(なるほど・・・)

キラはカフェの奥の一角で、覗き防止のために壁に背をむけ、集中していたがために痛む体と目の奥を軽くもみ、パソコンの電源を落とした。



奪われる翼10





ぬるくなってしまった紅茶を一口含み、すでに黒くなってしまったディスプレイをにらみながら、キラは思案していた。

今回、パソコンに取り付けられたモノの性能がよくわからなかったので、とりあえずOS上に擬似空間を複数作り、キラが本来見ている画像を、他者が他のネットワークから覗く事が困難な状態にした。

 その擬似空間に上手く騙されてくれればそれでよし。運悪く本来のネットワークを見つけられたらそれでアウト。

一種賭けのようなことをしたのだが、どうやら結果は成功に終わったようだ。

 そして、擬似空間の裏で、キラはOS上のあのチップの性能を調べていた。

(メールや通信手段は、パソコンを与えられた時点で覗かれていることはわかってたさ。議長本人もそう言ってたから。
 でも、ココまでやっているとは・・・)

そう、議長は通信手段の監視のみならず、キラの開くネットワーク全て・・に監視の目を向けていたのだ。

そう、キラが見た全ての情報が議長の手に行くような、そんなシステムがあのチップに仕込まれていたのだった。

 どうせ狙いはキラがついついいつもの癖で地球軍のマザーに侵入して得る情報だったのだろうが、幸いと言うべきか、キラはそれをする前にチップの存在を知ってしまったから、地球軍の情報がザフトに渡ることはないだろう。

その事に人知れず安堵しながら、キラはオフラインの状態の画面まで議長の手に渡るようなシステムが組み込まれてなくてよかった・・と思った。

 生憎、それが技術の限界だったのだ。もしもう少し技術が進んでいれば、キラが擬似空間を作っていたことまであちらに伝わってしまっていた。そうなれば、ラクスと母の指はとっくに切り離されていただろう。

 その事にも安堵しながら、今後のことも考えてみる。

このシステムの対処は、このまま擬似空間の活用で事足りるだろう。
問題は、この状態からの脱出だ。

 キラたちが強制的にプラントへ連れられてきてから、半年ほど経ったが、キラはまだ、これといった打開策が浮かんできていなかった。

暇さえあれば考えている。
だが、まったく良策が思い浮かばないのだ。

誰かと接触したくても、常に監視と盗聴がされているのだ。
うかつな事はできない。また、誰かと連絡をとろうとするのも同様だ。

 誰かに助けを求める以外、この状況を打破する手はないのだ。

この身ひとつでは、出来ることも限られている。だれか、仲間が必要なのだ。

 それも、かなりの力のあるものの。

思いつくのは三名だ。アスラン、ディアッカ、イザ―ク。さまざまな分野で芳しい成績を残す彼らなら、と。だが、やはり自らの考えを伝える術を、キラは持っていないのだ。

 そんなことを考えながらも、すでにミネルバから出てニ時間はたとうとしている事に気付いた。

いくらなんでも、こんなに長く追っ手を撒きつづけながらも単独で行動するなんて、怪しまれるに決まっている。

 キラは一つため息をつき、残りの紅茶を一気に飲んでカフェを後にした。



片手にパソコンを大事そうに抱えたまま、キラは見えてきたミネルバに、無意識にため息をついた。

 悔しいから言葉には出さないが、キラは少し、偽りの自分で生活する事に疲れていた。

もちろん常に緊張状態であるから、と言う意味ではない。

 常に監視される立場。巻き込んでしまった少年少女への罪悪感。その子達の容姿や自分に関連する業。不要なことは口に出来ないという状況。なにより、焦り。

 ストレスが、たまるのだ。

彼らと話すのは楽しい。だけど、安らぐ事は出来ないのだ。己の、立場ゆえに。

そんなことを考えていたその時。

 キラが立っていた地面が、轟音と共にゆれた。

「なんだ!!」

思わず口にして、音のした方を見ると、そこには。

「カオス、アビス、ガイア・・・!!!」

 キラがOS開発に関わった、ザフトの最新MS三機が、そこに悠然と立っていたのだ。

思い出すのはへリオポリスのMS奪還。立場は逆なれど、もしかしてこれは・・・!?

