キラがアスランとカガリとの会話を楽しんでいる間に、ミネルバの各所に設置されていた盗撮機はすべて取り除かれていた。 途中で数人の作業中であるクルー達を見たが、彼らが始終何かに怯えるように必死に手を動かしていた理由は謎のまま。 一応聞こうとしたのだが、声を掛けたクルーは顔を真っ青にして、「俺は見てない。何も見てない。稲妻も暗雲も配線もワカメも!!」と、訳のわからないことを言い出したので、なんだか可哀相になって聞くことを止めたのだ。 そんなこんなで怒涛の一日も終わり、キラはアスラン達との会話を切り上げ、ミネルバのデッキへと向かったのだった。 目の前に広がるのは、吸い込まれそうなほど真っ暗な海と、人口の物ではない夜空。 それがやけに懐かしく感じ、キラは切なげに目を細めた。 デッキの手すりに寄りかかり、ぼーっとその果てしなく広がる夜空を見、どれくれい発ったのだろうか。 南国と言っても流石に夜は寒い。キラは己の体が冷えていることに気付き、苦笑して手すりから体を起こした。 そして、自室に戻ろうと踵を返したその時。 デッキへの出入り口に背を預けて立つ人物に、キラは目を見開いて首をかしげたのだった。 奪われる翼26「・・・・・・・・・・・レイ・・・・・?」 彼の名を呼ぶと、レイはドアから背を離して此方に近づいてきた。 氷のように冷たい美貌からは、彼が何を思っているのか簡単に知ることが出来ない。 徐々に近づいてくるレイを、キラは動かずに待った。 そして、キラから約3歩ほどのところで止まりった彼は、何も言わずにキラをじっと見ているのだった。 「・・・・・・レイ・・・・?」 その彼らしくないとさえ言える不思議な行動に、キラが再び名を呼ぶと、レイは何か言いづらそうに口と眉間を歪め、しかし何も言わずにただキラを見ている。 キラはその様子に苦笑を浮かべると、再びデッキの手すりに寄りかかり、徐に口を開いたのだった。 「・・・・・・・・・なんだかすごく久しぶりな気がする。君とこうして二人で話すの。」 実際には、レイと二人っきりで話すこと自体が珍しいことではあるのだが、キラが今言いたいのはそう言うことではない。 いや、本当は自分でも何を言いたいのかは解らないのかもしれない。 ただ、キラの頭の片隅で、自嘲した自分が呟く声が聞こえた。 『二人っきりで、だって? ホントはシンやルナマリアも含めて“久しぶりに話す”でしょ?』 と。そんな言葉が頭を駆け巡り、キラは苦笑を深め、内心で『そうだね。』と自分自身に返す。 しかし実際のところ、レイ達とはつい2、3日前までは普通に話してはいたはず。 アカデミーの延長のように、無邪気に語り合っていたのだ。 それでも“久しぶり”と感じるのは、きっと己の弱さのせい。 何故ならば彼らを、 ―――――――――避けて、いたから。 無意識のうちにレイ達の存在を避け、また無意識の範疇でアスラン達と共にいる事を望んでいた。 それはきっと、未だ何から問題を解決すべきか戸惑っていたせいだろう。 ストライクの件、ネオという、地球連合軍の仕官との関り、アスランとカガリの関わり、そして―――――偽りの名。 せめて一番仲の良かったレイ達にだけでも、話さなければいけないことが沢山あったのに。 だが、キラにはまだ彼らにそれらを話す勇気も、気持ちの整理も準備も出来ていなかったのだ。 そして、後ろめたさもあったのも確かだ。アカデミーに入り、卒業し、任務先も一緒になって・・・・・・。ずっと一緒にいたのに、仲が良かったはずなのに、キラには秘密が多すぎた。 その事実が、どれほど少年達を傷つけただろうか。 そんな色々な感情が、キラに“久しぶり”と、やけに長い時間の経過を感じさせたのだった。 そんなことを考えていると、ふと視界が暗くなったのを感じた。 