「君にはこれを渡しておこう」

そう言って渡されたのは、綺麗なラピスラズリのピアスだった。



奪われる翼3





「シン! レイ!! 聞いて、なんだかすごい情報手に入れちゃった!!」

シンとレイが食堂で食事をしていると、ルナマリアが走って彼らに近づいて来た。

そして目を輝かせながらも無言で数枚の紙を2人の前に差し出したのだ。

シンは全く興味がない、とでも言いたげに食事を続けるので、レイが一つため息をついてから紙を受け取った。


それから彼はしばらく紙に印刷された情報を見ていたが、不意に「これは・・・?」といってルナマリアを凝視する。

その瞳は柄にもなく好奇心で光っていた。

常ならば、ルナマリアの持ってきた情報をレイはざっと目を通すだけして、自らその内容について問いただすようなことはしない。ましてや、何かに興味を持つようなこと自体が普段からあまりないのである。


だからこそシン自身もルナマリアの情報に興味が湧いて、レイの持っていた紙を覗きこんだ。

そしてそのままの体勢で目を見開き、固まってしまったのだ。


「なんだ、こりゃ・・・」


ルナマリアの持ってきた紙には、ある人物の成績データが書いてあった。

射撃、MS操縦、プログラミング、爆弾処理、ナイフ戦、白兵戦・・・どれも武官志望のアカデミー生の必修科目の結果だ。

そのデータ自体は決して珍しいものではない。シンもレイも、ルナマリアだって受け取ったことがある。


だが、問題はその評価だった。


「爆弾処理A、射撃・ナイフ戦・白兵戦S、MS操縦SS、プログラミングSSSぅぅうう!?なんだこのでたらめな評価!!
あのアスラン・ザラだって総合評価はSだったんだぞ!? こいつ総合評価SSじゃんか!」


そう言うシンの声はもはや悲鳴に近い。

反してそれに答えるルナマリアの声は、何処か誇らしげだ。


「そうなのよ! でも本当らしいわよ!! 教員室で、何度も確認したらしいこと言ってし! 先生たちもすっごく戸惑ってらしたけど、ルナウド教官が付きっきりでやったらしいから、間違いはないわ!!!」


もはや興奮のし過ぎで、彼女の声は耳が痛くなるほど高くなってる。シンはそれに顔をしかめながらも、ルナマリアの言うルナウド教官の人となりを思い出して見ることにした。


評価は激辛、舌も激辛、性格はネバネバ・・・だったっけ。(どんなだよ)


するとそんなシンの様子を横目で見ていたレイが、しっかりとした言葉でルナウド教官の説明をしてくれたのだった。


「厳しい評価しかしてくれないで、毒舌で、いちゃもんをつけるのが好きな、あのルナウド教官か?」

「そう、そのルナウド教官!!」


ルナマリアはそう言って指を鳴らしてみせた。

彼女のそんな様子にシンはふと違和感を感じ、訊ねることにする。


「ルナマリア、なんかいつにもましてテンション高くないか?」

そう。ルナマリアは大抵冷静沈着、いたってクールな女性なのだ。関係の薄い者たちからみれば、だが。

実際はかなりアバウトなところがあったり、自分が苦労して集めた情報を人に教える時など、彼女はかなりテンションが高くなる方なのだが、今日ほどではない。

レイといい、ルナマリアといい、どこか今日は変だ。

そうシンが内心で呟いていると、ルナマリアがシンの疑問に答えてくれたのだ。

「まぁね。私だって自覚してるわよ。でも、さっきその記録の持ち主に会っちゃったのよ。教員室の前で。ばったり!!! すっっっっごく、かっこかわいかったの!!!」

シンはもうルナマリアの叫びとも取れる甲高い声はどうでも良くなっていた。その代わり、その頬を染めて夢見るような瞳で、手を胸の上で組み虚空を見ながら語る、彼女の所謂乙女ポーズの方が気になって仕方がない。