 キラはそう思い至ると、全速力でミネルバへ急いだ。


途中、

「議長!!」

ミネルバの入り口付近でデュランダルと会った。

 彼もこちらに気付き、キラを待つかのように歩みを止めたので、キラはデュランダルの隣まで走り、そのまま共に歩きつづけながら言った。

「何事ですか!?」

「私にもよくわからないのだよ。ただ、見てのとおりだろうね。」

と。その顔にはかすかに焦りが見受けられ、キラは不謹慎だな、と思いながらも、心の中だけで「いい気味だ」と冷笑した。

 だが顔には出さず、冷静な顔で「僕もすぐにリバイブルででます!」と言った。

 リバイブル・・・復活を示すそれは、何を隠そうキラに与えられた最新鋭のMSの名である。

当然それにデュランダルも頷くだろうと思ったのだが、その予想は大きく裏切られた。

「いや、君は待機だ。」

と。デュランダルは硬い声でいったのだ。

外ではすでにあの新型MS三機と凡庸MSの戦い・・・ザフト軍に不利な戦いが繰り広げられているのに、何故。

 キラがそれに抗議の言葉を言う前に、デュランダルは厳しい視線でキラを見、もう一度言った。

「これは命令だ。“アテナ・ヒビキ”。君はミネルバで待機だ。」

と。わざわざそちらの名を出すと言う事は、言外に「婦人方の指を切り離されたくないのならば、ただ言われるがままにしておけ」とでも言いたいのだろうか。

 キラは必死で憤りの表情を隠しながら、押し殺したような低い声で「・・・はい」とだけ言い、共にブリッジに向かった。




「状況は?」

ブリッジの入り口の窓が開かれると同時に、デュランダルの落ち着いた声が響いた。
 その後ろに控えるように立つのは、ザフトですでに知らぬ者はいないとされる、美しい少年。

それを見た途端、タリアは咎めるように言った。

「芳しくありません。アテナ!貴方も参戦して!!」

と。だがアテナは動かない。議長を意味ありげに見るだけだ。
それを疑問に思っていると、今度は議長が口を開いた。

「彼は、今は待機だ。だがアテナ、もし宇宙空間にまで戦いが持ち込まれた場合、君も参加してくれたまえ。」

と。一応タリアはそれに納得し、アテナは敬礼だけで返した。

 モニターに映る戦況は、タリアが言う通り芳しくない。

先程から三機のMSに向かっていったほかのMSは、ことごとく破壊されている。

 そんな時、黒いMS・・・ガイアと、ザクの戦闘が目に入った。

(上手い、な・・・。)

先程から、ガイアに向かうザクは随分と上手く立ち向かっている。だがやはりスペック上の不利は否めないのか、どんどん状況も不利になってきた。
というか、あの凡庸型ザクでよくあそこまでもったな、と思えるくらいなのだ。よほどパイロットの腕がいいのだろう。

 しかし、キラはそんなことが気になっているのではない。
あのザクの動き。

似ている、のだ。所々にでる癖や、攻撃のタイミングが。

 だが、「彼」がここにいるはずはないのだ。
ここは、ブラントであってオーブではないのだから。

キラが自らの考えに沈んでいるあいだ、いつの間にかシンに与えられたインパルスもザクの加勢に加わっていた。

 そのままどんどん状況はこちらに有利に傾いてきたその時、急にガイアがコロニーの外郭に向かって走り出した。

 それに残りの二機も続き、またインパルスとレイの乗っているらしいザクが、それを追いかけて行った。

 どうやらルナマリアの乗っているらしいザクはそのまま帰艦するようだ。

機体から煙が出ていないところをみると、故障らしい。

 そこまで見届けて、アテナは議長に向けて言った。

「どうやら宇宙まで長引きそうです。リバイブルで待機しています。」

 と。すると議長が重々しく頷いたので、今日はなぜかキラに動き回って欲しくないらしい議長を疑問に思いながらも、敬礼をしてブリッジから出ようとした。

 ミネルバも上昇してきている。足元に気をつけながらブリッジの出入り口をあけようとしたその時。

 何かが、いや、何かを感じた。何度か体験したことのあるこの感覚。

「これは・・・?」

ついつい入り口で立ち止まり、疑問の声を上げるアテナに、艦長と議長の視線が集中した。

「どうかしたのかね?」

 アテナはらしくもなく呆然と議長を見返し、言った。

「この感じ・・・いえ、何でもありません。では。」

そう言ってもう一度敬礼し、今度こそ本当にブリッジから出、格納庫まで向かった。




先程の感覚。もう二年近くたっているが、まだよく覚えている。

『それだけの業、重ねてきたのは誰だ!?君とてその業の一つだろうが!!』

決して交わる事のなかった言葉が、未だにキラの耳にこびりついて、離れようとしない。

「あの仮面め・・・いつまで僕を苦しめれば気が済むんだ!!?」

思わず憎々しげに呟いてしまいながら、キラは素早くパイロットスーツを着、リバイブルのコックピットへ向かっていった。




 途中、すでに着艦していたルナマリアを見かけたが、彼女はこちらには気付かない様子で、ザクから出てきた人物に銃を向けていた。

 ザクから出てきたのは二人。

キラの、よく知る・・・二人。

「アスラっ・・・カガ、リ・・・?」

信じられないかのように目を瞠り、彼らの名を呼ぶ。
 キラは、彼らがその場を去っていくまで、一歩も動く事が出来なかった。






(あとがき)
き・・・記憶があやふやだ・・・。
すみません、何せ半年近く前に一回見ただけなので・・・
ぶっちゃけ所々にしか覚えてないんです・・・。

あれぇ、タリアが議長に言った第一声ってなんだっけ?とか、
「もう機密も何もありませんでしょう?」って言ったのっていつ?とか。
思ったりして・・・だって資料が無いんだもん!!
 小説探してんのに見つかんないし!マンガはそこらへん書いてなかったし!!

だから!細かいところは突っ込まないでください!!(泣



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