もとよりミネルバから発せられる僅かな明かりしか辺りを照らす物はなかったので、その光が遮られたことはすぐに気付けた。 何だ、と思っていつの間にか俯けていた顔を上げようとすると、何かがふわりと、優しく頭を撫でたのである。 今度は錯覚でもなんでもなく、本当に久しぶりのその仕草に俯いた姿勢のまま瞠目していると、その正体―――レイの右手がそのままキラの横髪を耳にかけ、自然な仕草でキラの顔を上げさせたのだった。 いつのまにか3歩ほどあった距離は半歩ほどに縮まっており、僅かに自分よりも高い位置にある顔を見れば、彼のその端正な顔には、これまた懐かしい微笑が浮かんでいた。 それは、アカデミーに居た頃よく向けられた微笑。――――――例えるならば、手の焼ける弟に苦笑する、兄のような・・・そんな優しい笑い。 キラはその微笑が、ちょっとだけ好きだった。・・・こんなこと癪だから絶対に本人には言わないが、それが懐かしい面影と重なったから。 幼少の頃・・・いや今でもたまに、幼馴染が浮かべる微笑と同じ。 会えないその人に面影を重ね、痛む心に安らぎを求めていたのも、また事実。 昔はあんなにあの顔が嫌いだったのに・・・・と思いながらそのままレイを見ていると、彼は顔を出したキラのピアスに目を細め、小さく呟いたのだった。 『俺は、お前を信用している。』 漸くつむがれたその言葉は、しかし予想に反して音は出ず。 キラはそのことに軽く驚き目を瞠り、レイの言葉を理解するのと同時に、彼が続ける音に出ない声を聞くために唇に意識を集中させたのだった。 『・・・・・・そして俺は、議長に恩義を感じている。・・・彼が俺の養父だと言うことは、知っているな?』 その言葉には頷きのみを返す。 ちなみにその事実を知ったのは、レイと出会ってから随分経った頃だったが。 てっきり議長と二人で取ると思っていた食事会に、レイも居たことは正直少し驚いたけれど、別に不思議だとは思わなかった。 自分という存在を知り、メンデルに絡んでいたのならば、自然とクルーゼという存在を知っていただろう。 そして、そのクルーゼとレイがただの他人の空似ではないとしたら、議長が彼を野放しにしているわけが無い。そう、すでに予想済みのことだったのだ。 しかしそんな過去は今どうでもいいとして、いったいレイは何が言いたいのだろうか。しかも、態々読唇術を使ってまで・・・・まるで、 訝しげに眉根が寄るのを自覚しながら、それでも何も言わずにキラはレイを見ていた。 『・・・・・・・俺はあの人を慕っているが・・・・だからこそ、彼に間違いを起こして欲しくは無い。』 その言葉に反射的に息を飲む。 『・・・・・・何を、知っているの・・・・・?』 あの老獪な議長が、レイにキラの処遇について教えているとは思わなかった。 だが、まるで言ったようなこの口ぶりは何なんだ。 その疑問を浮かべる視線に気付いたのだろう、レイは相変わらずの微笑を僅かに苦笑のそれに変えて、キラの髪から手を離して更に言う。 『知らない・・・・・・・何も。だがお前が今どんな状況にあるのか・・・・大体想像できてしまった。』 レイは一度下げた手を再び上げ、今度はキラの耳たぶ・・・正確にはラピスラズリのピアスに触れた。 『お前はアカデミーの時、これを片方だけ外したことはあったが、ルナマリアがどれほど頼んでも両方を外そうとしなかったのは、何故だ?』 それに返すのは、無言のみ。ただその時は「大事な物だから」とごまかしたが、ならばなぜ片方だけはいいのか、と疑問に思って当然のこと。 なかなか鋭いレイの指摘に、キラの顔が一瞬強張った。 『今日取り外した監視カメラ・・・いや、盗撮機だったか・・・・アレの除去作業に、何故お前は参加せずにいたんだ。艦長の理由は彼女らしくないし、お前なら進んで参加してもいいだろうに。』 