「私は、盲目的にはなれないわ。」

笑いを浮かべて、タリアはただそれだけを言う。

 その言葉の真意を掴み、キラは苦笑した。

どうやら彼女は、自分とアテナの置かれた状況をしっかりと把握しているらしい。

 盗聴と監視カメラの存在を考えれば、それ以上は言わない方が賢明だろう。

そしてキラは彼女が決意の元動いているのだと知り、ただ「そうですか」と返したのだった。


――――タリアの短い言葉に含まれた意味は。

『私は軍の命令が絶対なんて考えてはいない。トップが常に正しいとも思わない。私には私なりの考えがあるの。』

ここから先は、ただの邪推だろうか。

『私は、軍ではなくあなた達・・・・に味方したいと思っているのよ。』

そう言いたいのだと、キラはなんとなく思ったのだった。



奪われる翼25





「代表をオーブに届けると議長に言ってしまったからね。ちゃんと実行するわよ。」

その艦長の言葉の元に、戦艦ミネルバは少々強行的に地球降下を果たしたのだった。


 今目の前に広がるのは、果てのない宇宙空間ではなく、広大に広がる太平洋という大海であった。

向かうはオーブ連合首長国。カガリの本来居るべき場所だ。

だがそこまでの道は結構長い。

よって今ミネルバは、ある作業をクルー全員でやることにしたのだった。




「実は先日こんな物を見つけてしまったの。」

そう言って出されるのは、2cmあるかないかの直方体の物体。

直接見せられたのはメイリン、シン、レイ、アーサー、ついでにディスプレイ越しにミネルバ全クルー達。




 ちなみにアテナはアスラン達と一緒に、降板で暢気に話をしていた。

タリアがやる事は予想済みであるし、とにかく自分は都合により参加することはできない。

 それは彼女も承知していることなので、彼は結局オーブの主賓達の世話を任命され、放送を聞く義務も免除されたのである。


「そう言えば、イザーク達と話しできた?」

「あぁ。・・・・・・会話にならなかったがな。」

キラキラと輝く海面を見ながら、その風景が簡単に想像でき、キラはぷ、と噴出した。

「相変わらずだったぞ、『民間人のお前がなぜここにいる!?』とかアスランに言ってた。お前も話したんだろ?」

カガリがジュースを飲みながらそう言えば、キラはうなずき、「やっぱ相変わらず扱いやすい性格だったよ」と笑顔でのたまった。

 それを気にするようなカガリでもなく、「あぁ、ディアッカもあいつの扱いが上手くなってたしな」とか何とか笑顔で返す。

 それを傍で聞いていたアスランは、何だか彼らに同情したくなったのは余談である。




場所を戻してミネルバブリッジ。

「これは・・・・・?」

ルナマリアが艦長が出した物を訝しげに尋ねれば、彼女は苦笑しながら答えたのだった。


「盗撮機よ。ジュール隊長が本艦で見つけてくださったの。まだあるようだから、オーブにつくまでに全て取り外したいと思うのだけど・・・・・・・。」


そう言って、はぁ、と一つため息をこぼし、頭を抑える仕草をする。

 するとアーサーが興味深げにそんなタリアと盗撮器を交互に見ながら、言葉を発した。


「しかし艦長、いいんですか? 勝手に取っちゃって。」


監視カメラなんてどの艦にも付き物なのである。それが兵への戒めにもなり、犯罪を防ぐのだ。

 しかしタリアはそれを聞いてあからさまに顔を顰め、「言ったでしょう。これは監視カメラではなく盗撮器・・・。」とまたため息をこぼしながら返した。


「盗撮器・・・・・・?」


今度はアーサーではなく、訝しげな顔をしたシンがそう呟いた。

タリアは疲れたように頷き、どうやら説明する気力も無いようだったので、何だか彼女の言いたいことが解ってしまったレイが補足するように質問をする。


「つまり、艦長が知る“軍”の監視する為の物ではなく、“個人的”に個人を盗撮する物である・・・・。そういうことでしょうか。」


これは疑問の形をとっているが確認でしかないことは明白である。

それを聞いたタリアは否定せずまた重いため息をこぼし、ルナマリアやメイリンといった女性クルー達は全身に鳥肌を立てて「いや〜っどこの変態の仕業よ!?」などと言っている。


 それを聞いて―――――以下、タリアの胸中。

『変態・・・・・・やっぱ変態よね。これ議長聞いてるのかしら。音声付のカメラだったら良いのだけど・・・・・・・。
 議長、あなた若い女の子達に声高に「変態」と言われてるわよ。
 あぁ、めちゃくちゃいい気味・・・・・・・・!』


