一つ一つ丁寧に、指示どおりメテオブレイカーを設置していく。

ルソー、ボルテールのMSもちゃんと指示どおり動き、統制が取れていることが少し嬉しい。

しかし、ふと目をやったその先で。

作業をしていたMS2機が突如大破していったのだ。



奪われる翼24





「・・・・・・あれが、犯人かな?」

すでにユニウスセブンの動きが人為的なものであることは予測済みだ。

そして、ユニウスセブンの破壊を邪魔するような動き。決定的に、あの作業をしていたMSを撃ったジンが、今回の犯人であろう。

しかも最悪なことに、そのジンは数機確認することができた。

自分が担当していたメテオブレイカーを仲間に頼み、キラはそちらへと一直線に向かっていく。


「艦長!敵MSと見られる物を発見。僕が迎撃しますので、味方MS部隊にそのまま作業をするように命令してください!」


抜かりなくそうミネルバに通信を入れ、了承の言葉を受け取ると同時に背中のビームサーベルを引き抜く。

このことを予測して武装していてよかった、と内心思いながら、まず一番近かったジンの腕を切り裂き、そのままコックピットのみを残すように頭部・手足も切り取ってしまった。

そして味方に向けて打たれた砲撃は自らも銃を撃って相殺し、近づいてくるジンから、また八つ裂きにしていったのである。


『キラ!大丈夫なのか!?』


途中ディアッカから通信が入り、キラは「マルチロックオンシステムがあれば一瞬だったのに。と思うとちょっと面倒、かな」などおどけたように言いながら、優雅に機体を翻した。


マルチロックオンシステムは、実はリバイブル設定時に入れようか、と考えていたのだが、燃料の上限を考えると面倒くさくなり、途中で断念してしまったのである。

だいたい、これ以上ザフトに知識を与えるのも何かな・・・とも思ってもいたのだし。

それに・・・・・・と途中まで思い、キラは苦笑して、その考えを頭から叩き出した。




そんなこんなで計十機を満たない数のジンをものの数分で大破させ、またメテオブレイカーの設置作業に戻ろうか、とキラが思ったそのとき。

覚えのある感覚がキラの体を駆け抜けたのだ。

その正体をすぐに悟り、キラはミネルバに向けてまた通信を開く。


『艦長!!近くに地球軍がいます!!カオス他新型を奪取した、あの艦です!!』

「なんですって!?」


だが敵影は発見されない。何かの間違えではないのか、とタリアが言おうとしたその、瞬間。

ブリッジに何かの接近を告げるアラートが響き渡ったのだ。


「艦長!!カオス・アビス・ガイアです!」


メイリンが焦ったように口を開く。

それを受け、タリアは信じられないとでも言いたそうな面持ちでディスプレイに映るアテナを見ると、彼は表情も変えず「敵艦は、ミラージュコロイドでも使っているのでしょうね」と冷静に見えない戦艦を分析していた。

それを見て自分も冷静になったタリアは、一瞬考える仕草をしてから、メイリンの方を見て毅然と声を発する。


「メイリン、国際救難チャンネルを今すぐ開いて。」

「艦長!?」


アーサーがそれに理解不能、とでも言いたげに声を上げたが、タリアは冷静にただ「早く」としか言わなかった。

だが、それは未だ通信の繋がっているアテナによって遮られてしまったのだ。


『艦長、確かに状況を説明すれば相手は引いてくれるでしょう。ですが、あの光景を見てただ黙って引くと思いますか?』

「・・・・・・・・・どう言うこと?」


いつもよりも、タリアもアテナも固い声になっているのは自覚している。それだけ緊迫している状況にあり、予想がつかない事態であるから、しょうがないと言えよう。

だが、何処かその会話が喧嘩腰に見えたアーサーは、なんだかちょっと泣きたくなった。


『ほぼ間違い無く、相手は地球軍です。あの光景・・・・を見て、ただこちらを攻撃してきただけだとは思いません。』

「アテナ。悪いけど簡潔に言ってちょうだい。」

『はい。先ほどのジン、地球軍に映像として撮られていると思います。』

「な・・・・・!?」


簡潔に・と言われて簡潔に言ったアテナの言葉に、タリア含むブリッジクルー達は一瞬動きをとめてしまった。

ジンはザフトのMSだ。そして、ユニウスセブンの落下地点である地球は、地球連合軍の本拠地であり、ナチュラルの地。コーディネイターの地は、全く被害を受けないプラント。

