「上陸許可とか、出るのかな」 やけに久しぶりに感じるが、いつものように皆で集まって談笑している時だった。 メイリンの呟きに、口に出さずとも同じ事を考えていた面々は自然とその辺りの事情を知っていそうなレイとアテナへ視線を送る。 しかし片方は何を考えているか分からない無表情で、もう片方は手元の端末を弄っていて聞いているのかいないのか。 まぁアテナの方はまたプラントから仕事を押し付けられたのだろうと判断し、邪魔しちゃならないと結局その隣に座るレイの方へと視線が集まった。 「・・・・・・・・・どうだろうな。俺は聞いていない」 仕方が無いというか、やはり彼も知らないらしい。はぁ、と初めてのオーブに期待を寄せていた者達がため息を溢したのを聞いて、今度はアテナが口を開いた。 「現時点ではまだ開戦まで行ってないけど、あんまり情勢はよくないからね。難しいと思うよ」 目線はディスプレイに落ちたまま冷静に言われた事実に、再度重々しいため息がこぼされる。それでも皆バカンスに来たわけではないとちゃんと理解しているから、不満を口に出す事はない。 だがやはり若さ故か諦めきれずにいるらしい同僚達を興味なさそうに見て、レイは徐にアテナが弄っている端末を覗き込んだ。使っているPCが先日自分が渡した方のだと気付いていたのだ。 そして、彼が先程から何をやっていたのかに気付くや否や、人知れず驚きの声をかみ殺すこととなった。 「・・・・・・・・・・・・アテナ」 「ん、内緒ね」 堂々と地球軍のネットワークに侵入している彼に静かに声をかけると、アテナは薄く笑いながらレイの肩を叩く。その動作によって不思議と強くなった、秘密を共有している感じが心地よい。 思わずふ、と同じように薄く笑ったレイに、どうやら他の面々もアテナの手元に興味が出てきたらしい。 しかしそれを誤魔化すように、アテナは少々大げさに肩を竦めて嘆息したのだった。 「ま、どうせ僕には許可なんて出ないでしょ。オーブには知人も居るし、議長が許すはずないって」 その言葉に一瞬、妙な間が出来る。予想ではすぐさま叱咤激励の言葉が返されると思っていたのだが。 不思議に思って顔を上げてみると、何故か皆信じられない物でも見るかのように、アテナを凝視していたのである。 「な、何。どうしたの皆?」 若干怯えたように顔を引きつらせた彼に、一番最初に我に返ったルナマリアが誤魔化すように笑った。 そうだ、彼は知らないのだ。・・・盗撮騒ぎの際キレたタリア艦長が議長に対してどんな反応をとったのか。 思い出したくないのに思い出してしまい、背中で流れ出した冷たい汗に身を震わせながらも、彼女は戸惑うアテナに答えてあげた。きっと母性本能の賜物だろう。 「ううん、何でもない・・・・けど、きっと艦長は出してくれるわよ、許可」 ルナマリアの疲れきったようなその言葉に、重々しく無言で頷く者数名、小刻みに頷き続ける者数名。 何をそんなに怖がっているのか全然わかっていなアテナは、ただ不思議そうに首をかしげていた。 奪われる翼35あれから地球軍に動きはない。 きっとネオはキラの予想通り動いてくれたのだろう。ユニウスセブンも結局は粉砕に成功したし、表立ってコーディネイターを責められる義がないせいだ。 もし地球軍幹部又は新しいブルーコスモス盟主が究極に馬鹿で独裁者だったら、また戦争が始まっていただろうが、今の時点でそれを開始してしまえば、どちらが有利かは目に見えている。 折角復興し始めた世界に石を投げる者などいらない。いざとなれば国民総出でその者の排除にかかるだろう事がわかっているからこそ、動く事が出来ないのである。 しかし、情勢が不安定なのは変わらないまま。地球軍がザフト軍のMSを奪取したのは事実だし、ザフト軍が攻撃を仕掛けられているのもまた事実。 ただ決定的な出来事がないだけで、いつ再戦されても不思議ではないのだ。 それでもこれは、ある意味いい状態であると言えよう。 今の世の中はやじろべえのような物だ。つりあってはいるが不安定で、重心を支えているのは細い針のみ。 けれどそれを、重くてしっかりとした柱に変えてしまえばどうなるだろうか。元々つりあっていた所を補強され、少しの事ではぴくりとも動かなくなる。 (まぁやるとしたら理論はこんな感じだよなー・・・) 柱となれる者がいるとすれば、それはカガリとラクスだろう。他の三隻同盟に属していた者達も、快く表舞台に立ってくれるはずだ。 ――――けれど、そう上手くいくだろうか。 (・・・・・・・・今考えてたって仕方が無いか) そう思いつつも、逸る気持ちを抑える事はできない。何せ戦争がはじまったらもうアウトだ。また新しい手を考えなくてはいけなくなる。 そうなる前に、どうか。 (アスラン、早くラクスと母さんを見つけ出して) 祈るように目を閉じて、キラはそのままオーブ滞在一日目を終了させた。 キラが眠りにつく数時間前。 ミネルバを収容したドックに、二人の女性の姿があった。 「モルゲンレーテ造船課Bのマリア・ベルネスです。こちらの作業を担当させていただきます」 「ミネルバ艦長のタリア・グラディスよ」 名乗りあって握手を交わした彼女達は、どこか浮世離れした魅力があり、その場にいた多くの男性の視線を集めていた。 印象はお互いに良い。むしろ何故かこの少ない会話でも、仲良くなれるように感じた。 徐に微笑も交わし、手を離したところで先にマリアが口を開く。 「キラ君はお元気ですか」 「え?」 世間話でもするような気軽さで言われたのは、随分と唐突な話題で。タリアは一瞬何を言われたのか分からなくて、反射的に聞き返してしまった。 