などと一人悦に入りつつさりげなく変態を罵倒し、しかしタリアはそれをおくびにも出さずに「だから」と言葉を発した。

それによってクルー達は皆私語を慎み、タリアの言葉を待つように姿勢を正す。

 タリアは場が静かになったのを見計らって、続きを言ったのだった。


「いい気持ちしない上に、軍には関係なさそうでしょ? 取り除いてしまいたいのだけど、反論はあるか。」


 そう、凛とした口調で言うタリアに、もちろん反論する者は居ない。皆盗撮という事実に憤りと不快感を感じているのだ。

しばらく待ったがやはり反論は出ず、タリアは内心ほくそ笑みながら続けて言う。


「では、早速作業を開始する。ルナマリア、メイリン。
艦のどこかに大量の盗撮器を統制する機械があるはずだから、あなた達はまずそれを割り出して。」

それさえ掴めればあとは芋づる式に見つけられるはず。そう言ったタリアに、不意にルナマリアが声をあげた。


「あのっ艦長。・・・・・・・・・・・・・アテナは、この作業に参加しないのですか?」


 当然、情報処理のプロである彼も参加するものだと思っていたのだが、結局最後までアテナの名は出なかった。

ルナマリアが疑問に思っても当然だろう。それだけ、彼が居ると居ないでは作業に差が出るのだ。

しかしタリアは一瞬どう言おうか迷っただけで、すぐにルナマリアに返答を返したのだった。


「今はアスハ代表達の世話をしてもらっているわ。最近は彼に頼ってばかりだから、緊急ではないのだし私達だけでやりましょう。」


 その言葉に皆思うところがあるのか、それ以上何も言わずに作業に取り組んでいったのだった。


しかし、メイリンがミネルバのシステムにログインしようとした、その時。

いきなりCICの方に通信を知らせる文字が浮かび上がったのだ。


「艦長! プラントからの緊急通信です!!」


すぐさま本来の仕事に戻ってそう言ったメイリンに、未だブリッジにいた者たちは動きを止めた。

何事か、とメイリンを注視しつつタリアの反応を待つと、タリアは余計なことは言わずにただ返事をしたのだった。


「いいわ、繋げて。」


と、だけ、冷静かつ迅速に指示を出す。

 メイリンはそれを素直に尊敬しつつ、通信をオンにして画像をディスプレイにうつしたのだった。


 ディスプレイには、驚くことにデュランダル議長その人が。

本当に何事だ、とみんなが固唾を飲んで彼を注視する中、議長は真剣な顔つきで声を発した。


「タリア、監視カメラのけ「ブツッ」








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇ





突然の事にザフトレッド含むクルー達全員が動きを止め、一気に黒くなったディスプレイから、恐る恐るこの状態を作り出したらしい人物に視線を移した。



 その人物は恐るべきことに配線を引っこ抜いた格好のままにっこりと笑っていたのだ。



 ついでに背景に暗雲と雷光。口紅を塗った唇が血のよう赤く見えるのは何故だろうか・・・。




・・・・・・・・・そう、なんと通信に出たタリア艦長が、議長が言葉を発し終わる前に強制的・・・通信を遮断してしまったのである。




しかも笑顔で。めっちゃ笑顔で。そりゃもう見たことも無いような怖い笑顔で。



――――――――――青筋が額に立っていて唇がぴくぴく痙攣しているように見えるのは、きっと気のせい。目の錯覚。あはははん(?)




「さぁ、とっととやってしまいましょう。ホーク姉妹、頼んだわよ!!

「「はいっ!!!!!!」」


勢い付いたタリアに勢いで返したホーク姉妹は、それからはわき目も振らずに手を動かしたそうな。

 名を呼ばれなかったクルー達も、早足で自分の仕事に戻り、無言かつ今までに無いほど集中して作業に取り組んだとか。



・・・・・・・とりあえず、その日はしばらく(一部を除く)クルー達の顔が真っ青で引きつったまま(後日顔面筋肉痛付)だったことは明記しておく。




 ちなみに。

その日から、「グラディス艦長だけは絶対に怒らしてはいけない」という絶対的な戒律が出来たとか、出来なかったとか。




(あとがき)
タリアさんの暴走・終章。

ちなみに。地球軍(ネオ)との関わり如何はまた後々。

そして漸くの地球降下。終わりが近くなってきましたねぇ・・・・・。



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