「それでは、後を頼むよ。」

議長の護送艦がミネルバへの到着を果たし、格納庫で別れの挨拶をしていると、議長がタリアに向けてそう言った。

それから、アスランに視線をよこし、意味深に微笑んだのだった。


――――議長は自分に何を望んでいるのだろうか。

 自分の正体を明かした時には、きっと彼はアスランを自分の陣営に組み込もうとしていた。

だが、彼自身が窮地に陥った時、今度はアスランを邪険にし、切り捨てようとした。

そして、今は・・・・・・?


どの道、生憎と自分は正直に騙されてやるほど親切でも純粋でも真っ直ぐな心意気でもないので、彼の思惑通りには動かないだろう。

 気付かないほど、愚鈍でもない。

なにより、これ以上キラの負担を作ってたまるか。


 そう思いながら、アスランは議長が乗った艦を睨むように見送ったのだった。



奪われる翼20





ミネルバを離れた議長とは行き違いになる形で、戦艦ルソー、そしてボルテールがミネルバとの合流を果たした。

 先に着いたのはボルテール。横付けした艦から、小型のシャトルが打ち出されるのを、シンとルナマリアは自分の愛機から見守っていた。

無防備なシャトルの護送のために、MSを出していたのだ。

レイはミネルバで機体の調整中だし、アテナは・・・何をしているのだろうか。


 あまりに軽く明かされた事だったので、今の今まで忘れていたが、アテナは昔地球軍MS・ストライクへと搭乗していたらしい。

そして、イージスとの最終決戦であの背中の傷を負ったのだという。

 イージス・ストライク・バスター・デュエル・ブリッツ。

この5機は、元は地球軍によって作られた機体である。

どれも高機能であり、今シンの乗っているインパルスも、その5機の機体の性能を元にして作られた。

 イージスとストライク、そしてバスターとデュエルは、軍人達の間では取り分け有名な機体だ。


後者は、元ザフトレッド二人が敵対しながらも停戦宣言まで戦線を離れず、最後には和解できたという、美談として。


そして前者、イージスとストライクは・・・その戦歴によって有名となったのである。

 当時、地球軍唯一のMSストライク。
数多の猛将をほふり、当時最強とまで言われた戦闘人形。

対し、上に上げた二名と同じくザフトレッド・クルーゼ隊に属していたアスラン・ザラの搭乗機、イージス。
 その最強のMSを倒したことによって、一躍有名となった機体だ。


・・・だが、その戦闘で二機とも大破という命運を遂げた。

その戦闘をじかに見たザフトの将はこう語る。


「アレはまさに死闘と呼べるものだった。」


・・・・・・その死闘が、親しい友人同士の間で行われたのだと、誰が想像できようか。


 本人たちが言ったわけではないが、あんな親しげな様子、たった数年の付き合いで作れるものではない。

きっと、十数年に渡る付き合いなのだ―――それこそ、戦争が始まる前からの。

それなのに彼らは――――・・・・・・。


 こみ上げてくるやるせなさを解消するために、シンは何度もコックピット内でため息をついた。


 そして、ザク・ウォーリアの中にいたルナマリアも、ミネルバで作業をしていたレイも、それを手伝っていたヴィーノやヨウラン、そして客人を迎えようと格納庫へと向かっていたタリアも、同じ事を思っていたのだった。





「出迎えに感謝いたします」

小型のシャトルから出てきたのは、白の軍服に銀の髪の映える麗人と、緑の軍服を着こなす金髪の青年。

 どちらも端正な顔立ちをしており、すぐにタリアは目の前の人物たちの正体に行き当たった。

「お待ちしておりました、ジュール隊長、エルスマン副官。」

向けられた敬礼に敬礼で返し、タリアは微笑んで手を差し出した。

「タリア・グラディスです。今回はヨロシクお願いします。」

軍人としては規格はずれのその行為に、イザークとディアッカは好感を抱きながら差し出された手を握り返したのだった。





議長は護送艦でプラントへ帰ってしまったが、オーブ連合首長国代表主張であるカガリは、ミネルバへ残った。

 それは、代表も一緒に、と言う議長の言葉を、タリアがつき返したからだ。


『この後、当艦はユニウスセブンと地球の間に入って、下からユニウスセブンへと砲弾を向けるつもりです。ギリギリまで行うつもりですので、地球の重力圏に捕まる事でしょう。ですからミネルバはそのまま地球降下いたしますので、代表はこのまま乗艦していた方がよろしいかと。』