けれどマリアはにこにこと微笑んだまま。まるで聖母のような微笑に、タリアは急に冷静になって探るように彼女を見た。 「誰の事でしょうか?」 はぐらかしつつも、ミネルバの乗員名簿には載っていないその名前が誰を指すのかは、十分承知している。しかし相手が何を考えてその名を口にしたのかが分からないので、自然と警戒するような態度になってしまったのだ。 だからか、マリアは少し慌てた様子で「ごめんなさい」と謝罪してきた。次いで言われた言葉は、タリアにも予想していなかった事実であった。 「警戒しないで大丈夫です・・・と言うのも何だか変かもしれませんけれど。ここにいるのは皆、元アークエンジェルの者達ですから」 「えぇ!?」 隣にいた(悪いが存在を忘れていた)アーサーが素っ頓狂な声を発し、ドックをぐるりと見渡す。タリアもまた、声には出さずとも充分驚き、声も無くミネルバを囲んで作業を続けている者達に視線を移していた。 するとその中の数人と目が合わさり、すぐさまぺこりと挨拶をされたのだ。その顔には苦笑が浮かんでおり、何故か「うちの子がお世話になってます〜」と言われたような気分にさせられた。 「あの子ったらすぐに無茶するのにそれを上手に隠しちゃいますし、妙に逆らえない雰囲気を持ってるから・・・上官としては扱い難いでしょう? 本当に申し訳ありません」 「あ、いえ。いつも力になってもらってます。優秀なお子様をお持ちで・・・・・・・・・」 って違うだろ。 何だこの集団保護者面談みたいな雰囲気は。そちらの方が一枚上手だったのか、まんまと流されてしまった。 タリアは無意識にマリアの聖母のような微笑、もとい保護者の苦笑を凝視しつつ、内心で敵わないと白旗を揚げたのだった。 「・・・・・・・・・・・彼はつい先日倒れたばかりなので、会ったら叱ってあげてください」 彼女は、否彼女達は、アテナを害すような者達ではないと勘が告げていた。だからこそこちらも苦笑しつつ今度は素直に情報を渡すと、マリアは「やっぱり」と言いたげに眉根を寄せ、「もちろんですわ」と返したのだ。 そしてすぐにその場違いとも言える顔を引っ込めると、なんと彼女は徐に深々と頭を下げたのである。 「あ、あの!?」 らしくもなく焦ったようにタリアが声を上げたが、気付けばドックにいた大半の整備班も同様に、自分に向けて頭を下げているではないか。 何事なのか、とアーサーと一緒になって戦々恐々としていると、ゆっくりとマリアが顔を上げて告げたのだった。 「ありがとうございます。キラ君を受け入れてくださって」 「「え?」」 二人の声が重なると、心なしか深くなった苦笑。その瞳がどこか遠くを見ているようで、何故かそれ以上聞いてはならない気がした。 「私達は一度、間違えてしまいましたから」 それ以上言う気はない。だから一度だけ振り切るように目を瞑り、マリアは自分と同じように感傷に浸っているらしい部下達に向けて、はきはきと声を掛けたのだ。 「さぁ、皆作業に集中して! 盗撮器の入る隙間なんてないくらい、色々と強化するわよ!!」 それは、果たして彼女の独断でやっていい事なのだろうか。そう思いつつも誰も突っ込んだりはせず、「おーーーー!!」という威勢の良い返事が返ってきた。 そんな風に、皆キラの事は本当に大事だし心配ではあるが、割り切れる位には大人だった。それが何とも頼もしく、そして喜ばしい。 こんな時にそれを実感しつつ満足げに頷いた後、マリアは視線をタリアに戻したのだが・・・。 (ひぃ!) 思わず息を呑んで後ずさってしまった。彼女の傍らにいるアーサーなど真っ青な顔をして今にも倒れてしまいそうだ。 「・・・・・・・・・盗撮器の存在、ご存知なのね。情報源はアテナかしら?」 「え、えぇ、まぁ」 それだけではなく、ミネルバクルーのほとんどがアテナに協力的であることも知っている。だからこその先ほどの謝礼だ。ちなみに、情報源は彼ではなくその母と女帝だったりする。 だがとりあえず頷いておくと、タリアはにっこりと、そりゃもう血管が浮き出てるのにこれ以上となくイイ笑顔を顔に貼り付けたまま、ガシッとマリアの手を取ったのだ。 「よろしくお願いいたしますわ。好きに改造してちょうだい。私も混ぜて」 怖い、めっちゃ怖い。けれどこの恐ろしい微笑に、喜ばしいのか悲しむべきなのか良く分からないが慣れていたマリアは、一番楽な対処を素早く選択する事ができた。 曰く、いっそ同調してしまえと。 つまり「やっぱ女性としても艦長としても、盗撮器は許せないわよね!」と思い(込み)、ガシッと手を握り返してはっきりと答えたのである。 「えぇ、もちろん!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・胃が痛くなるな、こりゃ」 さりげなく憐れにも「配線怖い! ワカメ怖い! 暗雲怖い!」と震えながら呟くアーサーを介護しつつ(何かトラウマでもを刺激したのだろうか。・・・・・・したのだろう)、マードックが呟いた言葉に整備班の者達は重々しく頷いた。 しかしそんな外野の苦悩など知る由もなく、急に一蓮托生とばかりに仲良く張りきり出した女性二人(片方は自他共に見とめるメカマニア)に、彼らは自分の行く末を案じたのだった。 (あとがき) 呑み呑まれ微妙な友情が芽生えました。 ちなみにマリアさんが黒い笑顔に見なれていたのは、女帝とその師匠のお陰です。自分は頭数にいれてません(笑 |
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