今期のザフトレッド四名の初陣後、早速あの・・アテナ・ヒビキが艦長から呼び出され、お叱りを受けたことはすでにミネルバ艦内では周知の事実だった。

 なぜ、そのようなことになったのかは、たった今終了したばかりの戦闘を見ていたものならば、誰しも想像できるだろう。

 彼は、敵軍MSを、圧倒的有利の状況にいながらも、とり逃がした・・・いや、見逃し、あまつさえ味方MSの行動を“OSに干渉”して止めるなどという離れ業まで披露してみせたのだ。

 最近のザフトのMSは、ほとんどが彼の手がかかっている事をザフトの者達は知っているからその手腕のほどには余り驚かなかったが、彼の行動には十分驚いた。

 軍人にあるまじき行為。攻めてきた敵を見逃すなどと・・・。

だが、それを咎め、理由を訊ねた艦長に、アテナは言い訳もせず、ただこう言ったそうだ。


「僕は、二度もあの人の死を見たくなかっただけです。」


そんな、理解不能な言葉を。だがそれを更に詳しく艦長が問いただす前に、傍らにいた議長が艦長に進言したらしい。

 曰く、「彼にも色々な過去があるのだろう。今回だけは見逃してやってくれ。」と。

その言葉と、アテナの今までの大きすぎる功績を考慮し、今回は不問のこととなったようだ。



奪われる翼12





「しっかしお前も大変だったよな〜艦長と議長に挟まれての詰問。考えるだけでも恐いって。」

 格納庫にて。ヴィーノの陽気な声に、いつものようにヨウランがそれを咎めた。

「馬鹿、それだけですんでよかったんだぞ。一歩間違えれば軍法会議ものだったんだからな。」
 そう言って、さっきからルナマリアのザクのコックピットで黙々と作業を続けるアテナにも、咎めるような視線を送った。

「アテナ、お前もだ。なんであんな軽率な行動に出たんだよ。」

 と。その声に漸く顔を上げたアテナは、ふぅ、とため息をついてコックピットから出て、そのまま無言でヨウランたちの前を通り過ぎようとした。

 だが、その時彼らと一緒にいたルナマリアとシンが、ほぼ同時にアテナの腕を掴み、進行を止めたのだった。

「アテナ。私も聞きたいわ。なぜあんなことしたの」

 ルナマリアの咎めるような視線を、アテナは静かに受け止め、ルナマリア、ヴィーノ、ヨウラン、シンの顔を順に見ていき、もう一度ため息をついた。

 そして、言う。


「軍・・・って、恐いね・・・。」


その唐突過ぎる話題の転換に、ルナマリアとシンは苛立ちアテナの腕をつかむ力を強くしてしまったが、アテナは全く気にせずに続けた。

「僕は、初めて人を殺した時・・・自分が怖くて仕方がなかった・・・」

 その言葉を、シンたちはすぐに理解する事はできなかった。
何故、そんな話になるのだろう。

 それに、彼の言葉はおかしい。

だって、アテナもシンもルナマリアもレイも、アカデミーを出て、さっきのが初めての実践だった。
 だが、その初陣の中で、アテナは一機たりとも敵MSを落とさなかったはず。
何機も戦闘不能にしたにも関わらず、だ。そのことは、すでに皆が知っていることなのだ。

 それに、なんだか今の口ぶりだと、すでに過去、「人を殺したことがある」とでも言いたげだった。

 シン達が混乱する中、アテナは、何処か遠く・・・まるで過去を振り返っているかのような瞳で、口元だけ自嘲の笑みを浮かべて更に言葉を重ねた。

「マインドコントロール・・・僕もアカデミーで受けたけど・・・本当は、そんなモノ覚えない方がいいんだ・・・」

 そして、そっとシンとルナマリアの手を自分の手から離し、今度は彼らの目をしっかり見て言った。


「シンも、ルナマリアも。君たち、さっき初めて「人を殺した」という事、わかってんのかな・・・?MS越しだったから実感なかったかもしれないけど、君たち、一機どころじゃなく、沢山のMSを破壊してたよね。」


 それを聞き、今更にその事実に行き当たったパイロット二人は、とっさにアテナから視線をはずしてしまった。
まるで、アテナの視線が、この上なく恐いもののように思えたから。

