それからミネルバまでの道のりは、質問で埋めつけられていた。



知られざる真実と信実5





「…なんで俺達がザフトレッドだってわかったんですか」
シン達は当然私服だ。軍に関係あるものは身につけていないはず。なのにキラは『軍法会議ものだよ』とか『君達と同じ赤をまとった事がある』とか、彼らがザフトに所属し、なおかつザフトレッドであることを示す言葉を言っていたのだ。
 シンのその質問にキラはしまった、と内心思いながらもしれっとした顔で説明する。

「そりゃぁ、突然現れたブルーコスモスに…銃もって冷静に対処する民間人なんか、いないだろうな、と思って。赤服だと思ったのは銃の腕が若いくせに良かったからだよ。」

実は事前に君らのことを調べていたんです、だなんて当然言えない。

「若いくせに…って…キラさんいくつなんですか?」
ルナマリアの疑問に苦笑交じりで答える。
「18だよ」
「ああ、やっぱり同じなんだ…。」
「同じ?」
「ええ、今ウチの艦にあの「アスラン・ザラ」が搭乗してるんですよ。彼も今18歳だと言ってました。」
「へぇ。アスランが。あれ?彼軍やめたって言ってたけど…?」
ちょっと白々しいかな、と思いながらアスランとの仲をなにげなくアピールする。
すると思ったとおりルナマリアが話題にくっついた。

「知り合いですか?」
「同期だよ。へぇ。久しぶりだな…。会うことってできる?」
「可能だと思いますよ。」

よし。目的は果たせそうだ。と思うと安心して顔がゆるんでしまった。

するとそれを見とめたルナマリアが、「はは、嬉しそうですね」と言って茶化してきた。
キラもそれに乗って「まぁね」といって笑った。

それを面白くなさそうな顔で見ていたメイリンとシンが、ほぼ同時に口を開いた。

「「キラ(さん)ってあんなに強いんだから二つ名とかあったんじゃないですか?」」

と。一言一句違わず言ったので、キラはついつい笑った拍子に本当の事を言ってしまった。

「あははははは…!あったよ。僕も戦後になってから知ったんだけど。」

と。しまった、と思った時にはもう遅い今度はルナマリアとシンとメイリンの三人同時に訊いて来た。
「「「どんな?」」」

言えません。結構有名なんです。両方とも。まだ素性をばらすわけには行かなかったので、そこらへんは笑ってごまかすことにする。

「あはは。内緒。ヒントは,両方人間界にはいないもの関係だ、ってことかな。」

その言葉に、シンとメイリンは引き下がったけれど、ルナマリアは食いさがってきた
「両方って…二つもあったんですか?」

その言葉にこんどはあからさまに「しまった」という顔をしてしまった。

「うっわ〜。怪しいですねぇ。白状しちゃってくださいよ〜」
「だめ!これ以上はもう何もいわないよ!」

連合の白い悪魔、これはキラがストライクにのっていた時に同胞からつけられた名だ。
虚空の天使、こっちは先の戦争の時にいつのまにかフリーダムを指す言葉になっていた。

どちらも有名だ。だからこそここで言うわけにはいかない。ばらすのならば目的を果たしてからだ。

「…しょうがないな…帰る時に教えるよ。…片方だけ、ね。」
その言葉に、三人が引き下がってくれたので、キラはひとまず安心した。


ミネルバについて即医務室にて腕の治療が行われた。
レイは艦長に報告に、ルナマリアはアスランを呼びに行っている。メイリンはクルーに呼ばれてキラとの別れを惜しみながらもどこかへ行ってしまった。

 かすっただけだった銃弾は、もうすでに治りかけていた。
キラはあまり認めたくなかったが、どうやら自分は普通の人よりも傷の治癒能力が何倍も高いらしい。
 二年前、命にかかわる怪我を負ったはずの体は、クライン邸で一週間も静養せずに完治してしまった。当時はそんなこと気にならなかったけれど、自分の出生を知ってからはそれは嫌悪する対象になった。
 シンはそれを見てよかった、とただ安心していたようだけど、キラは逆に不安になった。
 自分がどんどん人間離れして行くような気がしてならない。この異常な治癒能力に誰かが気づいたら、自分はどうなるのだろう。隠す為に怪我をしなければよいのだが、そういうわけにもいかないのだ。

 キラが思考の渦に飲まれそうになった時、ドアからアスランの声が聞こえてきた。

「だれだ?こんな所に同期の知り合いなんていないはずだぞ?」
「まあまあ。開けてみてくださいよ。」
そう言うルナマリアの声とともに医務室のドアが開いた。
と、同時に驚きの声が上がる。

「キラ!?」
「やあ、アスラン」
そう返事をするとアスランがずんずんとこちらに向かってきた。

「おまえっなんでここに?」
アスランの焦ったような冷静さを失った状態を初めてみるのだろうか。傍らにいたシンとルナマリアが目を見開いてアスランを凝視している。

「なんでって…。怪我したから?」
「怪我って…なんで…」
「なんでって…撃たれたから?」
「いやそうゆう事を訊いてるんじゃないし。しかもなんで疑問系?」
「さあ?」
「おい。ってかなんだよ同期って」
「同期ジャン?ほら、トリィもらう前。」
「あれは同期ってゆうのか…?」

 矢継ぎ早にされる会話に、シン達はただ目を丸くするしかなかった。しかもなんだかただの友人にしてはかなり親密そうな雰囲気である。アスランもキラも何故かしゃべり方が先ほどまでとは違っているのだ。
というかアスランがこんなにも饒舌にしゃべっているところを始めてみたし、いかにも「お互いに気を許してます」的なオーラに、ルナマリアは後でどういった関係なのか訊いてみようとおもい、シンはおもしろくなさそうにアスランを睨んでいる。

