腐っても鯛。 アカデミーでもよく聞かされた幼馴染の力に、キラは賭けてみる事にした。 奪われる翼13シンに抱きついたまま、キラは幼馴染の登場を待っていた。 先程、キラは意図した声量でシンを呼んだ。 不信には思われない程度に、幼馴染にぎりぎりで聞こえるような声量で。 きっと、彼はそれを耳に留めて、どんな状況だろうが追ってくる。 それは多分、カガリを置いていくことになるだろうが、この際それも免除する。 いいから変な理性を働かせずに早く来い、とアテナは思いながら、幼馴染が来るであろう、今通り過ぎたばかりの廊下を睨んでいた。 案の定、すぐに彼の幼馴染は姿をあらわした。 そして、「キラ」を認知すると同時に彼がシンと抱き合っている状況に怒りが湧いたようで、目を吊り上げてこちらに向かってきていた。 だが、その怒りの行進も、途中で止まる。 キラの口元が、『アスラン、そのまま黙って聞いて。』と言う風に動いたのだ。 アスランはそれを反射的に読み取り、動きを止めた。 キラの目が、いつになく切羽詰っていたように見えたから。 キラは、まだシンがアスランの存在に気付いていないことを確認しながら、更に言葉を重ねた。 『艦のいたるところにカメラが仕掛けられているから、気をつけて。 僕のピアスにも、盗聴と脳波感応機能がついてる。 ラクスと母さんが人質にとられてるんだ。首謀者はギルバート・デュランダル議長! 何処にいるかわからない。彼女達を探し出して助けて!! くれぐれも議長に気付かれないように。頼んだよ、アスラン!!』 と。声には出さず、唇を動かすだけで、伝えた。 アスラン・ザラは読唇術に長けているのを、知っていたからこその行動だ。 願わくば、アスランがこのまま不信な行動をとらず、ただただ頷くことを!!! キラのその必死な思いに気付いたのか、アスランは目で了承し、そのまま視線を虚空に彷徨わせた。 キラはそれを、「カメラの場所は?」と聞いているのだと悟り、目線で的確に教えてやった。 カメラは3つ。 その配置からでは、どのカメラにもキラの顔を映すことはできない。 一つはキラの背後に、他はアスランの背中、シンの頭部によって、キラの顔が上手く隠れるようになっていたのだ。 それを見越し、キラはこの場所までシンを促し、身長が大して変わらないから、自然と抱きつくことでキラの頭はシンの頭の隣に置かれ、上手い具合にキラの口元を隠すよう、仕向けたのだ。 そして、アスランがある一点まできたら止まるよう、口を開いた。 全ては計算通り。 とっさに考えついたものだったが、不自然なところは全く無い。どうやら上手く機能しそうだ。 そう思ってキラはシンに気付かれないよう、ほっとため息をつき、漸く彼から体を離した。 シンは可哀相なくらい顔を真っ赤に染めていたが、優しい目でアテナを見、「大丈夫か・・・?」と聞いた。 そんな彼を利用してしまったことを本当に申し訳なく思いながら、アテナは微笑んで、「うん。アリガト」と答えたのだった。 そして、続けて 「さっきは、ゴメンね。僕はどうしてもあの行動の理由を話したくなかったんだ。だから、強引な話題転換に、君たちを傷つけるようなことを言ってしまった。」 そう言って目を伏せるアテナに、シンも罪悪感を刺激され、慌てたように「こっちこそゴメン!」といって謝った。 そう、誰にだって聞かれたくないことはあるのだ。 議長にそれを言われて艦長だって追求しようとしなかったのに、自分たちは・・・。 そう言って、俯いてしまったシンの頭を撫でてやりながら、アテナは内心苦笑していた。 シンたちのあの行動は、軍人ならして当たり前のことだったのだ。 一歩間違っていたら、アテナのせいで仲間が死んでいたのかもしれないのだから。 仲間を思ってこそのその行動。だけど、彼らはアテナの口車にまんまと乗せられ、多分以降もこの話題に触れてこようとはしないだろう。 そんな未熟な彼らに、アテナは本当に申し訳ないことをしている、と思いながらも、そんな行動を止める事はできないのだ。 それが、自分のため、大切な人たちのため、しいては彼らのためなのだから。 そして、シンを促して「自室に戻ろう」と言おうとしたが、それは不発に終わった。 なぜならば、 すでに立ち去っていたと思ったアスランが、急に近づいてきてアテナの腕を取ったから。 そして、詰るように言う。 「キラ!!?お前、キラだろう?なんでこんなところにいる!!」 (・・・・・・・・・・・・・・・は?) ちょっと待て、納得してたんじゃなかったのか!!!? シンは呆然としていて、キラはそう叫びそうになるのを必死に抑えていると、アスランがアテナを壁に打ち付け、そのまま壁と自身の体でアテナを挟むように立った。 キラは顔が引きつるのを抑えながら、アスランを睨みつけていた。 すると、アテナの顔のすぐ横にアスランが腕をつき、そのまま鼻がくっつきそうになるまで近づき、そして・・・。 『俺を思いっきり邪険に扱え。ちょっと不自然なくらいにな』 と唇を動かしたのだ。 はっ、と気付けば、壁とアスランの体、それから彼の広めの裾口がアテナの顔、しいてはアスランの顔もカメラから隠していたのだ。 どうやらアスランも計算のもと動いているらしい。 こんなところで彼の優秀さに感嘆しそうなりながらも、長い時間この体制でいるのは余りにも不自然なので、アスランの言葉にのって、膝を彼の腹にめり込ませてやった。 すると、反動で離れる体。 ついでにその時アスランの目が涙目で「やりすぎだろう、これは!!」と訴えていたことは見なかったことにした。 そしてお望み通り絶対零度の微笑みで、アスランに向けて言った。 「どなたですか、貴方は。僕は“アテナ・ヒビキ”です。キラなんて名前じゃありません。」 と。その言葉に漸く我を取り戻したシンは、アスランから隠すようにアテナを背後に押しやって、彼を睨みつけた。 だがアスランは全くシンが目に入っていないようで、アテナに向けて言葉を重ねていた。 「答えろ、キラ!!なぜお前が、お前がこんなところにいるんだ!!」 その隠し切れていない怒りのにじむ声に、だがアテナは全く動揺もせず、冷たい瞳のまま淡々と言った。 「何度も言いますが、僕の名はアテナです。それに、僕はミネルバ所属の軍人ですから、ここに居たってなんら不思議はありません。 あなたこそ、軍服を着ていないのだから民間人でしょう?なぜ、こんなところにいるのです。」 そう言うと、しばらく無言の空間が訪れる。 というかにらみ合いの時間が。 ちなみに、キラは「あぁ、こっちの方が自然かも」と思っていたりする。 議長は、アスランとキラの関係を知っている。だから、たった今すぐ近くにいて、断りもなしに軍艦内を歩き回ったというのに、アスランが何もせずにこのまま引き返すのは流石に不自然だ。 それを考えての行動だったのだろう。 アテナは、シンの方に気を取られていてそちらには気が回らなかった。 流石アスラン、と思いながらも、アテナは尚も冷たい微笑を崩さない。 邪険に扱う事への罪悪感は全く無い。互いに了承済みのことだし、何より。 双方、他の誰にもわからないだろうが、瞳だけは悪戯小僧のように、笑っていたから。 しかし、傍目には「烈火の如く怒る(オーブ代表の側にいたから完全な民間人という可能性は低いけど多分)民間人」と、「常に無いほど冷たい(普段は穏やかで明るいはずの)少年」にしか見えない。 シンはその事にかなりの恐怖を抱きながらも、まだ彼らの間に立っていた。 しかし、内心すぐにここから逃げ出したい。 だって、二人ともオーラが尋常ではないのだ。 絶対零度と灼熱地獄に襲われ、シンはなぜまだ自分が崩れないのか疑問に思ってしまうほどだ。 そんなことを思っていると、しばしの無言のにらみ合いは、アテナの言葉によって崩された。 「せめて、名前だけでも名乗ったらいかがですか」 と。しかし依然、にらみ合いは続いている。 「カガリ・ユラ・アスハ代表の随員・・・アレックス・ディノだ。」 「そうですか、そんな方が代表の側を離れていてよろしいのですか?先程代表のいた位置は把握しておりますので、そちらまでご案内いたします。」 そう言うと、アレックスは一瞬嫌そうな顔をしたが、頭を縦に振った。 そうして、歩き出そうとした、その時。 「コンディション・レッド発令!パイロットは搭乗機にて待機せよ!!」 と、アラートと共に声が響き渡ったのだった。 (あとがき) 多分、ころころと「キラ⇔アテナ」「アスラン⇔アレックス」と名称が変わることに疑問をお持ちの方がいらっしゃると思いますが、 全て故意にやってます。 視点やの違いや心情の違い、ちょっとそこら辺を考えながら読んでくれたりすると、これ幸い。 |
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