「・・・・・・ユニウスセブンが・・・・・・地球に向かって動いている・・・?」

誰の物ともしれないそんな呟きが、やけに静まった食堂に虚しく響いたのだった。


 信じられない、否、信じたくないアーサーの説明により、恐ろしい事実を理解した瞬間、ミネルバはかつて無いほど、混乱の渦中に陥るはめになったのである。



奪われる翼19





 ところ変わってキラの自室にて。

彼は一瞬もキーボードを押す指の動きを止めることなく、パソコンと向かい合って座っていた。


 ディスプレイに入力・計算・組み立てされていくのは、直径およそ10キロにわたる、人口惑星の軌道予測。

よどみなくスクロールされていくディスプレイを睨むようにして見ながら、キラは先程のことを思い出していた。・・・・・・もちろん、その間も指の動きを止める事はない。





「・・・どうゆうことだ!アレは百年単位で安全軌道にあると言われていたはずだろう!!」

 今まで、見方によっては奇妙とも言える物事に対し、完全に傍観側に回っていたカガリが、未だディスプレイにドアップにされているアーサーの顔を睨みながら、そう詰問した。

だがアーサーは情けなくも眉尻をさげ、「そ、それは・・・・・・わからないんです・・・!」と、カガリの迫力に呑まれたのか、しどろもどろに答えただけであった。

 キラはそれを見て一つため息をつくと、アスランから離れ、カガリの肩にぽん、と手を置いた。

それに反応し、険しい顔のまま振り向くカガリに、「落ち着いて」という意味もかねて、柔らかく微笑みかける。

すると、カガリはキラの姿に訳もなく泣きそうになり、衝動に近い形でキラに抱いたのだった。周りから変な悲鳴が聞こえたのは、この際無視だ、無視


そして、キラから離れて視線をデュランダルに向け、毅然とした態度で言ったのである。


「議長、申し訳ないが・・・、プラントの、ミネルバの力を借りたい。・・・私が今、どれほど厚顔なことを言っているのかはわかっている。だが、今から地球に連絡をとっていたのでは、間に合わないんだ。・・・どうか、ご助力願いたい・・・・・・!」

 そこまで言うと、ゆっくりと頭を下げる。

その、カガリの真摯な姿にほだされたのか、食堂にいたミネルバクルーたちの大半が、彼女から議長へ、何処か請うような視線を向けたのだった。

 それを見、キラは「さすが、(自称)僕の姉。偉い偉い。」と内心思いつつ、カガリの隣に立ち、未だ頭を下げている彼女に倣うように、議長に対して頭を下げ、言った。


「僕が口を出していいことではないとはわかっていますが、僕からも、お願いします。・・・地球には、色々と思い入れがあるんです。・・・大切なひとも、たくさん居ますし・・・。」


 すると、そのキラの行動で、食堂にいた全てのクルーたちが、議長へと強い、というか、「これで承服しなかったらタダじゃおかねぇぞ」的なオーラをかもし出しながら、議長へと視線を送ったのだった。


 それらを一身に受け、先程の多少のショックもあり、(とてつもなく)厚い面の皮がはがれかけているようで、議長は一瞬顔を引きつらせた後、すぐさま(取り繕ったように)微笑みを浮かべ、言ったのだった。


「顔をあげてください、姫。アテナ、君もだ。・・・もちろん、プラントも全力をあげさせてもらうつもりです。我等にとっても、地球はとても大事なモノなのですから。」

 そう言って、未だ頭を下げたままのキラとカガリの肩に手をあて、微笑みかける。

すると、漸くキラとカガリは顔をあげ、すぐさま顔を見合わせると、真剣な顔で頷きあった。

 そこには、堅い意志と決意、それから軽い緊張も滲んでいて、それを見たクルーたちは無意識に、最早意味のない微笑みを未だに浮かべ続けている議長と比べてしまったのだった。


 片や地球の危機に直面し、真摯で、真剣な顔の少年少女たち。片や、場にそぐわない、何故か背後に大輪の薔薇が見えてきそうな微笑を浮かべる大人。


―――どちらが好ましいか、と聞かれれば、そんなこと、考えるまでもない。


 加えて、議長が食堂へ登場する前の噂と、その時の正直な心境。
冷静に考えてみれば、議長の少々度の過ぎる「少年への弾劾」と、「少年の偽名について」の説明的セリフなんてものもあった。




――――――どう考えたって怪しいじゃん。




・・・またまた、クルー達の心は一つになり、一斉に議長への不信感を育んでしまったのだった。



 だが、最早それに気づく気力もないのか、議長は微笑みを絶やさず、更に言葉を重ねた。

「それでは、早速ザフトへの援軍を。アーサー君、至急通信回線を・・・」
「それには及びませんわ。すでに各所への連絡は済ませております。私の独断での行動、お許しください。」