「…ほらシン達が驚いてるよ。いつもの冷静さはどうしたのさ。」
「お前が冷静さを根こそぎ奪い取って行くんだろうが。まったく。で?ここに何しに来たって?まさか本当に怪我の治療のためだけに来たわけじゃないだろ?」

その言葉にはシンが返した。
「本当ですよ。ちょっと…俺が、撃っちゃウグっ」
途中まで言ってシンが言おうとしている事に気付き口を抑えて遮った。キラのその行動にアスランが眉をしかめたが気にせずに間髪いれず言う。

「失礼だね。まぁ、確かに純粋な理由からじゃないけど。」

 その返答に驚いたのは完全に傍観側に回されてたシンとルナマリアだ。アスランと言えばキラの正体を知っているためこんな所に危険を侵してまで来る用事があったのだ、と言うことはわかりきっているから驚かない。

「ちょっ、ちょっと待ってください。どうゆうことですか!?」
当然だが、ルナマリアは今の台詞を咎めるように問いただす。
キラは苦笑いして、アスランに目配せをする。
するとアスランはキラの言いたい事をわかったように一つ頷いて、怪訝そうにこちらを見ているシンとルナマリアに「二人っきりにさせてくれ」と言った。

「な…」
「それは、無理です。説明をしてからにしてください。」

 返答に窮したシンと、冷静に返したルナマリア。先ほどの軽率な発言に、キラは舌打ちしそうになったが、それを抑えてにこやかに言う。

「大した理由じゃないよ。ただ見たかったんだ。」

それだけを言うと、目の前の三人が同じような怪訝そうな顔をした。
キラは極力無邪気そうな顔を作って、ふわりと微笑み、言葉をつなげる。

「赤を着ている子供が乗っている艦は大抵が最新鋭だ。今のザフトがどんな物を作っているのか、興味があったから誘いを受けた、と言っても過言ではない…かな。」

シン達はキラのそんな微笑みにみとれ、顔を赤くしてじっとキラを見ている。

よし、もうひと息。

そう思って再度アスランに視線を送った。
アスランは顔を引きつらせながらも、キラの考え通りに動く。

「…キラは戦艦とかMSとかが好きだからな。軍から離れて結構経つし、そんな事だろうと思ったよ。」

言いつつもアスランは心の中で、
(たくましくなったな、キラ…。)
と、遠い目をしながら、
(昔は泣き虫でお人よしで甘ったれな奴だったのに…。)
なのに今では自分の魅力を最大限に使い相手を陥落させようとしている…。
渇いた笑いをこぼし昔を思い出していた。
 あくまでも心の中で、だが。表面上はそんな友人を呆れたように見やっているだけのように振舞っている。

キラといえば表面からは全く見えない幼馴染の心情を察して、ひとり心の中でつぶやく。

(たくましくならなきゃやってられなかったんだよ。ほっとけ)

これまた無邪気に微笑んでいる幼馴染の返答を察したアスランが、

(ラクスは知ってるのか?)
(ラクスに言い寄ってくる男によく使う手だから、当然知ってる。)
(……「よく」…か。まぁ、良い変化として認識しておくよ。)
結局のところ本質は変わっていないのだ。キラの目にはまだ未熟な彼らを慈しむような光がある。本人は気付いていないようだが、やっぱりキラはお人よしで甘ったれなままなのだ。
 それに気付いてなぜかアスランは嬉しくなった。成長したんだな…。と思うとキラは一瞬驚いたような顔をして、そっぽを向いてしまった。しかしキラの顔がほのかに赤くなっているのに気付いて、アスランは笑いがこぼれるのを抑えられなかった。

 すると突然、

「…………ずいぶんと仲がよろしいんですね」

とルナマリアが言った。彼女とシンは、キラの言い分にとりあえず納得した後、アスランとキラがしばらく見つめ合っているのに気付き、急にキラが横を向いて、アスランが笑い出したのを呆然とみていた。その様子からして、彼らは視線で会話していたようだ。
 なんだか毒気を抜かれた気がして、気まずそうに目線を逸らしているキラとアスランを交互に見、ルナマリアは当初から気になっていた疑問を述べた。

「お二人は…どんな関係なんですか……」

アスランとキラは顔を見合せ、アスランが先に口を開いた。

「幼馴染兼親友、かな」
それにキラが一拍遅れてつけたす。
「プラス将来の義理の兄弟、だね。」

「……………………………………っておい!」

「なんだよ。」

アスランは少々顔を赤くし、キラはしてやったりと言いたそうな顔をしている。
 キラにしてみれば先ほどの発言(?)へのささやかなお返しをしてやったつもりなのだ。
今の発言は少々気になったが聞かなかったことにし、またまた二人の常とことなる(キラに関しては会ったばかりだが)顔に、ルナマリアは「ホント仲良いんだから。」と言って苦笑し、シンは面白くなさそうに視線を逸らし、「事情はわかりました。それでは、また、後で。」と言ってさっさと出て行ってしまった。
 ルナマリアもシンを追うように、「話が終わったら声掛けてくださいね。お見送りしますから」というと部屋を出た。

 ちなみにその時のルナマリアが考えていたことは、
「なぁに、嫉妬かしら〜?かわいいわね、シン。しかしあの二人なんか熟年夫婦みたいな雰囲気かもし出してたわね。いいな〜。うらやまし〜。」
という物だった。

 彼らの気配が完全に消えると、キラは今までの子供じみた顔をやめ真剣そうな凛とした声で、話を切り出した。アスランも真剣な顔で聞く準備をする。

「僕がこれから言う事は全て事実だから。よく聞いて―――――…。」



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