キラが目を覚ました時、視界は黒一色に染まっていた。

そしてすぐ様気付く。

この黒は自分の目を覆う厚い布によって出来たものだと。

自分の手足が、座り心地の大変よろしい椅子の足と肘掛に縛り付けられていることに。


それらを理解した途端、キラはかなり困惑したが、まず強く思った事は、一つだった。


「どこの変態の仕業だこれは。」


あのデコはまさかここまでしない・・・・と思いたい(願望)。

キラの唯一自由な桜色のかわいらしい唇からは、ずいぶんと場違いな言葉がこぼれたのだった。



奪われる翼2





キラが覚醒した数時間後、彼のいる空間に2人の男が侵入した気配がした。

屈辱的にも視覚が使えないので、力無く俯いたまま聴覚だけで侵入者の解析を始める。

何せ数時間も同じ体勢で放置されていたお陰で、結構冷静さを取り戻していたのだ。


そしてその解析の結果、入ってきた人物は足音の間隔と重さから多分両方男だということがわかった。

ちなみに、片方は軍靴の音。もう一人は素材の大変よさそうな皮靴の音である。

しかも後者は裾のかなり長い上着を着ているようだ。その布擦れの音は、布地の上質さもついでに物語っていた。


伊達に戦後・・・1年半ほど前からたったさっきまで、周りを金持ちの令嬢・ご子息に固められていた訳ではないのだ。嫌でも感覚がそう言った事関連に慣れてしまっている。


それはそうと、とにかく入ってきたのは高級感あふれる衣類を身につけた男と、軍人の組み合わせだった。


(もしやどっかの危ない趣味をもつ金持ちのおっさんにでも拉致られた?)


自然とキラの頭の中でそんな考えが浮かび上がってしまっても、仕方の無い事だろう。

しかしそんなそんな彼の内心を知るはずも無く、軍人らしき男が徐にキラに近づいてきて、その視界を覆っていた布を取ったのだ。


すると必然的に、彼の稀有な美貌が明らかにされる。


その瞬間男達が息を呑んだのに気付き、自分の容姿に自覚のあるキラは、「危ないおっさん説強し」と口の中で呟いたのだった。


それから目を瞬かせつつ、ゆっくりと正面にいる男に視線を向ける。

―――やはり男の着てるものが一目で高級さのわかるものであったりしたのは、結構な蛇足であるが。

見上げた先にある顔を見た途端、キラは先程の男達とは別の意味で息を呑む事となったのだ。


「デュランダル議長・・・!?」


彼は最高評議会の制服を身にまとい、琥珀の瞳に黒の長髪を有していた。


その人物を、キラはテレビ放送のお陰で知っていたのである。


その呆然とした呟きに、議長は目を細めて笑った。


「ああ。私はギルバート・デュランダルだ。はじめましてだね、キラ・ヤマト君。」


キラは確かに目の前に有名人がいた事にも驚いたが、実はもっと別の意味でも驚いていた。

しかしあえて純粋にこの一点だけに対して驚いた、とでも言いたげに、呆然と言葉を発したのである。


「プラントの新議長がこんな趣味を持っていたとは・・・、知りませんでした。」


顔を青くして、移動できない代わりに精一杯身を引きながら。

議長はそんなキラの行動に思わず顔を引きつらせたが、「誤解しているようだが」とすぐに話しを切り返したのだった。


「君にそのような処置を取っているのは、君のもつ力を恐れているが為だよ、キラ・ヤマト君・・・いや、キラ・ヒビキ君、と言った方がいいのかな?」


それは、本来表に出てはいけないはずの名前。早々に話をつけたいらしく、早速切り札を出しやがったらしい議長を内心で罵りながら、キラは首をちょこんとかしげて愛らしく訂正する。


「いえ、僕の名前ははキラ・ヤマトであってますよ。力って・・・僕は生まれてこの方、一度も同い年の幼馴染に腕相撲で勝ったことが無いんですが・・・」


若干の恥らう仕草と共に目を伏せると、議長が衝撃を受けたように僅かにだが後退した。意外と可愛いもの好きだったりするのだろうか。いや、そうなんだろう、だって変態だし


内心で随分と酷いことを言われているのに気付いているのかいないのか、キラ流罪悪感刺激攻撃になんとか(気力で)踏みとどまったらしい議長は、今度はむかつく事に哀れむような視線を向けてきた。


「そうか、君は知らないのだね。君は、コロニーメンデルでユーレン・ヒビキ博士によって作られた、最高のコーディネイター・・・。人工子宮より生まれた唯一の成功作なのだよ。」


