トリィッ


事務処理中、突如オンにしていた端末から何だか聞いたことのある不思議な音が流れ、イザークは視線を書類からそちらに移した。

傍らにいるディアッカは、何だ? とディスプレイを覗き込むように身を乗り出している。

その後頭部をとりあえず殴っておいて、イザークはどんどんディスプレイを侵食していく不思議な物体を無表情で見ていたのだった。


「・・・・・・・・・・・・・あ〜っと、・・・これは、アレか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何度か見たことのある物体だな。名は確か・・・」


そこで一旦言葉を切り、イザークはディアッカと顔を見合わせ、なんとなく声をそろえて言ったのだった。


「「トリィ・・・・・だっけ?」」



奪われる翼27





「・・・・・・・・・・・・ここまでくるとなんだか気色が悪いな。」


ディスプレイを埋め尽くすのは、緑と黄色でカラーリングされたロボット鳥。それが1匹2匹3匹4匹5匹6匹7匹8匹9匹じ・・・・・止めておこう。数えるのがだんだん怖くなってきた・・・・・。


 ディアッカにしてもイザークにしてもそれはあまり馴染みの無い物体だったが、その持ち主と製作者のことは良く知っている。

そして多分、製作者・・・アスランは今回関係が無い思う。あいつは確かにプログラミングも得意だったが、軍の強固なセキュリティーを介した軍付属の端末に、わざわざハッキングしてまでイザークに連絡を取ろうとはしないだろうから。


 そう、ただ今イザークの端末は何者かによってハッキングされているのだ。


しかしそれなのに何故イザークもディアッカもこれほど冷静なのかと言うと。

・・・・・・二人とも、知っているのだ。こんなことが簡単に出来、トリィというペットロボの持ち主であり、何よりも前科がある者のことを。


「・・・・・・・また、か・・・・・。」

「また、だな・・・・・・・・・・・・・・・・。」


遠い目をして呟く彼らは、いったい過去に何があったというのだろうか・・・・?


しかしそれはまぁさて置き、ディスプレイのトリィ型ウィルス(笑)は止まる事を知らない。むしろそろそろ止めてくれ・・・・と言ったところで、止まらないのがウィルスの最たる特徴である。


画面全体が緑に染まり、そろそろさっき入れたばかりのコーヒーも(気分の問題で)不味くなってきた頃。

 先ほどとは打って変わり、画面は真っ黒に染まったのだ。

そして、血色でしかもおどろおどろしい書体で、画面中央にデカデカとこう表示されたのである。


『やぁ、銀髪こけしおかっぱ色黒軟派フラレ男!』


生憎その文字は本当に一瞬で消えたが、優秀なコーディネーターである金銀二人はしっかりばっちりその言葉を読み取ってしまい、顔を引きつらせた一瞬後。


「きっさまーーーーーー!!!! 貴様なんぞ童顔・女顔・微妙に舌足らず、と受け属性の三拍子そろってるではないかーーーーー!!!」


と、髪と柳眉を見事なほどに逆立てたイザークが端末を蹴り落とそうとしそうになるのを、ディアッカが必死にとめていたのだった。







―――――気を取り直して。どうにかイザークが気分を落ち着かせたのを見計らったようなタイミングで、今まで真っ黒だったディスプレイに再び文字が浮かび上がってきた。


 今度は普通の白い文字でディアッカ(の胃)が安心したのもつかの間、彼らの眉が今度は訝しげに寄せられたのだった。


『ごめん、ちょっと今頭ハツカネズミになってたから、君たちで遊んで終止符を打ってみたんだ。ご協力ありがとう。』


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そんでみただとぅ・・・・・・?」

「・・・・・・そんなことよりイザーク、キラがハツカネズミだと。」


果たして「そんなこと」と言いきって大丈夫なのかとちょっと思うが、イザークも少なからずその点は不思議に思っていたらしく、結局何も言わずにスルーされた。・・・・・・思わず彼の肩を叩いて「良かったね、ディアッカ。」と言いたくなるのは何故なのだろうか。

