くるくるくるくるくる。

ひらひらひらひら。

・・・きれい。

 ガラスに映った自分の常とは違う格好と、ひらひらとゆれる布をうっとりと見ていたステラは、回転の途中でふと「黒い小さなモノ」を見つけて、つられるようにそれについていった。

 街にいた軍人を注意深く見ていたアウルとスティングは、ずっとついて来たと思っていた少女が何時の間にか消えていたことに、しばらく気付く事はなかった。



奪われる翼9





「何処に行くの?」

ステラが先程見たのは小さな黒猫。
 それが、まるで彼女を導いているかのように、人の気配にも逃げずにゆっくりと路地裏に入っていく。

 それを不思議な気持ちで追いかけていて、ステラは仲間二人の存在をすっかり忘れていた。

そしてもう一度、「何処に行くの?」と聞くと、それに答えるように子猫は「にゃぁ」と鳴いて、急に走り出した。

 反射的にそれを走って追うと、少し開けたところに出た。
といっても、まだ路地裏の域を出てはいなかったが、連なっていた建物も道も途切れ、少し高い位置にあるらしく、人一人が両腕をを広げていられる程のスペースから街の風景を一望できた。

 その風景に一瞬見とれながらも、またさっきの子猫の「にゃぁ」という声が聞こえたのでそちらを見てみると、ステラは今度こそ目の前に広がる光景に完全に見とれた。

5メートルほど先で、少年が一人木箱の上に座っているのだ。
その膝の上には小さなパソコンとさっきの子猫。

少年は穏やかな顔で子猫ののどを撫でながら、パソコンの電源を落としていた。

薄暗いはずの路地裏だけれど、建物も道も途切れたせいで光が入ってきている。
その光が、少年を優しく照らしていた。

 少年の造作はもちろん、彼のもつ雰囲気がとても綺麗だった。

だから思わず
「・・・きれい」
と思ったことをそのまま呟くと、その綺麗な光景を作っていた少年が顔を上げ、ステラを視界に入れた。

 そしてふんわりと微笑み、言う。

「地元の子?」

それには首を横に振るだけで答える。

すると少年は穏やかな顔のまま、「じゃぁ、迷子?」と訊いた。

 そこでステラは漸く自分の周りを見渡し、「ここ、何処・・・?」と呟くように言ったが、すぐに少年に視線を戻して

「あなた、誰・・・?人間・・・?」

と訊いた。今は、自分のことよりも目の前の人物の方が気になったのだ。

人間か、と訊いたのは少年が余りにも綺麗だったため。

 ステラは誘われるように少年に近づき、間近で彼をじっくり見てみた。

 すると少年は一瞬びっくりしたように目を見開いて、すぐに微笑んで言った。

今にも崩れそうな、儚い笑顔だった。

「僕は、キラ。・・・人間だよ・・・。」

そう、僕はキラ。アテナなんて名前じゃない。
化け物でも、最高のコーディネイターなんかでもない、ただの人間なのだ。

 ステラはそんなキラの様子に首を傾げ、そっと彼の頬に手を添えた。

「悲しいの・・・?」

するとまたキラは驚いたように目を見開き、微笑んでいった。

「ううん、大丈夫。」

そして頬に添えられた手の上に更に自分の手をそっと乗せて、「ありがとう」と言う。

 不思議な子だ。こちらの心を見透かされているみたいで、少しだけ、ラクスを思い出させる・・・。

そんな風に思っていると、ステラはまた不思議そうな顔で、「じゃぁ、寂しいの・・・?」と訊いた。

 そうかもしれない、とか彼女の純粋さが少し羨ましいかも、とか思ったりしたが、キラはそれにも首を振って、笑った。

「なんでも無いよ。それより、僕も迷子なんだ。一緒に大通りまで行こう?」

彼女といると素の自分をさらけ出してしまいそうで怖かったから、キラは苦笑に近い笑みをまた浮かべ、話題を変えるために少々強引にステラの腕を取り、先程ステラもキラもとおった道を戻り出した。