レイの顔には相変わらず苦笑が浮かんでいる。それがまた基本的に無表情なことが多い彼らしくなくて、キラはなんだか頭が混乱してきた。 しかしレイはそんなキラを気にせず、これまた彼にしては珍しく饒舌に話を進めるのでだった。 『そしてアレは、いったい誰を監視していた? ・・・・・・・お前をだろう、“アテナ”。そしてそれをやったのは議長だ。・・・・・・あの艦長の反応を見ればそんなことすぐわかる。』 『・・・・・・・・・・・・・“あの艦長の反応”・・・・?』 『それは激しく聞かなかったことにしてくれ』 途中なんだか妙な言葉を聞いたので聞き返すと、即座にちょっと不思議な文章で返された。 彼にしてはこれまた珍しく、どうやら少し動揺しているらしい。しかし顔が青くなっているのは何故なのだろうか。 そんなことを思っているとレイが漸く普段通りのクールな無表情に戻り、再びキラの注意を自分へと促して、徐に何処からか小型の端末を取り出したのだった。 そしてそれを、無言のうちにキラに差し出す。 意図がわからないままにそれを受け取り、視線で更に先を促すと、レイはもう躊躇いもせず、曇りの無い眼でキラをまっすぐに見、言ったのだ。 『俺の個人的な端末だ。議長の・・・ギルの手はまだついていないはず。使え。必要だろう?』 と。その言葉に声を失っているキラを気にせず、レイは更に続ける。 『・・・・・・・・・・・・・・もちろん、無理強いはしない。』 自分は所詮ギル側の人間だから。信用できなくても、仕方が無い。 そう言うレイの口調はどこか切ない響きがあって、キラは思わず声を出して聞いていたのだった。 「なんで・・・・・・・?」 端末をぎゅっと握りレイを見るキラのその表情は、どこか辛そうで、そしてどこか自虐的だ。 何故そんな表情を浮かべているのかレイには解らなかったが、思っている言葉をそのまま口にすることは出来た。 『・・・・・・・・・・・言っただろう。俺はギルを慕っていて恩義も感じ、そしてお前を信用している。きっと今ギルは、してはいけないことをしようとしているのだろう。もしかしたら、もう始めているのかもしれない。俺は彼が好きだからこそ、彼に道を踏み外して欲しくないんだ。 ・・・だが、お前はそのギルの間違いを正してくれそうな気がする。俺の勘は昔からよく当たるんだ。』 饒舌に語るレイに、キラはわずかに苦笑して『知ってる』と答えた。レイも それから、キラは端末を握って俯き、顔を上げるのがちょっと無理だったので手形信号で「ありがとう」と言った。 レイはそんなキラにまたわずかな苦笑し、彼の頭を最後に一撫ですると、「おやすみ」と言ってデッキから去っていったのだった。 しばらく俯いたまま立ち尽くし、数分後、キラは徐に口を開いた。 『知らない、から・・・・・・そんなことが言えるの・・・?』 例えこのピアスがついていなかろうと、今後絶対に本人に聞くことは無いだろう疑問を唇の動きだけで紡ぎ、それから漸く顔を上げる。 『・・・・・・・君の“元”となる人物を殺したのは、僕だよ・・・・・?』 そう音無き声で呟くキラは、先ほどレイにその真意を問いただした時と同じ顔をしていた。 (あとがき) くららららら(暗)っ!! なんだこりゃ!! ホントに翼か!? いや、そうだけど!! この端末引渡しは、ホントはタリアさんの役目でしかもたった5行ほどで終わらせるはずだったのに!! 何故にレイ!? しかもレイキラ!? 書いたの私だけど!! めっちゃ疑問や!! どうしよう、このネタ引きずるのかな・・・?(無計画) ってかキラがキラ君だよ〜! キラ様でないよ〜!!!(ぇ |
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