そして、ユニウスセブンに“何か”をしようとしているザフトのMS、それを邪魔しようとしたこれまたザフトのMS、そして、それを破壊したまたまたザフトのMS。

どう見ても、これはザフトによって引き起こされた事だと思われてしまうだろう。


―――――それを、地球に持って帰れば、絶対と言って良い確率で戦争の火種となってしまう・・・・・・・。


アテナが言いたいことを悟った者たちは、どうすれば良いのかと艦長であるタリアを仰ぎ見る。

しかし彼女は眉間に皺を寄せ、必死に何かを考えているようだ。

そんな時だ、アテナの凛とした声が、ブリッジに再び響いたのは。


『艦長、アーモリーワンで僕、MAを見逃しましたよね?』


と、何処か面白がるような口調で。

タリアはその声に反射的に顔を上げ、アテナを見る。

彼は独特の微笑をその美しい顔に浮かべながら、あくまで簡潔に、しかも世間話でもしてそうな口調で続けたのだった。


『あれ、たぶんあの艦の最高司令官です。』


それには流石に、クルー達も動きを止めて自分の耳を疑わずにはいられなかった。

知り合いなのか、という疑問が一瞬頭をよぎったが、とりあえず今聞くものではない、と思い直してタリアはアテナの次の言葉を待つ。


『つまるところ命の恩人です。相手はどうやら情に篤い方のようですし。・・・・・・厚がましい事だとは思いますが、僕に交渉役をやらせていただけませんか?』







『と、言うわけなんです。ここは一旦引いていただけませんか?』

所変わってガーティ・ルーブリッジ内。

ネオは頭を掻きながら、「さてどうしたものかねぇ」とのんきに呟いていた。

行き成り通信が入ったと思ったら、「MSを引いてください」だ。

しかもその声はつい最近自分の命を助けたもので。

ネオは「う〜む」と呟いてリーに睨まれ、だが大して怯んだ風も無く、今度は顎をなでていた。


「・・・・・・まぁ、いいだろ。了解した。」

そう言うと同時に、こちらから通信を切ってしまう。


「大佐!!」


だんだん慣れてきたリーの咎めるような声を聞き、ネオは真面目腐ったような顔で言ったのだった。


「どうやらちゃんと粉砕作業はしてくれるようだし。それに見ろ、そろそろ高度がヤバイんだ。こういうのは、任せちまった方がいいんだよ」


その言葉によって不満げだったクルー達も素直に納得し、リーはしぶしぶながらも結局は納得した。

皆知っているのだ、この大佐の優秀さには。それに、信頼もしていいた。

だからこそ、皆素直に納得したのだった。・・・・・・ネオが本当は何を考えているのかなんて、疑うことも無く。







数分後、帰還信号が敵艦から発信された。

実は通信をしながら、新型3機と戦闘をするシンを援護していたキラは、その事に内心苦笑する。


やはり、かわらないな・・・・・・。


と、密かにつぶやき、自分たちが戦闘をしている間に作業が終わった、との報告を受けて、キラはシンを促してその宙域から離脱したのだった。







その後。狙い通り、メテオブレイカーと各艦の砲弾の集中攻撃により、ユニウスセブンの広大な土地は簡単に破砕された。

ほぼ粉々の状態になったから、地球への被害はないに等しくなるだろう。

キラはその光景をぼんやりと見ながら、離れたところにある母艦へとMSを動かしたのだった。







「困ったねぇ・・・・・・・・」

一人、艦長室でそうネオが呟く。

彼の視線の先には、無重力の空間で漂う一枚のフロッピーディスクが。

それを見ながら、また「困った」と呟いた。


しばらく経ってから、徐にネオはそのディスクを掴み、まだじっと見つめる。

思い出すのは、姿を見たこともない少年の、悲しそうな機械越しの声。

確かキラと名乗っていたが、彼は自分と昔会ったことがあっただろうか。

先ほどの放送では、口調にわずかな親しみが篭っていたのだ。


そんな事を考えてまたしばらく経ち。

ネオは漂っていた体を立て直すと、徐に手の中にあったディスクを真っ二つに折ってしまったのだ。


それは、先ほどジンが破砕作業をするMSを撃った映像が納められていた物。

バレたら大目玉だが、要はバレなければいいのだし。と思い、ネオはそれに未練を残すことなく、ごみ箱へと投げ捨てたのだった。







「・・・・・・・・・・・・・ん?」


MSをハンガーに固定したその瞬間、なぜか今更気づいたのだが。


確か議長にタリア艦長は、『当艦はユニウスセブンと地球の間に入って、下からユニウスセブンへと砲弾を向けるつもりです。ギリギリまで行うつもりですので、地球の重力圏に捕まる事でしょう』とか何とか言っていなかっただろうか。

それがどうだ。今自分たちは宇宙域に漂っているどころか、作戦にも“下から砲弾を向ける”なんてこと、最初から含まれていなかった。


どういうことだ。と思いながらリバイブルから下りると、そこにはすでにアスラン、カガリ、更に何故か艦長までもが居たのである。


無重力の中、ゆっくりと下りてくるキラに気づいたのだろう。彼らは顔を上げ、口々に「お帰り」と言ってくれた。

それに少々うれしい思いをしながらも「ただいま」と返すと、キラはアスランが伸ばした手につかまり、体の進行を止める。

それから、タリアをじっと見つめたのだ。

彼女は凛々しい微笑を浮かべながら、唐突に「疑問に思っているようね。」と口を開いた。


「・・・・・・えぇ。」


流石は艦長。キラの疑問はお見通しらしい。

自分の言、しいては議長に進言したことを覆すような事をしたのは、どのような考えの元なのか。

タリアは何故か嬉しそうに・・・というか何かを企む悪餓鬼の如き笑いをキラに向けていたのだった。





―――――――ちなみに。

「アスラン。」

「・・・・・・・・・・なんだ、カガリ。」

「いや、私たちの存在を忘れられているとか、そんなことはどうでもいいんだがな?」

「・・・・・・・・・・・・一応言っておくが、俺はそんなこと一言も言ってないぞ。」

「あぁ、だから良いんだって。」

「で?」

「・・・・・・・・・・・・いや、なんでだろうな。今のタリア艦長、やけにキレた時のラミアス艦長と姿がダブるのだが。」

「・・・・・・・・・・気のせい、ということにしておけ。」



・・・・・・・・蚊帳の外に出された二人が、こんな会話をしていたとは、タリアもキラも知る由もなかった。


 

(あとがき)
タリアの暴走は続く。
そして中途半端なところで終わる。

ちなみにタリアさん、最近贔屓め。
 とっとと離反してくれ。(多分無理そうだけど。)



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