今現在、ミネルバ内には二つの噂が恐るべき速さで広まっていた。

曰く、

『あのオーブ代表の随員は、伝説のエース“アスラン・ザラ”だった』

そしてもうひとつ・・・。

『議長が、アテナの弱みを握って軍に縛り付け、偽りの名を語らせている』

 実際はそんなことはアテナも議長も言わなかったが、ブリッジにいた者は、彼らの言動から、半ば確信してその結論に到っていたのだった。



奪われる翼15





ルナマリアは困惑していた。

先程、ブリッジを出て行ったアテナを追いかけるように彼女もブリッジから出たのだが、彼は早々と自分の部屋に篭ってしまい、ルナマリアもしょうがなく、自分の部屋に戻り、パソコンを開いていた。

アテナの才に隠れてしまいがちだが、彼女の情報処理能力は、彼についで二位だった。

 その能力を駆使し、ルナマリアは、「アテナ」について調べていたのだ。

が、彼のIDは確かにある。彼の家族も戸籍には載っていた。

 だが、その家族のIDは、存在していないのだ。
更に調べれば、記入してある住所は全くのでたらめ、出身地もでたらめ、学歴もでたらめ。

 上手く隠してあるが、本気を出した自分に暴けない情報なんてないのだ。

明らかに、偽造とわかる「アテナ」の情報。

ルナマリアはそれに複雑に顔をゆがめ、いつの間にか夕食の時間になっていることに気付き、急いで食堂へ向かった。




『少し、甘やかしすぎたようだな。次はないと思いなさい。』

先程通信で伝えられた言葉を思い出し、アテナは食事をスプーンでつつきながらため息をついた。

 確かに、少し調子にのっていた。
多分もう、これ以上の失態は、本当に許されないだろう。

その事に気鬱になりながらも、先程から心配そうにこちらを見るシンとレイに、更に罪悪感を促される。

 結局、自分の名が偽名であると宣言しちゃったようなものだし、騙されていたって気付いているはずなのに、憤るどころか余計に心配をかけさせてしまったことに、なんだか情けなくなって泣けてくる。

そんな時、ルナマリアが食堂に入ってきた。
彼女はアテナをみて一瞬気まずそうに視線をそらしたが、すぐにいつもの毅然とした態度でこちらをしっかりと見、アテナの隣に座った。

 そして、口を開こうとしたその時。


「キラ・・・!」

その声が聞こえて発信源を見れば、 同じく夕食をとりに来たのであろう、オーブ代表カガリ・ユラ・アスハと、その随員アレックス・ディノ・・・否、アスラン・ザラが食堂の入り口でこちらを見て立っていた。

 それを見止めた瞬間、アテナの雰囲気が傍目にもわかるほど急変した。

冷たく、睨むような眼差しと、雰囲気。

それに、声を掛けた方の、カガリが一瞬たじろいだようだが、それを守るようにアスランがカガリの前に立った。

 そして、時間にして数秒だろう、だが周りには数十分にも感じる睨み合いが開始される。

 シンはそれを見るのは二度目だが、そうではない、レイやルナマリア、カガリも含めて、食堂にいた者は皆、その光景にひじょうに驚愕させられた。

にぎやかだった食堂も一気に静まり返ってしまう。

二人の尋常ではない、「険悪」としか言いようのないオーラに、呑まれてしまったのだ。

 カガリはそれが信じられないモノであるかのように見、ゆるゆると首を横に振る。
 そして、そんな彼らを見ていたくなくて、わずかににじんでくる涙を抑え、彼らを叱咤しようとしたその時。


 キラと、目が合った。

それは、半年前と変わらない、穏やかなモノ。
それと同時に、一瞬振り向いたアスランの瞳も、その雰囲気とは逆に、穏やかなものだった。


 それの二つを見止め、一瞬止まりかけた思考を強引に働かせ、出た結論は一つ。

何かを、たくらんでいる・・・?

―――もっとソフトに言えば、「・・・計画的なのか?」なものだった。

何時の間にそんな計画っぽいのを立てたのかは知らないが、カガリは出そうになった言葉を飲み込み、二人の動向を見守る事に決めたのだった。


 そんなカガリの様子を密かに見止め、再びにらみ合いの中、先に口を開いたのは、アスランだった。

「キラ・・・、何故、お前がココにいる?」

と、低い、怒りを抑えたような声で、二度目となる質問をする。

アテナはそれを鼻で笑い、「何度言ったらわかるんですか」と言った。

そして、冷たいままの視線と声で、流れるように言う。

「僕の名前は“アテナ”です。・・・キラじゃ、ありません・・・っ」

 ちくり。

罪悪感が、胸を刺激する。

何を言っているのだろうか。すでに、自分の名は偽名であると明言しているのに。

そんな事を考えていると、どうしようもなく抑えられなくて、語尾がどんどん小さくなっていってしまった。

それを聞いたアスランが、驚愕で雰囲気を和らげた。

 ついでに、盗み聞きをしていたクルーたちから、キラに同情的な視線が送られる。

 辛そうな、アテナ。あの噂は、本当なのだろうか・・・。


そんなクルー達の心情をよそに、アスランもキラの状態に眉を顰めていた。

キラは、先の戦争を経て、精神面が随分たくましくなった。だからきっとまだ大丈夫・・・そう、思っていたのだが。

どうやら、かなり限界に近いらしい。いつもは凛とした瞳が、罪悪感にゆれている。

 その様子を見、・・・それ以上、見ていたくなくて、アスランは「まだ時期じゃない」と思っていた行動を、実行する事に決めた。

幸い、クルー達は皆“アテナ”に同情的だし、どうやら先程のキラの言葉がすでに艦内に広まっているらしいし。

 それがきっと、意外なほどに短くなってしまった期間を、補う役目となってくれる。

そう、確信して。


 いきなり怒りのオーラを消したアスランを不思議に思ったのか、アテナが疑問の視線を送ってきたが、気にせずにその場から去り、食事の乗ったトレーのある方向へ向かって行った。

食事をとりに行くのだ、と誰もが思い、カガリもそう思って遅ばせながらも彼の背中を追った。

 それを見届け、何事もなくすんでよかった、と周囲が安堵のため息を吐くと同時に、アテナも食事を再開する。

 だが、食欲はないし、周囲の心配そうな視線も、もはや煩わしくさえ感じる。

ルナマリアが何か言いたげにこちらを見ていたのには気付いていたが、それもあえて無視する。

・・・ぶっちゃけ、薄い反応しか返してくれなかったアスランを、寂しいと思ってしまっただなんて、口が裂けても言えない。

 情緒不安定気味だな・・・などと思考の渦に飲まれていたアテナは、背後に人が立ったこと、そして、正面に座っていたレイとシンが、アテナの頭上をみて顔を引きつらせた事に、気づくことが出来なかった。





(あとがき)
はい、暗〜い。
最近シリアスが続きすぎ、黒いはずのキラ様は乙女化しつつあります。
しか〜し!!私はこんな状態を長く続けようとは足の小指のささくれの先端の死んだ細胞ほども思っておりません。
次はレッツギャグ☆



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