その人物がアテナの軍服の襟を後ろにぐっと引っ張り、そこに出来た背中と服の空間に、空いている方の手に持った“何か”を入れていくのを、シンとレイはただ呆然と見ているしか出来なかった。

それと同時に、アテナの顔がさっと強張り、体を固くしたのがわかった。

その、次の瞬間。

「×〇^ヾ‖仝〆±≠§〒∴∈!!!!!」

シンたちでさえはじめて聞くアテナの絶叫がミネルバに響き渡ったのだった。



奪われる翼16





そのアテナの何語なのかわからない妙な絶叫に、食堂にいた者全員の視線が再び彼に集まってしまったのは、言うまでもなかろう。

 あのアテナが大声をだして意味不明なことを叫んでいるのにも驚きだが、その背後でオーブ代表の随員が満足そうに微笑み、当のオーブ代表は見てみぬ振りをして普通にジュースをすすっていることにも驚きだ。


 なんだか異様だ。ありえない有様だ。


半ば現実逃避しかけるクルー達をよそに、初めて見る、と言うか聞く、アテナの切羽つまったような叫びがその場に響き渡った。

「あああああぁぁぁぁあああアスラァァァアアアン!!!!!!!!」

「・・・懐かしいな、その呼び方・・・。」

しかしそれをものともせず、オーブ代表の随員・・・議長によってアスラン・ザラだとばらされた少年が、昔を懐かしむような視線でアテナを見、それからふっと笑って言った。

その笑みは、陶然とした笑みだった・・・。


「なんかこの人、危ない人・・・?」

それを見て思わずシンがカガリにそう聞いてしまっても、誰も責めることは出来ないと思う。

なぜなら、その笑みを見た誰もがそう思ってたし、

「あぁ。今ごろ気付いたか。」

アスランの主人であるはずの人物まで諦めたような遠い目をして肯定してくれたので。

 シンはその時、今までのわだかまりも忘れ、本気でカガリに同情の視線をむけ、彼女の肩に手を置き、「・・・あんたも苦労してたんだな・・・。」としみじみ呟いたそうな。


 それはさておき。
一気に食堂中の注目を集めている事に気付いているのかいないのか、先程まで険悪なオーラを発していたはずの二人の会話は続く。

「へ、へ、へ、変態一号!!!」
「こらこら、キラ、人に人差し指を向けてはいけないって、幼少のころ教わっただろ?」
「人に向けて使う指だからこその人差し指でしょ!!?って違う!!何、何流したの!!?ご丁寧にもアンダーシャツの下に入れやがって・・・!冷た・・・ってよりヌメってる!なんかベトベトする!!ヌメ・・・うわぁぁぁぁぁああ!!」

変態一号・・・。てことは二号かもいるのかな、とか、ってか変態を否定しないんだ・・・とか、あぁ、もうキラって呼ばれても否定しないんだな・・・とか、その奇妙、というのか異様な光景を見ながら思いつつも、コーディネイターの優秀な頭脳でこの状況を皆、だんだん把握出来てきた。

 いきなり叫び出したアテナは、未だに真っ青な顔で、体を強張らせている。
そして良く見れば、その濃い紅の制服の背中部分が、よりいっそう濃くなっている。
しかもだんだんそのシミのような濃い部分は、広がっていくのだ。

そして、先程の二人の会話。

 そこから考えられるこの状況は、多分「いきなりアスラン・ザラに液体を背中に流し込まれたアテナ」の図だ。


・・・・・・・・・・・・異様すぎだろ。


状況を把握したその瞬間、ミネルバクルーの心は一つになった・・・。


 なんだが本当に現実逃避したくなったクルーたちは、それでもその場から動く事は出来ず、まだまだ続く会話を聞いていた。

「当たり前だ。シェイクを流し込んだんだからな」
「待てコラ!なんでそんなもん背中に流すんだ!!!?」
「俺としては何故戦艦にシェイクがあるのかの方が気になるんだが・・・」
「確かに・・・ておい!話をそらすなよ!」


「・・・なんだか、アテナ・・・性格変わってません?」

今度はルナマリアがカガリに近づいてきて聞いた。

するとカガリは、飲み終わってしまったジュースのカップを手持ちぶたさで弄くりながら、アテナとアスランをちらりと見、それからふっと笑った。

ちなみにそれは、先程のアスランの異様な笑みとは逆に、何処かうれしそうな、それでいて呆れを含んだ、とても優しい笑み。

それに好感を抱きながら、ルナマリアはカガリの答えを待つ。

「私も初めて見たときは驚いたがな・・・。大抵あいつら二人でいると、あんな感じだ。他のやつらがいればもっとおとなしいはずなんだがな・・・もう外野は目に入っていないらしい・・・」