囁くように、耳元で言われた言葉(というかその行動)に思わず鳥肌がたったが、反応したら図に乗りそうなので耐えて見せる。

ちなみに頭の片隅では、あ、この台詞どっかで聞いたような・・・あぁ、仮面か。などと思っていたが、表面上ではとぼけ続ける事にした。

だいたい、当時こそその事実に驚き絶望しかけたが、すでに一年以上経っている今では、大した感慨は受けない。ただ少し、忌々しいとは思うけど。

また、ギルバート・デュランダルは遺伝子学の権威として名高いのだ。自分がどうしてこのような状況に陥っているのか、キラは議長の顔を見た瞬間に粗方悟っていたのである。

だから心の準備は十分できており、反応を返さずにとぼけ続ける事が出来たという訳だ。


「え・・・? 最高の、コーディネイター・・・? 僕幼馴染に腕相撲で勝ったことないのに・・・!?」


ぶっちゃけ、キラだってこんなことで家に帰してもらえるとは思っていない。

だが少しでも非力で頭の弱い青年として振舞えば、いつかはきっと諦めて帰してくれるだろう、そんな風に楽観視していたのだ。


―――しかし、その目論見は甘かったらしい。

キラは、議長の次の言葉にその認識を改めざるおえなかった。

「いや、確かに腕相撲では無理だったかもしれないが・・・君は、アスラン・ザラにMS戦で勝った事があるそうじゃないか。結果は勝てないと悟ったイージスが自爆する、という形にはなったが・・・。」


知ってる、この男、キラがストライクに搭乗していたことを。

そして、キラはその次の言葉に、ついつい頭の弱い青年という仮面をはがしてしまったのだった。


「それに、フリーダムでの出撃では今でも語り継がれているほどの雄姿であったそうではないか。君は十分強いよ、キラ・ヒビキ君。」


キラはその言葉に眉を顰め、「何が言いたい。」と、そう低い声で問いただす。


その様は警戒心の強い猫のようで、議長はその様子に愉悦を刺激され少しばかり笑みをこぼしたのだった。


先程からキラは目の前の男が浮かべる笑みが気に食わなかった。何かをつかんでいるような、此方を馬鹿にするような、そんな含みを持った笑いが。


議長は一際視線の厳しくなったキラの様子に更に笑みを深め、言葉を続ける。


「本当は知っているのだろう?自分の出生を。

その力の特異さを。

だからこそ私は君を利用したいのだよ。」


歌うように、キラの反応を楽しむように。

相変わらずの含みを持った笑みを浮かべて、彼は続けるのだ。


「それとも、ここまで言わねばならないかな?

・・・・・・ラクス・クラインと君の叔母上の命が惜しいならば、私の手を取りたまえ、と。」


その言葉にキラの思考は一瞬止まり、目を見開いて素で「え・・・・?」と疑問の声をあげていた。

議長は近くにあった椅子に悠然と腰掛けながら、笑みを浮かべたまま、キラの方を見ずに続ける。


「ああ、言い忘れていたがね、ラクス嬢とヤマト夫人も君と一緒にプラントへおもてなししてあるのだよ。
 今は新しく出来た小型のコロニーに2人一緒にいらっしゃる。
 もちろん、外界との連絡を一切遮断した形で、ね。」


そう言ってにっこりと微笑み、絶句しているキラへと視線を戻す。その姿はまるでネズミをいたぶる猫のように残酷で、キラの背に冷たい汗が流れた。


「わかったかい? 君の逃げ道は無いのだよ。これから君にはプラントの手足となって働いてもらうつもりだから、反抗しない方が君のためだ」


反論を、したかった。けれど何を言えばいいのか。舌が固まったように動かず、心臓の音だけが抗議の音を上げていた。


「そうだな、もし君が外界と連絡を取ろうとしたら、その時点でラクス嬢の指を一本切り落とそう。
もし君が逃げようとすれば、夫人の指を。
謀反を誰かに相談した時点で、両人の指をまた。
他には、どんなパターンがあるかな? 決定権は私にあるから、女性達の指が欠けるのを防ぎたいのならば、私の言う通りに動きたまえ。」

そう言いながら尚も笑っている議長に、キラは鳥肌が立つのを抑えられなかった。

そして見開いた目のまま、目の前に座る議長を凝視する。


この男の言った言葉が信じられなかった。なぜ彼がこうまでして自分に執着するのか、わからない。


存在を忘れていた軍人によって手足の戒めが外されても、キラは指一本動かすことが出来なかった。


できるのは、ただこの捕捉者の笑みを浮かべる男を見るだけで。







 (あとがき)
ぎゃぁ!恐っ!!議長黒っ!!!あの人はどこでも悪役になってしまう。
アニメでもなんか黒いオーラ普通に放ってるし。
序盤のギャグ風味な雰囲気はどこ行った!?

決めたぞ、今後の方針!!
「シリアス&ギャグな、キラの密かな議長暗殺計画☆
彼は一体ラクスの手を何日でドラえもんにするのか!!
こうご期待!!」

・・・・恐ぇ・・・。しませんからね、こんな話に。
 



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