「お会いになりますか?」

その言葉を吐いた途端、友軍艦ミネルバの艦長はどこか戸惑ったような表情を浮かべてた。

 そんな表情を向けられては戸惑うのはこちらだ、と言いたくなったが、なんとか堪えて辞退の言葉を返そうとする。

 まだもう一艦が合流していないとはいえ、今は一刻を争う事態に陥っているのだ。

せめてルソーが到着するまでに、こちらも作戦の確認と詳細な把握などをしてしまった方がいいだろう。

だから、いくらあの有名なアテナ・ヒビキに会う機会と言えど、今は遠慮する。

そう、言おうとしたのだ。

 しかしそれは、有能なのだが時々殴りたくなる部下(ぇ)が口を挟んだことで口に出す前に止められてしまったのだった。


「会ってみようぜ、イザーク。」

「・・・・・・阿呆、状況を考えろ。そんな時間がどこに・・・」

「ルソーが来るまでは作戦が開始されない。それに今回の作戦は件のアテナが出した数値が元になってるんだろ?会って損は無いって。」

そう飄々と言ってのけるディアッカに、イザークは苛立ちを隠しきれず眉をしかめる。

逡巡してみたがやはりアテナと会ってもこれからやることに大した変容はないと思い、また否定の言葉を出そうとしたが、それもまた止められた。


「それにお前、ちょっとピリピリしすぎなんだって。・・・・・・もっと肩の力抜けよ・・・。」

ため息と共に出された、その皮肉げな口調とは相反し、その色素の薄い紫の瞳は本気でイザークを気遣うような視線をこちらに向けていた。

 それを見たらなんだか反論する気も起きなくなって、イザークはため息を吐きながらも結局はタリアに了承の旨を伝えたのだった。



奪われる翼21





ところ変わってリクルーム内。

 キラは砂糖を大量に入れて見た目はそのままながらも、超極甘になっているコーヒーを片手に一人思考に沈んでいた。

一応一番の脅威(=議長)は一時的にでも追い払ったものの、これから先はどうすれば良いのだろうか。


 偽名の件、ストライクの件、アスランとカガリとの関係、背中の傷・・・。


今はうやむやになっているが、このままでいる訳には行かないだろう。

 どうやら色々な事が作動して悪い方向には転がりそうにないが、油断は出来ないのだ。


 はぁ、とため息をつくと、キラは甘いコーヒーを一口含み、しかしすぐに俯き、眉を顰めて手で口を覆った。・・・・・・甘すぎたのだ。

 落ち着くためにいつもより多く糖分を取ろうとしたのが失敗だったな・・・と思っていると、不意に「大丈夫か?」という声が掛けられたのだった。


ぶっきらぼうだが優しいその口調に、無意識にその声の持ち主へ好感を抱いてしまう。

だがどうやら気分が悪いのだと勘違いされてしまったらしい。
その事に内心苦笑して、キラは顔を上げてすぐに返事をしようとしたのだった。


「はい。大丈・・・」

しかし最後の「ぶ」と言う言葉は口に出す前に引っ込めてしまう。

目の前で自分を見下ろす人物に、見覚えがありすぎたためだ。

「い、イザーク?ディアッカまで!?」

すぐ目の前に立つのは、なんとも特徴的な髪型をしている銀髪の麗人。そしてその斜め後ろには、当然のように金髪の青年も立っている。

 なんでココに?という疑問が一瞬頭を埋め尽くしたが、すぐに愚問だろう、と思って思考を切り替えた。

 確か戦艦ボルテールはジュール隊の戦艦だったはず。

今回はルソーとボルテールとの共同戦線だから、彼がミネルバに居たってなんら不思議はないのだ。

 どうせ作戦会議かなんかをするのだろう。

そう思ってキラが「早くブリッジ行った方がいいよ?タリア艦長待ってるかもだし。」と言うと、彼らのすぐ後ろから涼やかな声がかけられたのだった。


「あら、心配ご無用よ。私はココにいるわ。」

体をずらして彼らの後方を見れば、確かにそこにいるのは艦長殿で。

その際、ちょっとこの二人邪魔だなぁ。なんて思って二人を見上げると、そこには面白いほどこちらを見て硬直している金と銀のコンビが。

あぁ、そういやこの二人、僕がここにいる事、知らなかったんだっけ。

そんな事を頭の片隅でぼんやりと思いながら二人を見ていると、イザークが突如叫び出す。


「キラ・ヤマト!貴様が何故ココに居る!?」

あれ、なんかこのセリフ何処かで聞いたような・・・。あぁ、デコだ。それにいろんなサイトさんでやってんじゃん、こういう場面。ウチも例に漏れず、なんだな・・・。

などと尚もぼんやりとした頭でどうでもいい事(というか管理人の言葉の代弁)を内心で呟いていたキラに、イザークが焦れたように一歩踏み出したのだった。


 しかしそれに慌てた様子も無くキラは悠然と立ち上がると、ふんわりと笑って持っていたコーヒーをイザークへと手渡して、言った。


「久しぶり、イザーク、ディアッカ。」

その笑みに思わず再び出かけた叫びを飲み込み、自然な仕草で手渡されたコーヒーカップを疑問に思うことなく、イザークはそれを握って「あぁ、久しぶりだな。」などと引きつった顔で返事をするディアッカの声を聞いていた。