そう言った時の議長の顔は、随分と見物だった。

そしてもう、地球の重力圏に一度はまったら無重力地帯へ戻る事が容易ではないように、あれで自分は引き返す事が出来なくなった。


 議長の一計に薄々気付きながらも、それを二度も跳ね除けてしまったのだから。


だが、全くといって後悔はしていない。唯一気になる事としたら、“彼ら”が自分を受け入れてくれるだろうか、と言う点だけだ。


 そうつらつらと考えている途中、そう言えば、後ろについてくる二人はあのアスラン・ザラの元同僚だったな、と思い至り、タリアは後で引き合わせてやろう、と密かに決意したのだった。





 グラディス艦長直々の案内で、ディアッカとイザークはミネルバ艦内を歩いていた。

イザークがいつも以上に神経質になっているので、ディアッカの胃は正直ちょっときつい状態だ。

 だがそれもしょうがないか、とも思う。

地球には、戦後知り合った人物が、今も尚幾人か暮らしているのだ。その人たちの命の危機なのである。

思い出すのは、メカオタクなかつての同僚、知り合いのじゃじゃ馬姫、反対におしとやかだけれど何だか恐いピンクの女帝、美人でボンキュッボンな元艦長、知将と歌われた隻眼のコーヒーマニア、自分と同じ、だが何処か違う色の瞳をもつ、かわいらしい顔の少年・・・。

 そしてなにより、最近めっきり連絡をしてくれなくなった、癖っ毛の愛らしい、芯の強い、けれど弱い少女。


「おいなんかお前、表現の仕方に偏りがあるぞ・・・。」

「ってあれ、聞こえてた?」

「バカ者、丸聞こえだ!」

そんな二人の小声の会話を耳ざとく聞きつけたタリアが、絶えられずにくすくす笑うと、二人の青年はバツが悪そうに口を閉ざし苦笑いで返してきた。


そんな彼らの様子が先程のアテナとアスランの姿と重なり、タリアはなんともいえない気分になった。

 彼らがどんなことを経験したのかは、極一部だが知っている。
敵対の道を選んだ少年達。

―――すべては、戦争が引き起こした悲劇。


こみ上げてくる苦いモノを嚥下し、タリアは微笑を浮かべながらイザーク達を促したのだった。



 しかし、すぐに、また足を止める羽目になる。


「アテナ、大丈夫かな・・・。」

「元気出せ、メイリン。きっとあいつなら大丈夫だって。」

そう言いながら、こちらに近づいてくる二つの影に気付いたからだ。


「メイリン、チェン。・・・アテナ、どうかしたの?」

彼らの会話が耳に入り、思わず足を止めてしまう。

 ジュール隊長がいるのに、と思いつつも、そちらよりも優先する事に思えて、一言断ってから彼らと距離を取りつつ、タリアはそう訊いたのだった。

 メイリン達は白服が二人そろっていたことに驚きつつもすぐさま敬礼を送り、その質問に答えた。


「あ、はい・・・。レクルームに居るんですけど、なんか沈んでるみたいなんです。今アスランさんもカガリさんもオーブと連絡を取っていて、側にいなくて・・・。・・・・・・艦長・・・・・・。」

最後の方はどうしたらいいのかわからない、とでも言いたげに涙混じりで。

 少し後ろで当惑している青年達の気配を感じるが、タリアは悪いと思いつつも無視し、メイリンの肩にそっと触れた。

「チェンの言う通りよ。アテナならきっと大丈夫。・・・作戦の前に、アスランと代表に会えるよう、融通を利かせましょう。・・・ほら、貴女も元気出して!」

そう言って、優しく頭をなでてやる。

 母性の感じるその優しい動きに、メイリンはほっと息を吐くと、目じりに溜まった涙を拭いて去って行った。




「アテナ・・・、アテナ・ヒビキですか?」

 しばらく微妙な沈黙が続き、イザークがためらいがちにそう問うてきた。

小声で、距離を取っての会話だったが、最初のメイリンの声は聞こえていたらしい。

タリアは曖昧に頷き、このときばかりはアテナの知名度を恨みたくなった。

これ以上彼に負担はかけたくないのに・・・。

そう思いつつも、タリアの口からは本人さえも予想だにしない言葉が飛び出てきたのだった。


「お会いになりますか?」


そう言った自分の声が、やけに遠く聞こえた。

だが一度言った言葉は訂正できず、しばらく抗議した挙句結局頷いた彼らに、タリアはなんだか悪態を着きたくなった。―――もちろん、ただの八つ当たりに過ぎないのだが。





(あとがき)
シリアス〜。金銀コンビ登場!タリアさん出張ってます!

そしてレイの影が薄い薄い!!だってアニメ本編の彼が、彼が・・・!

そして途中でメイリンと共に登場した人物、チェン・ジェン・イー。
ノットオリキャラっす。ミネルバのブリッジ主要クルー、火器管制担当。

 はっきり言ってめっちゃ印象うっすー。彼ってしゃべったことあったっけ?ってかどいつがどいつなんだかわかりゃしねぇゎ!(笑




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