「いい子達だなぁ。彼らと接触させて、どうするつもり?議長閣下。」

誰もいない空間に、美しい少年の声が響いた。



奪われる翼5





キラはギルバートから綺麗なラピスラズリのピアスを受け取った時、それをしげしげと眺め、何気なく

「所有のしるしv とか言いませんよね」

と冗談半分(つまり半分は本気の疑惑)で言ったみた。するとギルバートはそれに顔を引きつらせながらも、微笑を浮かべて「そうとも言うな」と返したのだ。

それに何よちも驚いたのは訊いた本人だ。反射的にすぐさまギルバートから飛びのいて後ずさる。その腕には鳥肌がこれでもかという位立っていた。


「なっ何を言ってんですか!? やっぱそういう趣味をお持ちなんじゃないですか!!!?」


今度はキラが顔を引きつらせてそう言うと、ギルバートはにやりと笑って言ったのだ。

それは今までみたどの腹黒い顔とも違って、どこか相手の反応を面白がっているような、やはり気に食わないが楽しそうな表情だった。


「あながち冗談でもないのだよ。それには超小型の盗聴器が仕込まれている。他にも君の脳波を感知するセンサーが。
君が逃亡の算段を立てたり、相談をしたり、それをはずそうとしたら・・・どうなるかはわかっているだろう?」


キラはそれに顔をしかめると、「ほんっとーに変態化してるじゃないか・・・!」と小声ながらも必ずや相手に届くような音量で貶してみる。

しかし当のギルバートはそれは聞こえない振りをして、どこからか太い針のようなものを取り出し、キラに笑顔を向けたのだ。

キラはそれを見てやはり反射的に更にギルバートから離れようとしたが、すでに壁際まで来ていて、それ以上下がる事が出来なかった。

それを追いつめるようにサディスト議長はことさらゆっくりとキラに向かって歩く。まるで蛇に睨まれた蛙、もとい猟犬に追い詰められたウサギな状態である。

キラは壁に背中を密着させながらも、ギルバートから視線をはずす事が出来ずに引きつった声で聞いた。

「なっ何をするつもり・・・?」


もはや敬語すら忘れているが、ギルバートが気にする素振りは見せない。いやむしろ思いのほか嬉しそうな顔をしながら、やはりゆっくりとキラに近づいていき、その顎を捕らえたのだ。

もちろんあいている方の手はまだ太い針を握ったまま。身の危険を感じてか、必然的にキラの視線は顔の横にあるそれに釘付けになっている。


「君はピアスホールなど開いていないだろう? 私があけてやろうじゃないか」
「はぁ!? ならカフスか他の物にしろって!!」
「脳波だぞ? 他に何にしろというんだね。大体、カフスなんてすぐに取れてしまうものでいいのかい?」
「じゃぁ、脳波やめればいいじゃないかぁ!!!!」
「脳波は個人差が出るから、君が常にそのピアスをつけているとわかるようにするためには、これしか手が無いのだよ。心音や呼吸音は他で代替ができるからね」


キラはとっさに言い返す言葉が見つからず、一瞬の静寂が出来た。

その隙にギルバートがキラの髪をかき上げてそのやわらかそうな耳をあらわにしたのだった。

だがキラはとっさのところで「ま、待った!!!」と叫んで耳をガードする。

そして内心で「この人絶対楽しんでる・・・!」と思いながらも、半分以上意図的な涙目で訴えたのだ。


「何も針でやらなくてもいいじゃないか!! 今の時代、レーザーやらなにやら手軽に可能なんだからそっちで!!!」


しかしギルバートは穏やかに(キラから見ればどす黒く)微笑み、


「それでは楽しくないではないか」


とのたまったのである。

キラはそれに顔を引きつらせ、ぶん殴ってやろうか、と本気で思ったが、「いいかげんおとなしくしなさい。ほら、絶対服従だろう?」と言われてしまいったので、しぶしぶながら手を下ろす。