ちなみに未だ視線はキラに固定されたままだ。なのに何故ディアッカの表情がわかったのかというと、ただの(野生の)勘だったりするので、軽くスルーしてやって欲しい。


それはともあれ、柔らかく微笑むキラに冷静さを取り戻したイザークは、眉を顰めてキラに声を掛けたのだった。


「・・・久しぶりだな。」

と、ただそれだけ。

それにキラは微笑みを深め、ディアッカはやれやれ、とでも言いたげに唇の端を上げていた。


 ディアッカは知っている。
この同い年の上司が、目の前の少年をどれほど必死に探していたのかを。


顔を真っ青にしたアスランからの連絡を受け、すぐさま内々に捜索の手を回したというのに、何処にも見つけられなかった。

 半年近く経ったつい最近でも、イザークは出来た暇を見つけてはキラを探していたのだ。・・・・・・・・・それは勿論、ディアッカにも当て嵌まることであるが。


内心すごく嬉しい癖に、と口の中だけで茶々を入れつつ、ディアッカはキラの頭をそっと撫でたのだった。




 なんだか急にほのぼのとした雰囲気の漂い始めた場に、タリアは存在を忘れられている事を自覚しながらも必死に頭の中の整理をしていた。


 “キラ”は連合のパイロット。アスランは元ザフトのパイロット。イザークとディアッカは現役ザフトのパイロット。


四人ともベースとなったGシリーズの搭乗者で、“キラ”とその他の3人は敵対して殺しあっていた。

アスランと“キラ”はどうやら古い友人のようで、お互いが敵軍に所属していたことを知っていた。

・・・・・・では、目の前の二人は・・・・・・・・・?

 アスランと一緒にいた時ほど、親しみと年季のこもった雰囲気はかもし出していない。

だが充分親しい間柄のようである。

 まさかこの二人も“キラ”と旧知の仲なのだろうか。

そうでなければ何故敵対していたはずの彼らがこんなに親しい様子をしている?

戦後、アスランが“キラ”をイザーク達のいるプラントを訪れていたとは、まず考えにくい。

逆に、イザーク達が戦後の忙しさの中、地球に下りていたと考えるのも難しい。

いったい何処で接点があったというのだ。


 完全に思考の渦にはまっていたタリアに、その時盛大な叫び声が届いたのだった。




「な、なんだこれは!!!?」

「何って、コーヒー。」

「こんなものコーヒーではないわ!何を入れたんだ全く!」

何気ない会話をしているうちに、どうやらいつもの癖で手元にあったコーヒーを飲んでしまったらしい。

 キラが飲んで顔をしかめたほどの激甘なコーヒーを・・・・・・。ぶっちゃけ、そうさせるつもりで手渡したのだが。


ディアッカが「俺に被害がきませんように」と内心で思いつつ苦笑いをしているのをよそに、キラは微笑んで二人をじっと見、言った。


「二人とも、赤服じゃなくなったんだね。赤の時の何倍も似合ってるよ。」

さらりと、天使のような微笑を浮かべながら言われたその言葉に、喜ぶ者一名、これ以上ないほど落ち込んでるもの一名。


しばらくし、遠い目をしているディアッカを傍目に、イザークは急に大人びたような顔になり、キラに話し掛けたのだった。


「・・・・・・お前がここにいて、赤服それを着ている理由は訊かん。
・・・ただ、事が落ち着いたら必ずアスランとオーブの姫に連絡してやれ。二人とも必死にお前を探していたぞ。」


その言葉を、キラは静かな様子で受け止めて、微笑んで答えたのだった。

「大丈夫、もう二人とも知ってるよ。この艦にも乗ってるから、後で話したら?」

それを聞いて瞠目するイザークを見、キラは相変わらず柔らかく微笑んでいた。
――――――否、内心でほくそ笑んでいたのだった。



 求めていたカードがそろった―――・・・。


無意識に握ったこぶしを、気を取り直したディアッカと、驚きから冷めたイザークが目を思案げに細めてみていた。




(あとがき)
この時点では、イザーク達はアテナ=キラだということに気付いていませんし、
タリアはキラがフリーダムのパイロットでもあったという事をしりません。

ちなみにイザークとキラの初対面は最終決戦のすぐ後、ということで。
その後電話等のやり取りもあり・・・みたいな。またいつかちゃんと詳しく書きましょうかね。





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