突っ込んで来た奴を足払いで沈め、つみかかろうとするものはその寸前で腹に一発。蹴りを入れようとするものには上方に飛んで宙を切らせ、がら空きになっている顔に蹴り返し、飛び蹴りなんぞ無謀な事をする奴には、その足をとって慣性に逆らって投げてやる。


そんな事を繰り返すうちに、始まって2分も経っていないにも関わらず、10人余りいた集団はすべて地にのびていた。

その現状を作った少年はぼそりと、

「・・・馬鹿?」

と呟いたのを、だれも聞くことは無かった。



奪われる翼6





「アテナったら、どこ行ったのかしら。あと三分して来なかったらやっぱり探しに行きましょうよ」


ルナマリアの心配そうな声を聞きながら、レイはシンを見てため息をついた。

彼は今にも飛び出しそうな顔で落ちつかなげに辺りを見回している。まるで飼い始めの子犬のようだ。


「二人とも、アテナだって子供じゃないんだ。用事くらいあるだろうし、少し落ち着け」


レイのいつもながら冷静な声を聞き、ルナマリアとシンはムっとしたような顔をして、ふたり同時に叫び出しす。


「「レイは心配じゃないの(かよ)!!?」」


それには間髪入れずに、しかしいたってクールに答えたのだった。


「心配だ。当たり前だろう」


それを聞いて満足そうな顔をしたのもつかの間、また落ち着かない雰囲気が漂い始める。


さて、なぜ彼らがこんな会話をしているかと言うと、その原因はすでにお察しの通り、アテナが昼食の時間になっても集合場所に来ないからだ。

と言っても、まだ集合時間から5分と経っていない。だが、先程までレイ・シンと一緒にこの目的地にまで向かっていたはずなのに、いつの間にか彼が消えていたというから、余計に心配しているのだ。アテナは、何も言わずにどこかへ言ってしまうような子ではないと知っているから。

まだ彼がこの学校にきて一週間しか経っていないが、その間ずっと一緒につるんでいたレイ達には、それ位はわかっている。

なのに突如消えてしまったのだ。杞憂であればよいが、心配せずにはいられない。


そしてついに彼らの心配ゲージが頂点に達しようとしてその時、

「ルナマリア、約束果たしに来たよ」

という待ち望んでいた少年の凛とした声が。

ぱっと顔を声のしたほうに向けると、三人の顔は傍目にもわかるくらい明るいものとなった。


「アテナぁ!! どうしたのよ、一体!!?」


ルナマリアが泣きそうな声でそう叫ぶ。やはり声の持ち主はアテナで、彼はずるずると音を立てながらこちらに向かって来ているのだ。


・・・・・・・・・・・ずるずる?


レイは疑問に思って音の発信源を探し、それが目に入ると柄にも無く顔が引きつってしまった。

周りにいた者達も、アテナの美貌にしばし見とれた後、その手にもっているモノをみて硬直してしまっている。

しかしそんな周囲の反応を全く眼中に入れず、アテナはこちらに向かってくるのだ。

ちなみにシンとルナマリアも同様に、アテナの手にあるモノも周りの反応も全く眼中にいれずに、ただアテナだけを見ていた。類友という奴だろうか。


「ゴメン。何にも言わずに消えちゃって。ちょっと拉致られてたんだ」


その物騒な言葉とは裏腹に、彼の顔に浮かぶのは穏やかな微笑。

ルナマリアとシンはその言葉にすぐさまアテナの安否を確認し、心配した旨を伝えていたが、レイはそっちよりもいまだに音を発している物体の方が気になって仕方なかった。


「アテナ、その・・・引きずっているものは何だ?」


だからレイはシン達の会話の節目を見計らって、恐る恐る聞いてみたのだ。

するとアテナは今思い出した、とばかりに手に視線をやり、次いでそれをルナマリアの前にほいっと投げる。

ルナマリアはそれに驚愕するも、しっかりとその物体をみて驚きの声をあげたのだった。


「あれ?こいつイグナル・トーキンス?」
「へぇ、大層な名前だねぇ。知り合い?」
「え、いや名前を知ってるくらいだけど・・・これが、どうかした?」


そう言ってルナマリアはアテナに視線を戻す。

っていうか「これ」・・・もはや人として扱ってすらない。しかし、イグナルといえばかなりの美少年で通っていたはずだ。それが今は・・・まぁ、言うなればボッコボコ(?)で(引きずられたせいで)ボロボロな結構見苦しい状態である。

よく判別がついたな・・・と思いながら、シンもアテナに視線を戻した。

周りの視線を一身に集めながらも、アテナは実にさわやかに言う。


「うん。そいつにいきなり拉致られてさ。気付いたら囲まれてて、ムカついたから全員のしたけど、弱い弱い。で、急にルナマリアとの約束思い出して、もっと憂さ晴らしさせてもらおう、と思ったので持ってきましたv」


語尾にハートマークがついていようがなかろうが、言っている内容は結構恐い。

だがそんな事もやはり気にせず、最近頭の中がアテナに埋め尽くされている2,5人(レイは一応分別がつくから0,5人分)とアテナ本人は、穏やかに会話をし始めたのだ。


「あぁ、あの約束。さっき言ってたのはその約束のことだったのね。」
「うん。後は頼んだからね、ルナマリア。」
「えぇ、任しといてv」


何だか不穏な空気を発しているアテナとルナマリアにたじろぎながら、レイはシンに話し掛ける。


「イグナル・トーキンスといえばつい最近まで赤を着ていたな。」
「あぁ、そういえば。でも今緑の制服着てるってことは、あれだよな。」
「僕が来てトップ20からはずれちゃった、と。典型的な逆恨みパターンだねぇ」


ルナマリアとの会話が終わって彼女がイグナルをつれてどこかへ消えていくのを見送りながら、アテナも会話に加わった。

そして「馬鹿だねぇ」と笑顔で呟きながら、レイたちを食堂へ誘う。

彼はきっと退学だろうな、とラピスラズリのピアスをいじりながら、アテナは思っていた。

 




(あとがき)
ちょっと番外編っぽい話の流れですね。
学生時代の穏やかな(?)一コマでした。

ルナマリアとアテナが何を約束したかはご自由におまかせしますが、
概要は「アテナにちょっかい出してきた愚か者に刑罰を与えたいから、知らせてねv」的な。

・・・まんまですかね。
彼女がいったいこの後何をしたかは、それこそご想像におまかせいたしますわ。

次はもう卒業します。話し飛びます。要望があったら番外編で書くかもですが。



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