 ステラは、自分の隣で手を引くキラを、まだ不思議そうに見ていた。

彼の雰囲気は相変わらず綺麗だけど、どこか悲しい。さっきからずっと浮かべている笑顔も、本物ではないと、思う。

・・・不思議な人。

 ステラはそう思いながらも、黙ってキラに手を引かれるままになっていた。


数十分ほど歩くと、やっと大通りに出た。

 キラはそれにほっと胸をなでおろすと、ステラを見て、言った。

「君は、これからどうする?誰かと一緒に来たの?」

地元の子ではないと聞いていたのでそう聞いたのだが、ステラはまた不思議そうな顔で、ポツリと「スティングと、アウル・・・?」と言った。
しかもなぜか疑問文だ。

 なんだか頼りない返答に、キラはちょっと思案した。

どうせ一日休日を与えられた身だし、しばらくこの子の友達を探すのを手伝ってもいいかな・・・。

 と。そしてすぐに彼女にその意思を伝えようとしたその時、遠くから誰かの名を呼ぶ声がして、そしてそれに反応し、ステラは声の聞こえた方に顔を向け、また、呟いた。
 声は心なしか嬉しそうだ。

「アウル!スティング・・・!」

その呼び名に、ああ、一緒に来たって言う人達か。とキラはすぐに察し、ステラに向けて言った。

「よかった、迎えに来てくれたんだね。じゃぁ、僕はこれで・・・」

そう言って離れようとしたのだが、ステラはキラの服の袖をしっかりと握っていて、放そうとしない。

 どう反応しようか困っていると、先程の声の持ち主がすぐ近くまで寄ってきて、少女に向けてその名らしいものを呼んだ。

「おい、ステラ?何してんだよ。」

水色の髪の少年がそう言い、緑の髪の少年はキラに軽く一礼していた。

 キラはそれに苦笑と共に目礼で返して、またステラと呼ばれた少女に視線を戻した。

「ぇと、ステラ?どうかした?」

 名前を呼ぶと、ステラは思いのほか喜んだように目を輝かせ、薄く微笑んだ。

その反応にもっと早く名前を聞いてあげればよかった、と思いながら、何かを言おうとしているステラを、辛抱強く待つ。

 すると、彼女は漸く口を開いた。

「キラ・・・また、会える?」

と。その幼さを思わせる言葉にキラは穏やかに微笑んで、ステラの前髪を少しよけ、その額をあらわにしながら言った。

「君に会う意志がありつづけたならば、いつかきっと会えるよ。
次に会う時を楽しみにしてるね、ステラ。」

 そう言って優しく額に口付けた。

ステラはそれに嬉しそうに微笑み、黙ってみていたアウルが「ぁ、いいな!」と叫んだことは、綺麗に無視した。というか始めっから意識の範疇外だ。

 それから漸くステラはキラから手を離し、名残惜しげにしながらも、去って行った。

なぜかキラから離れることに水色の少年も不満げな声を上げていたが、緑の少年がため息と共に「この後は予定がぎっしり詰まってんだよ。時間通りに動かないと、ネオにしかられるぞ?」と言った言葉によってしぶしぶ従っていった。

時折振り返る3人に目が合うたびに手を振って、完全に姿が見えなくなったところで、キラも「仕上げ」をするために手ごろに座れて作業の出来る場所を探しに、その場を後にした。


 不思議な子達だった。持った事はなかったけれど、きっと兄弟がいたらあんな感じだったろうな・・・と思うと、キラの口元には自然と穏やかな笑みが浮かんだ。

それは、「偽りの自分」に疲れてきた、少年のささやかな休息のひと時だった。

 




(あとがき)
き・・・キラステ!!!?
 いや、ぶっちゃけ私はステラが好きです。
なんかかわいい・・・!からっ

 ごめんなさい、でも恋愛よりも親愛な感じでなんで、安心(?)してください。

近いうちにアスキラします!!お楽しみに!!



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