イザークとディアッカに接触できたことは幸運としか言えないだろう。

しかしぶっちゃけ、よく考えてみたらもしかして彼ら、必要ないんじゃ・・・?

いや、だってアスランにもう伝えたし、ラクスなら何らかの行動を取ってるはずだから、この二人さえいれば万事解決っぽいじゃん・・・。


などと、イザーク達が訝しげに自分を見る視線なんぞ露にも気にせず、キラは自らの思考に埋まっていたのだった。



奪われる翼22





ここ半年の監視生活のおかげで、無言・無表情で突っ立って悩む癖がついたキラは、傍から見たら怖いことこの上ない。

ディアッカが冗談半分でキラの顔の前で手をひらひらしてみたが、まったく反応しないというのもどうだろうか。

・・・・・・・・怖い。なまじ彼の顔が整っているだけに、無表情で突っ立っていられると人形を彷彿させて気味が悪くなってくる。

普段常に穏やかな微笑を浮かべているので、尚のことそのギャップが怖いのだ。


「おい、キラ・・・・・・?」

イザークが訝しげに声をかけて数秒、キラは漸く反応を返した。

右手を顔の横にまっすぐ立て、顔を上げてかかとを合わせて。

そう、なんと今更キラは敬礼の形を取ったのである。

それに驚くイザーク達を尻目に、キラは毅然と声を発したのだった。


「ジュール隊長、エルスマン副官殿、ようこそミネルバへ。改めまして、グラディス隊所属アテナ・ヒビキです。失礼ですが、どのような御用でこのレクルームにいらっしゃったのですか?」


きびきびとした、軍人口調で。

アテナの言った内容にもっと驚くかと思われた他艦の二人は、だがアテナとタリアの予想に反し、眉をしかめて敬礼を返しただけに過ぎなかった。

アテナはその様子に苦笑し、敬礼を解きながら聞く。

「・・・・・・気づいてた?」

「フン。俺たちはアテナ・ヒビキに会いにこの部屋に来たんだ。なのにここにはお前しかいない。それにお前の能力を考えれば・・・アテナ・ヒビキがお前であっても不思議ではないと思っていただけだ」

アテナの表情が戻ったことに安堵しながら、イザークが憮然としたようにそう返す。見れば、ディアッカも苦笑を浮かべていた。同じように考えていたのだろう。


アテナはまた苦笑をこぼし、だがそれ以上何かを言うでもなく、艦長に視線を向けて言ったのだった。


「艦長、そろそろ彼らをブリッジに。ルソーの到着もすぐでしょう」







アテナの言葉を皮切りに歩き出したイザーク達は、何処か釈然としない表情を浮かべている。またそれは、タリアとて同じこと。

しかし先頭を歩くアテナはそんな彼らを気にした風もなく、どんどん前に進んで行く。

だが、漸く我慢の限界がやってきたのか、イザークが苛立たしげに声を発したのだ。


「おいキラ、聞くつもりはなかったのだがな、お前、何で名を偽ってまでザフトに入った?」


アテナはその声に振り返り、イザークの瞳をひたと見つめた後、微笑んで言った。


「そうしなければならない、やむ終えぬ事情があったのです、ジュール隊長」


そう、皮肉なのかなんなのかわからない口調で。

しれがやけに耳につき、イザークは苛立ちを抑えきれない様子でアテナに近づいてその胸倉を掴みあげ、口を開く。


「貴様、俺を馬鹿にしているのか!? 大体、ラクス嬢をどこへやった!? お前の母も・・・・・・・!?」


 イザークは、そこで不意に言葉を止めてしまった。後ろでは、ディアッカも眉間に皺を寄せて固まっている。

 そう、ここで漸くこの事態の異常性に気づいたのだ。

そもそも、キラ達は何故プラントにやって来たのだ。

アスラン達を眠らせ、手荷物等何も持たず、母とラクスを連れ出して?

・・・・・・・・非常識にもほどがあるだろう。

その事をアスランから知らされたときは、混乱していてその異常性に気づかなかった。

だが、こうして今のキラの状況を考えれば、

「お前、まさか・・・・・・」

拉致され、人質を取られて軍属しているのでは・・・?