すると素早くギルバートの持つ針が、キラの耳を貫通した。
そして何故かそのままの状態で一度手を離す。


「いったぁ(痛)・・・・・・・」


キラは片耳から針を生やした状態で、涙目でギルバートを睨みながら「変態・・・!」と罵りの声を上げたが、彼はもうその単語に顔を引きつらせることもなく、余裕の笑みを浮かべてキラの手からピアスを受け取り、光にかざしたのだ。

当然、水晶のように光を反射して輝く事はなかったが、それでもその深い青は非常に美しい。

キラはその綺麗な青に見とれながらも、行き成りピアスの解説を始めた議長にはっと我に返り、それから再び怒りで我を失った。


「このラピスラズリは金が混じっていないだろう? それは、これがより上質であることを示「どうでもいいから早くやれや、こんのサディスト変態議長!!!」

耳に違和感と熱を感じながら聞いていた説明はかなりどうでもいい話で。その上さっきから鬱憤が溜まりに溜まっていたので、どこのヤンキーだと言われても仕方が無い口調で遮ったのだ。

一方のギルバートはそれをつまらなそうに見やり、不意にキラの耳から勢いよく針を抜いた。


「つっっっ・・・!」


キラがそれに顔を歪ませると、数秒後に首筋に血が流れ始めた。その感触にぞっと身を強張らせた彼に気付いているのかいないのか、ギルバートは相変わらず微笑を浮かべながら耳に例のピアスを刺し込む。

そしてすぐにその反対側の耳にも。


キラはとりあえず終わったことに安堵し、キャッチを受け取るとなれない動作でピアスを固定した。

ギルバートはその一連の動作を興味深げに見て、椅子に座ると口を開いたのだった。


「それをはずそうとは思わないことだな。先程も言ったが、脳波をキャッチするセンサーがついている。それがこの先、どちらもその耳からはなれたらアウトだ。手入れがあるからね、片方だけの場合は容認しよう」


そう言いながらも今度は机においてあったプリントをキラに手渡す。

彼はそれを受け取りながら、眉を顰めた。そこには自分の明日から一ヶ月間のスケジュールがかかれていて、その中には「爆弾処理」「体術」「ナイフ戦」などの時間があったのだ。

徐にギルバートに視線を戻せば、彼は悠然と言う。


「君には来月から軍事アカデミーに行ってもらうよ。そこで常に最高の成績をキープしたまえ。トップではない。最高の、だ。意味はわかるだろう?」


キラはそれに無表情で頷き、ギルバートの言葉に耳を傾けていた。


「期限は一ヶ月だ。今から二ヶ月後に卒業を迎えることとなる。それまでに技術を完全にモノにしたまえ。ご婦人方の為にも、ね」




こうして、キラ・・・アテナはここ、軍事アカデミーに入学した。あの男のつけた偽りの名を語り、最高の講師に最高の技術を教授され、最高の成績をおさめることに成功したのである。


すべてはあの男の指示通りに、だ。


キラにとってそれは面白いことではない。もちろん、いつまでもあの男の言いなりになどなっているつもりもない。

だが、彼の手から逃れる術を、キラは完全に奪われてしまった。

しかし諦めたりはしない、絶対にいつか好機が来るはず。その時は、待ってろよ、ギルバート・デュランダル!!!

また決意を新たにしたその時、部屋にノックの音が響いた。気配からして、シンとレイだろう。

キラはしばし逡巡した後、ドアを開けて二人を出迎える。今更だが先程まで、一日の授業をすべて終えたので、与えられた自室で休んでいたところだったのだ。

ドアを開けると、二人が微笑んで「夕食の時間だ」と言ったので、キラも微笑み返して彼らと共に食堂へ向かった。


――――とにかく、今は二度目の学生ライフを楽しんでやる。

そうしないとやっていけない。

キラは、穏やかな笑みで出来たばかりの友人達と話しながら、そんなふうに考えていた。
 




(あとがき)
キラサイドで補足っす。こうして「アテナ・ヒビキ」が出来た、と。

かいてて面白かったです、議長とキラの攻防。
いやぁ、変態チックに出来上がったなぁ、と言うのが感想でございますわ。
なんかやらしいし。

 あ、これで引かないでくださいね?多分もうこんな変態チックになることはないと思いますから。
えぇ、たぶん。



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