまたその任務に戻るのだろう。 つまり、また城仕えの生活に戻るのだ。よほどのことが無い限り、たぶん。 そんなことをまたうつらうつらしながら考えていると、不意にアウルがにかっと笑って言ったのだ。 「僕達さぁ、お前らが今までずっと一緒にいてくれたから、この城にもこんなに早く慣れる事が出来たんだよね。だから、さんきゅ。」 突如言われた謝礼の言葉に、シンは一瞬目を見開いた後、照れくさそうにもう一度アウルに蹴りを入れたのだった。 「ううむ、和みだ・・・・・・。」 「キラ・・・・・。」 「だってラクスの上で末の猫がまどろんでて。犬と次男の猫はじゃれ合って友情を育んじゃってるし・・・。あっちでも高級そうな猫と長男の犬が酌を交わして友情を育んでる・・・・・。」 「お前、いつから酒に弱くなったんだ・・・・・?」 「僕の目と頭は正常だよ。ぁ、でもシンとスティングじゃ犬の種類が違うからな〜・・・・あえて言うなら、シンはワンコ?」 「・・・・・憐れとしか言いようがないな、シン・・・・・・・。」 「それはそうと、本日のアニマル劇場は豪華だね〜・・・・」 そんな会話が、話題の本人達に知らされる事無く交わされたのだとか、交わされなかったのだとか。 「「ただ今戻りました。」」 声をそろえてそう言い、レイとシンは目の前に立つ男を見上げる。 彼の名はギルバート・デュランダル。レイ達の所属する一族の、頭領である男性だ。 彼らは予定通りキラの帰国の翌日一族の村に戻り、まず一番最初に頭領に挨拶に参ったのだ。 「ふむ、ご苦労だったね。どうだった? “紫鬼”は。」 「彼と出会えてよかったです。技術も向上しました。」 レイの冷静な言葉を聞き、シンも無言で頷く。彼の視線に出発前のあの挑発的とも言える不遜な態度がまったく見えなくなり、ギルバートはおや、と思いつつ苦笑した。 「シンは変わったな、彼から色々な事を教わったのだろう?」 「はい。そりゃもう非常に・・・・・・・・・非情に沢山襲わりました。(誤字に有らず)」 『礼儀。言葉遣い。目上の者には礼節を。』 その言葉と共に向けられた笑いは、未だ記憶に新しい。・・・ついでに自分の指についた赤い液体の感触とその原因となったキラの行動も・・・・・・、忘れるなんて出来るはずがない。(第捌話参照) 後々、言葉だけではなくて態度にも気をつけろと言われてから、シンはジュール国王はもちろん、自国に戻ってからはアスランにも態度を気をつけるようになった。 今ではすっかり板についてると思い・・・・・たい。(希望) そう言えばあの時シンは、キラの事を「見た目や表面上の性格に反して、本性は血も涙も無い、厳しい人」だと思っていた。 今思えばそれは全くの逆で、あの表面上の性格だと思っていたのが本性であり、本性だと思っていた冷酷そうな印象は、ただの錯覚でしかなかったのだろう。 それは、ステラ達に対する態度や、肝心な時に自分達を守ってくれた彼の行動からも、簡単に察することが出来る。 俺ってもしかして損なことしてたのかな〜と思いつつ、ちらりとレイに視線を送ると、彼は密かに唇の端を上げ、笑うのを抑えている様子だ。きっとさっきの自分の上の者に対する態度に、彼もあの時の事を思い出したのだろう。 自分だって冷や汗だらだら流していたくせに、と睨みつつ内心で呟き、「ココは我慢、我慢だ俺! 大人になるんだろ? キラさんに甘えてもらえるくらいっ!」と自分を鼓舞して何とか耐える。 そんな彼らの様子を、ギルバートは目を丸くして見ていた。 それから、徐に苦笑して口を開く。 「本当に変わった・・・・成長したな。レイ、君も。」 そう言うと、彼はギルバートに視線を戻し不思議そうに瞬きを繰り返した。 彼は幼い頃からレイを見てきたが、今までそんな表情を見たことは無くて。本当にキラに彼らを預けて正解だった、と内心で呟き、ギルバートは言ったのだ。 「レイ、私が出立前に、『君には足りないものがある』と言ったのを覚えているかい?」 「はい。」 レイと同じように不思議そうな顔をしているシンにも視線を向け、それをすぐにレイに戻して、彼は尚も言う。 「見つけたようだね。」 「・・・・・・?」 不思議そうに自分を見る二対の目に、しかしギルバートはそれ以上何かを言うでもなく、彼らに退出を促したのだった。 「本当に、君には感謝しているよ」 自分以外誰もいなくなった空間で、ギルバートは徐に口を開いた。 すると、何処からか返事が返ってくる。 「別に。感謝されるようなことはしてないですよ。」 その言葉と同時に天井から降ってきたのは、柔和な笑みを浮かべる華奢な青年。 彼は猫のような身のこなしで着地し、ギルバートに向かって一礼する。 「やぁ、久しぶりだね、キラ君。」 「お久しぶりです、ギルさん。」 「今日は何の用だい?」 「レイをお借りしたくて、参りました。」 キラは諸国を回るためにレイたちと離れる際、彼に鋼糸の使い方を教えると約束したのだ。 それを言うと、ギルバートは面白そうに笑った後、「やはり彼には適性があるのかい?」と訊くと、キラはあっけらかんと「まだわかりませんよ」と答えたのだった。 所変わって、とある墓地で。 シンは墓石に水をかけ、摘んできた花をそっと供えた。 「しばらくは、来れなくなるかもな。」 そう言って、視線を何処までも続く青空へと向ける。 その眩しさに目を細めて、だが決して視線を外すことはせず、シンは続けて言ったのだ。 「でも、また必ず来るから。」 これから自分は戦場に赴くけれど。死の確率は今以上に上がるけど。 ―――――必ず。 そう言って、シンは振り返る事無くその場を後にした。 それから約二週間後、彼らは国主同士の会談の為再びジュール王国へと足を踏み入れる。 そしてその更に二週間後、次に彼らが足を踏み入れるのは――――・・・・・ ―――広大に広がる、ジブリールの戦場。 (あとがき) あ、次回で終わる。(ぇ うわぁ、やっとだー・・・・。 ちなみに、キラたちのいるこの時代に銃はありませんでした。マリューさんが作ったんですよ、最近。 今回は閑話みたいな感じになりましたね。ギャグ要素も割と少なく。 次回は戦場です。ん? その前に、会談かな。アスランはイザークとの二国間でやるつもりだったのに、イザークが面倒だからと言って一気に五ヶ国間でやっちゃう予定。まぁ、本編でもそこら辺はちゃんと書きます。 戦場、でもキラ様単体の活躍は、そう多くはない・・・・・・いや、その、私の基準で。弟子(?)達にも活躍して欲しいですしね。それに、苦無持って踏み込むより、戦略で頭数を減らす方が多いかも。 |
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