 彼の瞳は、悲しげで、いつものように凛として、・・・それでいて強いものだった。

自らの業をたったいま気付いた二人は、それは耐えられないものであったのだ。

 アテナは、今度は整備士二人に視線を向け、言った。


「君たちも、間接的に人を殺しているのだと、自覚した方がいい。」


これは、整備士全員に言えることだけれどね。と。

 そう、敵のMSを壊す味方のMSの整備をしているのは、整備士なのだ。
つまり、整備士は、人を殺す手伝いをしているのだ、と。

アテナは静かにそう言い、俯いてしまった少年達を一瞥し、格納庫から出て行こうとした。



 その、瞬間。



「そもそも何故必要なのだ!?そんな物が、今更!!」


という少女の弾劾のような声が、格納庫に響いた。

 アテナは反射的に声のした方を振り返ったが、格納庫のドア付近にいたせいで、発言者の姿は全く見えなかった。

 同時に、あちらからも自分の姿は見えないはず。

そんな事を培った軍人の性質で冷静に判断できたから、アテナは下手に動かずに、その場で待機することにした。

 ついでに、何故まだココミネルバに「オーブ連合首長国代表首長」がいるのだ、叫び出したくなったが、考えずともすぐにその答えは出されたから、無言で続く少女の声を聞いていた。

 あの状況で、この艦から出れるわけが無かったのだ。
外はすでに宇宙空域。しかも激戦中だ。

 安全のためにも、彼女も議長もこの艦からでるのは、あまりよろしくないことなのだから。


「我々は誓ったはずだ!もう悲劇は繰り返さない。互いに手をとって進む道を選ぶと!!」


 キラはカガリの声に含まれる心情を察し、耐えられなくなり目をふせた。

そうだ、アイリーン・カナーバの演説を聞き、その後の平和条約を見、キラもカガリも、「これで全てが終わった」と、そう思っていたのに。

 なのに今、キラはこうして軍人となり、戦う力・・・MSを開発し・・・。
まるで、自分こそが再戦の兆しを作ってしまったような気がしてならない。

 そう、誰もがわかっていることだ。このままでは、再戦は避けられないことを。

それを悲しく思いながらも、アテナは何かに耐えるように目を瞑り、俯いてきつくこぶしを握っていた。



 シンはそれを、呆然と見ていた。

たった今、あの大声を出している少女は、「カガリ・ユラ・アスハ」なのだと、ルナマリアから聞いた。

 アテナに、彼らは何をしたのだろう。オーブは、アスハは・・・何を?
あんなにつらそうなアテナは、初めて見た。もしかしたら、彼も自分と似たようなことが遭ったのかもしれない。

そう思うと、シンはいても立ってもいられなくなり、衝動に近い形で声を張り上げていた。

「流石、綺麗ごとはアスハのお家芸だな!!」
「シン!!」

すかさずレイから叱咤の声が上がったが、シンはカガリを睨みつけ、更に言葉を重ねようとした。

 だが、それは結局せずに終わった。

少し離れたところから、悲しげな、それでいて静かな凛とした声が自分を呼んだから。


「シン。行こう。」


と。それを、抗えないもののように感じ、シンは素直にアテナに導かれるがまま、格納庫から出た。




「・・・今のは・・・?」

アレックスが呆然と言葉を発すると、議長がとりなすようにカガリに向けていった。

「本当に申し訳ない、姫。彼はオーブからの移住者なので・・・」

まだ議長が何かを言っているような気がしたが、アレックスにとってそんな事はどうでもいいことだった。

彼が聞きたいのはそんな事ではない。

あの、声。

 慣れ親しんだ、あの柔らかな声。

カガリはきっと聞こえなかっただろう、コーディネイターならではの聴力で拾ったその小さな声に、シンは反応して去っていったのだ。

 先程の戦闘といい、アレックスはまた捜し求めていた人物に重なり、今がチャンスだ、と思い、カガリ達が何かを話しているのをいい事に手すりを飛び越えて格納庫へ降りていった。

 守るべき対象から離れるなんて、ボディーガードにあるまじき行為だ。
だが、アスランはその時、そんな事も忘れ、ただ格納庫の出口へ向かっていった。




 格納庫から出、しばらく行ったところで、アテナは足を止め、シンを振り向いた。

 そして、無言で抱きつく。

シンはいきなりのかなり嬉しい密着に、パニックになって裏返った声を出してしまった。

「ぁ、アテナ!!?ど、ど、ど、どうしたんだよ!!!!」

叫びに近いそれにも、アテナは全く意に返さず、ただシンを抱きしめる力を強めた。

 シンは両手の置き場に困りながらも、最後にはため息をついて、そっとアテナの体を抱きしめ返してやった。

 ついでに、顔も耳もこれ以上ないほど真っ赤で、心臓も耳にあるみたいにバクバク鳴っている。

それでも、シンはアテナから離れようとはせずに、ただ抱きしめていた。

 しばらくすると、シンの顔のすぐ横にあるアテナの顔から、音が漏れた。

 静かに、そのままの体制でアテナが呟いたのだ。


「しばらく、このままでいさして・・・。」


と。




(あとがき)
ぬぉぉおおおお!!シンキラ!!
でもぶっちゃけこれにはまたもや策略が!!

今回はいろんなところで疑問が湧いたでしょう。
それは、次回解いていきたいと思ってます。



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