そう考えた方がしっくりくるのだ。

本来、大きすぎる自らの力を厭っていた彼が、こうして軍で名が通るほどに力を振るっている。

そして共にいなくなった、キラの大切な人たち。


思いつきが確信が変わっていくのを感じながら、イザークはアテナを凝視していたのだった。


すると、アテナがふと視線をあらぬ所にそらした。

疑問に思ってアテナの視線の先・・・自らの背後を見てみたが、何もない。

視線を戻せば、何かを企んでいるような、紫の瞳とかち合う。

イザークは眉根を寄せ、アテナから手を離すと、背後へ歩きながらディアッカに声をかけたのだった。


「ディアッカ、工具。」

「はいよ。」


一瞬後には、彼の手に工具が。

なかなか大きいそれを、どこからいつどうやって出したの、ディアッカ!?と疑問に思う前に、それはイザークの手に渡ったのだ。

そして、さっぱり存在を忘れられていたタリアが何か声をかけるより早く、イザークがその工具を戦艦の壁に突き刺したのである。


「ジュール隊長!?何を!」


タリアのとがめるような声なんぞなんのその、イザークはさっぱり無視して作業を続行する。


柳眉を逆立ててイザークを咎めるタリアをディアッカに頼み、尚も続けるイザーク。

おぉ、ナイスコンビプレー。とアテナが内心で思っていることにも気づくはずもなく、尚も三人の攻防は続く続く。


そしてついに、イザーク(の馬鹿力)によって、戦艦ミネルバの合金造りの壁が剥がされてしまったのだ。


「これか・・・・・・!」

何かに納得するような口調で言うと同時に、イザークが壁に手を突っ込み何かを毟り取る。

そして手を引っ込めてその手の中にあるものを見、すぐにアテナに視線を向けたのだ。

するとそこには、案の定嫣然とした笑みを浮かべる少年が。

確信が確定になったのを感じつつ、イザークはこちらを睨んでいるタリアに向けて、手の中にあったものを差し出したのだった。


「これは・・・・・・?」


憮然としながらもそれを受け取るタリアを見、イザークは説明をはじめる。

「小型のカメラだ。この艦、至る所にそれがあるぞ。多分十や二十なんて数じゃない。もっと沢山だ。
くそっ!この艦に入ってからずっと感じていた違和感はそれだったのか!」


 イザークが吐き捨てるようにそう言うのを、タリアは視線をカメラに向けたまま呆然と聞いていたのだった。


そして、ディアッカとアテナと言えば。


「「流石イザーク(の野生の勘)」」

と、声をそろえて感心していたそうな。


「いや、普通気づかないよな、艦に入ってすぐとかさ・・・。」

「うん。僕だって一週間くらいでやっと気づいたんだし・・・。」

「「やっぱ流石イザーク(の野生の勘)。」」

「・・・・・・・・・・・・・・・おまえら、何故か素直に誉められている気がしないのだが・・・(怒。」

「えぇ〜そんなことないよ、ね、ディアッカ!(ち、流石野生の勘。気づいたか。)」

「そうだぞイザーク、誉め言葉は素直に受け取っておくべきだ。(すげぇ、野生の勘。変なところで鈍いくせに)」

「・・・・・・・・・・・お前ら・・・・・・(怒×2)」


とまぁ、何故だか含みを感じる爽やかな笑みを送られたイザークが、いい加減キレそうになったその時。


「ふ、ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふ・・・・・・・・・・・・・・・!」


という、不気味な笑い声が何処からか響き渡ったのだ。

思わず続けようとした言葉を飲み込んで声の発信源を見てみれば、そこには暗雲立ち込めたる女人・・・もとい黒いオーラを撒き散らすタリア艦長が!!


「ふっふっふ、よもやここまで変態道に嵌ったか、腹黒め・・・。」


本能が危険を察知して三人が三人とも壁際まで後ず去る様子を見、タリアは微笑んで疑問の声を発する。


「あら、どうしたの、三人とも。それより困ったものね、私は艦長なのにこの監視カメラの存在を知らなかったわ。・・・・・・・・・・・・どうしてくれよう・・・・・・・・・ふふ、ふふふふふふ・・・・・!」


どうしたの、はこちらの台詞です、とか、僕らがこんな風に壁に張り付いているのは100%貴女様のせいです、とか返してやりたかったが、残念なことにそんなことを言える勇気を持ち合わせた者は、この場には誰一人としていやしない。



微妙な空気が流れる中、キラ達にとっては救いとなる言葉がミネルバ艦内に響き渡ったのだった。


『グラディス艦長。戦艦ルソーが到着しました。至急格納庫までお越しください。』


という、天使の歌声よりありがたい、CICに座る少女の声だ。


冷や汗だらだらの男たちの中で、さすがと言うべきか、まず一番最初に立ち直ったのはキラだった。


「艦長、ジュール隊長達は僕がブリッジまで連れて行きます。」


それにタリアは微笑んで、

「ありがとう、アテナ。それじゃぁ、よろしく頼むわ。ジュール隊長、エルスマン副官、申し訳ありませんが、また後ほど。」


そう言って去っていった。

幸いなことに彼女の笑顔は元の爽やかな笑顔に戻ってあり、タリアがその場を離れてすぐに、残された三人は肩の力・・・・・・どころか全身の力を抜くことができたのだった。


そして、脱力した彼らがいるその場には、キラの「艦長がキレた・・・」という声が虚しく響いたのだった。




(あとがき)
ついにタリアまで黒化!というかキレた!
大丈夫、たぶんこれ以上黒いのは増えない・・・と思います!
だってもっと増やしたら収集がつかなくなってしまう・・・Uu
次回はいきなりユニウスセブン破壊!!



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