 だが議長の言葉は途中、涼やかな女性の声に遮られてしまったのだった。誰とはなしに声のした方向を探れば、そこには敬礼を議長に向けて立つ、我等が艦長、タリア・グラディウス女史が。

アーサーが議長たちに報告したのは、タリアがこちらに向かっていたからなのか、と、頭の片隅で納得しつつ、皆この艦の最高責任者へと視線を向けたのだった。


 タリアは背筋を伸ばしたまま敬礼をとき、議長へと足を進めた。

そして、彼の前で止まり、頭を下げてから「申し訳ありません」と言ったのだった。

 その姿に、クルーのみならずキラやカガリさえも好感を抱きながら、議長の答えを待つ。

すると、最早好意的とは全く言えない視線の集中に気付いたのか、議長は少々疲れたように「頭をあげてくれ、艦長。君の判断は正しかったのだから」と言って、顔をあげた艦長に安心したように一息ついたのだった。


 顔をあげてそれを見、タリアは一息置くと、軍人らしくきびきびした口調で言った。

「ありがとうございます。すでに“ボルテール”と“ルソー”が“メテオブレイカー”を持って先行しています。あと数分で、漸く議長のお迎えのシャトルも到着するとのことです。至急、準備をしてください。」

 それを聞くと、議長は困ったように微笑み、言った。

「流石、と言おうか。君には頭が上がらない。・・・・・・アテナ、君も来なさい。プラントあちらも君の頭脳を必要としているはずだ。すぐに・・・」
「 それは、困りますわ。ミネルバこちらもアテナの腕を必要としています。・・・今は、一人でも多くのパイロットが必要なのです。・・・アテナなら一人で数人分の働きをしてくれるはずですから、尚更彼をはずすわけには行きません。」



(・・・タリア艦長、かっこいいな。)
(・・・そうだね。なんか意外だよ・・・、なんとなくマリューさんを思い出さない?)
(あぁ、いかにも“軍人”って印象が強かったけど、なんか・・・今の艦長は、痴漢やナンパ男を笑顔で撃退する時の彼女と似ているな・・・)


 などと、実はこっそりひっそり皆の視線が最高責任者二人に集中している間、カガリとキラは小声で話し合っていたのだった。

・・・皆様の印象とは程遠い、結構ほのぼのとした雰囲気と内容を、だが。


 それはそうと、タリアの正論で「このままじゃいろんな事がやばいから、とっととキラを旧友たちから引き離してしまおう計画」を断念せざる負えなくなった議長は、内心舌を打ちながらも、潔く納得し、彼に譲られていた艦長室へと引き上げていったのだった。


 それを無言で見送っていたキラは、ふと他とは違う視線を感じたので、そちらを向いてみた。


 すると、重なる視線。


相手がにっこりと微笑み、ウィンクを一つ残して颯爽と何処か(と言いつつもブリッジである事はわかりきっている)へ行ってしまうのを、キラは呆然と見送っていた。


―――どうやら、意外な人物まで自分達に味方してくれるようだ。





(まさか、艦長が味方してくれるとは思わなかったな・・・・・・)

 やはり、何処かマリューさんに似ている、と思って内心苦笑しつつ、キラは要求されていた数値と予測をプラントに送ると、さりげなく口元を手で覆って、小さく笑った。


(しっかし議長あの人、今日一日だけでいったい何度言葉を遮られたんだろう・・・・・・ふっ、いい気味だ。)


 そして、内心で密かに議長を嘲笑しつつ、今度は何処か思案げに、瞳を伏せた。




―――――彼女が“最後”まで味方で居てくれたなら、もしかしたら・・・・・・。



 四方八方に設置されたカメラでさえも、あくまでも無表情で、無言でいる彼からは、何を考えているのかは全く探る事が出来ないのであった。




(あとがき)
・・・キラ、出番少ないなぁ・・・。
 わかりましたよ、私の弱点。どうしても視点を・・・ってゆーか出てくる人物を、限定してしまう癖があるようですね。
お陰で、シンがいなくなり、アスランがいなくなり、ついにはキラまでいなくなってしまいました。
 次回は沢山出したいな〜、と思いつつ。

きっと次は金銀コンビが出張るでしょうUu(もちろんキラだって出しますよ!!)
ついでに、ストライク関連が、今回全く出なかったことに疑問をお持ちの方、次書きますよ〜!
ちなみに、今の時点で、皆様そのことばっちりちゃっかり忘れちゃっております。(笑



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