そう言ってひとつため息。でもやっぱり何処か嬉しそうだ。

 それを何とはなしに見ながら、ルナマリアはポツリと「特別・・・ってやつですか」と呟くように言った。

それを耳に留め、カガリはルナマリアに視線を向けると、誇らしげに、快活に笑って答えたのだった。

「そうだな、特別だ。『だれもあの二人の間には入れない。そんな絆がある』んだって。私の友達もそう言っていた。」

 そう言って、今度は眉を顰める。
もう、半年近く前に消息を絶ってしまった大事な友。急にいなくなり、必死に捜索したが、結局見つからなかった。

 そして、その友と共にいなくなってしまった二人のうち一人がココにいる。

一体、キラ達に何があったというのだろう。

 急に俯いて黙り込んでしまったカガリに、ルナマリアは何を思ったのか、「頑張ってください」との励ましの言葉をかけ、視線をアテナに戻した。

偽りのIDと、
 自分達には決して見せなかった顔。声。

あの二人は、いったいどうゆう関係なのだろうか。

 何故、アテナは自らを偽る羽目になっていたのだろうか。

そんなことを考えながら、未だ続く会話に耳を傾けていた。


「ヌメってる、べとついてる・・・!―――――もぅいい。脱いでやる!!」

ついに背中の不快感に耐えられなくなってしまったらしい。アテナは引きつった顔で、湿った紅の軍服を脱ぎ出した。

 アスランはその行動をすでに読んでいたのか、何処からかタオルを取り出してアテナに投げつけた。

だが、アテナはそれを無言でキャッチし、すぐにまた投げ返した。

「持ってて。脱げない。」

という言葉と共に。

確かに、タオルを持ったまま服を脱ぐのは、邪魔以外の何物でもなかろう。そう思い素直に受け取り、アスランはまた投げられる紅の軍服を慣れたように受け取った。

 その一連の動作に、「慣れ」がにじんでいる事に、その場にいたほとんどの者たちが気付いていた。

何故、こんな何気ない仕草にも「慣れ」がにじんでしまうほど近くにいたと言うのに、彼らは先程あんなにも険悪な雰囲気をかもしだしていたのだろうか。

 その疑問をもつと同時に浮かぶのは、つい先程流れ始めたばかりの噂。

『議長が、アテナの弱みを握って軍に縛り付け、偽りの名を語らせている』

と。良くある、尾ひれが付いての噂の可能性もあったが、なんだか今のこの二人の親密さと、先程の対立をみていると、その噂の真実味が増してくるような気がした。

皆、アテナの普段の性格をよく知っているから。
今はちょっと幼い感じが目立つが、普段は穏やかで、明るく・・・何より、優しい少年。

 もしかしたら、親しい彼を巻き込みたくなくて、先程あのような態度を取っていたのではないだろうか。
そして、もしかしたらアスランはそれに気付いていて、アテナに全てを負わせたくなくて、このような奇行にもとれる強行手段を用いて、アテナの態度を崩させたのではないのか。

 半ばその仮定を確信しながら、ザフトレッド含むクルー達はアンダーシャツを脱ごうとしているアテナを呆然と見ていた。

 女じゃないんだし、と思っていたり、自分の考えに浸っていたりして、結局誰も目をそらさずに終えた脱衣に、それを何とはなしに見ていたものたちは、先程の比ではないほどの、驚愕を覚えた。


「あ、て・・・な・・・・・・?」

シンの呆然とした声が、しんと静まった食堂に、やけに響いて聞こえた。






(あとがき)
はてさて、ミネルバクルーは何を見たのか!
ぶっちゃけ驚くほど色気はありません!だって苦手だから!!

どうでした?変態一号。リクエストに答えてへたれにはしないつもりですが、
壊れてはもらうつもりです。

そしてきっと多くの方が気付いているはず・・・
私はこの二人の会話が大好き☆でっす!!

CDでね・・・はまっちゃいました。
「アスランって米に字書ける人だよね」
「は?米・・・って」
「米、知らない?植物の・・・」
「(馬鹿にしてんのか・・・?)いや、知ってるよ。食べるし。」

・・・こんな感じだったよね!(うろ覚え←借りただけ)
も、萌え!!(壊



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