戦乙女と曲芸団 2





朝早くから曲芸団のメンバーは支度をしていた。昨日の出来事が嘘のようにせっせと働く。ただばら撒かれた睡眠薬の影響で頭が重いと言っている者もいる。
キラはそんな彼女たちを横目に団長用のテントにお邪魔した。するとタリアは待ち構えていたように座っていた。
「お聞かせ願えますね。」
「何のことかしら?」
意地悪く微笑むタリアは只者ではない雰囲気をまとっていた。
「あなたは知っていた。自分たちが忍に狙われていることを。」
タリアは一瞬顔を曇らせた。しかし、ほんの一瞬だけだった。すぐに顔色は戻りキラを見据えた。
「そうね、フェアじゃないものね。貴方のことはギルから聞いているは紫鬼君。」
ギルことギルバート・デュランダルはザラ君国の忍頭。短くはない付き合いである。ふと彼が現を抜かしている女性がいることを思い出したが、もしかしなくても彼女なのだろう。
「私たちはある兵器をアーク公国に運ぶ途中よ。私たちなら敵の目を欺けると思ったけど甘かったみたい。昨日、来たのね。」
「ええ。相手はサーペントテールでした。」
「そう、ならばギルに相談してよかったわ。山賊なら大丈夫だけど忍だとさすがに無理だといったら…」
『紫鬼というとても優秀な忍がいるんだ。彼に頼むといい。』
「それはつまり…」
「ルートを計算してこの地点で山賊に襲われればあなたは現れるからと、―――!!!」
「そうですか。」
見た目は至って爽やかな笑顔であったのだがタリアの冷や汗は止まらなかった。


なぜなら背後に黒いオーラが!!


職業柄いろいろな相手を丸め込むことの多いタリアでさえもお手上げ、いや関わってはいけないと結論付けた。
『金髪と青い猫をけしかけるって何のこと!?  生きていたらお酒でも持っていくわ、ギル。』
自業自得なのだが少し罪悪感を覚えるタリアであった。
「あ、キラさーん。」
怖いもの知らずな姉妹が入室。この雰囲気の中に気兼ねなく踏み込めるとはなかなかのものである。
「今回の公演にキラさんも出てみませんか?」
「え゛っ!?」
ある意味最強な2人によってキラは強制連行されていった。





エキゾチックな音楽に合わせて剣が舞う。凶器の危険な香りと魅力的なダンスにその場の時間が止まったような錯覚に陥ってしまう。
そのうちに一緒に踊っていたホーク姉妹も動きを止め、アビーの楽器を奏でる手を止まってしまった。
それでもキラは踊り続けた。そして、
舞台に向けられ放たれた矢を次々と切り落としていった。
止まっていた観客たちは悲鳴をあげて我先にと逃げていく。舞台上降り注ぐ矢の雨にようやく理性を取り戻したメイリン・ルナマリア・アビーもやっと袖に隠れた。
混乱のさなか、キラは同じく冷静にこちらを見ている劾に気づいた。
『・・・・。――――殺す―――。』
キラはふーんと読唇術で読み取った内容に少々あきれていた。そして魔王降臨。何か思いついたらしく唇だけ動かして返答した。
『いいだろう。』
劾は逃げる民衆たちにまぎれて姿を消したのだった。










クルッポーと一羽の鳩が木々の隙間から垣間見られる城砦に向かって羽ばたいていった。
町を出発して、一団はアーク公国の領地の目と鼻の先まで近づいていた。馬車で進む団員たちから少しはなれてキラは木々を飛び移りながら見守っている。
ふいに気配を感じ、足を止める。そして踵を返して彼女たちとは逆方向に歩みを進めた。

移動中だった劾とイライジャは危険を察知してその場から離れた。次の瞬間、辺りは爆煙に包まれていた。そして煙の中から劾に向かって刃先を向けるキラが飛び出してきた。空中で刀がぶつかりあう。イライジャが援護として手裏剣を投げたが何もない空間で落下してしまった。
「動くなイライジャ。囲まれている。」
ちょうど横を飛んでいた蝶が通り過ぎようとして真っ二つに裂けた。
「また鋼糸かよ。」
「さすがに僕でもサーペントテールの忍二人を相手にはしたくないからね。君はそこで待っていて。」
かごの中の鳥であるイライジャを残して、二人は何度も刃を交えた。
接近戦では決着がつかないと踏んだ劾が投げつけた手裏剣の数々をキラは同じく投げた苦無によって打ち落とす。二人の技量は拮抗していた。ただスピードはキラの方が少し上。パワーは劾の方が少し上といったところだ。
余所見をしているうちにイライジャは二人の姿を見失ってしまった。ふと地面に数滴の血液の飛沫が見える。どちらかが傷でも負ったのだろうか。
その次の瞬間。先ほどとは比べ物にならないほどの轟音と爆発が二人の消えた先で起こった。
「劾!!」
足を踏み出そうとしたところ、
「動かないでください。」
首に突きつけられた金属がヒヤリと冷たい。顔は見えないが声からして少年のようだ。
「お前は…。」
「悪いようにはしません。」





迅界空さまからいただきました。最後に出てきた少年は誰なんだ!?(興奮
感想等は、「Eyes For Eternity」にてお願いいたします。



   
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