別に、ルナマリアが他の男にぞっこんな風なのが面白くない、というわけではない。
はっきり言って、気色悪いのだ。

レイもシンも、彼女とは決して長い付き合いではないが、その人となりはわかっているつもりだ。

可憐な容姿とは裏腹に、かなりおせっかいでたまに男顔負けのことをしたり、どこのオヤヂだ、と突っ込みたくなる言動をしたりする。

そんな光景を嫌でも何度も見ていれば、目の前の可憐な夢見る乙女だって、ただの気色悪い男友達に見えてしかたないのだ。

しかも、


「かっこかわいい・・・?」

なんだそりゃ。


そう言うと、またレイが丁寧に解説してくれた。


「かっこいい、プラスかわいい、の俗語だな。果たしてそんな人間が実現するかどうかは疑問だが。」


そもそもかなりどうでも良いが、何故このいかにも堅物です、なレイがそんなことを知っているのか。シンにとってはそっちの方が余程疑問だ。

だがそれは口にせずに、むしろ一気に色々な事が馬鹿らしくなり、シンは二人を放っておいて残っていたデザートを食べる事にした。


二人とも気付いていないようだが、昼休みは後15分程度しかない。

軍人の卵たるもの5分前には次の講習先に着いてなければならないはず。移動時間も含め実施、残り時間は5分程度しかないのだ。

いつもならそれを気にするのはレイとルナマリアで、シンはどちらかと言うとせかされる方なのだが、今日は違う。

レイは粗方昼食を食べ終わっているからまだいいのたが、ルナマリアは所用で結構距離のある教員室まで行っていたせいで、まだ昼食は食べていないはず。


そんな事を考えている間に、残り時間は4分を切っていた。


シンは珍しくもため息をつき、尚もその記録の持ち主に関する話を続けている彼らに、注意を促したのだった。


「レイ、ルナマリア。あと残り五分も無いぞ。」


そう言うと漸くルナマリアはまだ自分が昼食を取っていないことに気付き、慌ててトレーを取りに行く。

すごいスピードで遠ざかっていく背中を呆れ顔で見ながら、シンはレイに視線を移した。


「で? なんでルナマリアはあんな記録取り出して来たんだ? さっき会ったとか言ってたけど」


今思えば、ルナマリアはあのデータをいつゲットしたのだろう。

教員室でその話を聞いて、そこから出た時にその記録の持ち主に会ったとすれば、おそらくデータを検索する時間は大して無いはず。

そんなことを考えながら、シンはレイの言葉を待つ。


「ああ、プログラミングのバグを確認するためにパソコンを立ち上げたら、たまたまこのデータに出会ったらしい。それで興味を持っていろいろ調べていたら今日・・・」


そもそも、ルナマリアが教員室へ行ったのは、プログラミングの教諭の使ったOSバグを指摘するためだ。

だからレイの言葉の途中で、ルナマリアがあのデータを得たのは教員室に行く前ということに気付き、それについては結局何も言わずに聞いていたのだが、レイの声は途中で遮られてしまった。


先程まで話題に上っていたルナウド教官の、登場によって。


ルナウド教官はシンたちを視界に入れるや否や、あからさまに表情を明るいものに変えた。

まるで、いい「カモ」見っけvとでもいいそうな、そんな具合に。

はっきり言って、先程のルナマリアと同じくらい無愛想な教官の笑顔は気色の悪いものだったが、それはおくびにも出さずに彼らは教官に敬礼をした。

そしてなぜか足早に近づいて来た教官は、その敬礼におざなりに返し、用件を素早く言ったのである。

「レイ・ザ・バレル、シン・アスカ。君達に頼みがある。」


そう言って教官は、食堂の入り口を振り返った。

そこには、直立不動でたたずむ茶髪の少年が。

教官が彼を手招きすると、彼が優雅な所作でシン達に近づいてきて、その美貌が明らかにされたのだった。


見るからにさらさらした褐色の髪、アメジストを連想させられる瞳、両耳からわずかに覗く深い青のピアス。

それらが、彼の端正な顔に絶妙な感覚で調和しており、不思議な魅力を放っていた。

シンたちが少年に見ほれていると、彼は穏やかに微笑み、自己紹介をしたのである。


「アテナ・ヒビキです。よろしく。」



その少年の両耳で、青い蒼い、ラピスラズリのピアスが妖しく光っていた。





(あとがき)
出ました。ピアスの正体気になりません?
ただのピアスじゃないですよ。

アテナ・・・知っているひともいるかもしれませんが、女神様の名前です。
詳しくは次回、なぜか知っているレイ君が説明してくれます。



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