 ハツカネズミ・・・・当初はなんのことを言っているのかさっぱりだったが、ここ1、2年ほど頻繁に連絡を取っていたせいで、漸くその意味もわかってきたのだ。


「アスランじゃあるまいし・・・・・キラがだぜ? 珍しいにもほどがある・・・・・って何やってんだ、イザーク?」


 腕を組んで考え込んでいたディアッカがふと視線をイザークに向けると、彼はキーボードに手を掛け、一心不乱にキーを打ち込んでいたのだ。

彼が何をしたいのか悟り、またそのさまが微妙にキラと重なって、ディアッカは思わず苦笑した。


 今出ているキラの作った空間を端に追いやり、イザークはなにやら複雑な数値を書き込んでは削除を繰り返す。その間ディアッカはキラが打ち込んでくる文字を読み、それをイザークに伝えるのだった。


「イザーク、報告だとよ。ミネルバの盗撮機・・・・・・いつから盗撮機に変わったんだ・・・・が、全部撤去されたんだと。んで、あ〜やっぱり。ピンクの女帝とカリダさんはキラと一緒に議長に連れ去られたって。んで? あぁ、やっぱそうか、あの人たちの件はアスランに任せたから、俺達には他の件を頼みたいんだと。げぇ、そんなことやらせるのかよ!? これはイザーク、お前に頼んだぞ!!・・・・・・・・・・・・・っておい、まだ繋がんないのか・・・・・・?」

「うるさい!!!」


そう、イザークは何処ぞに通信をつなげようとしていたのだ。

そしてそれは、普通にいつでも通信が出来る相手ではなく。


「お、バレた。イザーク、通信繋げたいならテキストオンリーで許すだってさ。」


 この言葉からわかるように、それはこの画面の向こう側に居る、キラとの通信を試みていたのであった。

しかしキラが作った回線を此方が逆に辿るなんて事、はっきり言って100%不可能であることは解っている。

 あの少年の情報処理能力は、それほど抜きん出て優れているのだから。

それをすでに前回嫌と言うほど実感したはずの彼だから、ディアッカは割とすぐ諦めるだろうと思ったのだが、意外とねばる。


「おい、イザーク?」


何を意地になっているのだろうか。こうしている間にもテキストのみの通信が許可された。しかしそれでもイザークは逆探知を止めようとはしないのだ。

 イザークはディアッカの呼びかけに一瞬指の動きを止めると、すぐにまた指の動きを再開しながら言ったのだった。


「・・・・・・テキストオンリーだと!? 可笑しいと思わんのか貴様は!?」

「・・・・・・・・・・・・別に。あいつ今音声厳禁らしいぜ? ピアスが盗聴器に・・・・そういやそんなのついてたな・・・・ってかやるなぁ議長・・・・なってるからって。特に深い意味はねぇだろ。」


 たった今送られてきた言葉に驚きつつも関心し、そのままイザークに伝えると、彼はまた一瞬指の動きを止め、しかしこれもまたすぐさま再開し、手を動かしたまま考える風に口を閉ざしてから、今度は静かな様子で言うのだ。


「違うな。それなら音声だけを切ればいいはずだ。・・・・・顔を見せないようにしているんだろう。」


その言葉におもわず眉を顰めるディアッカ。何のためにそんなことを・・・とは気かない。そんなこと、“キラがハツカネズミになっている”という言葉だけですぐに知れる。


「・・・・・・・・・・・・・・・って、あれ?」


そこまで内心で言って、ふと気付く。

キラがハツカネズミ・・・・・? いや、キラの頭がハツカネズミ・・・・・。

・・・・・・・・・・・キラが、ハツカ“ネズミ”・・・・・・頭に丸い耳と長い尻尾語尾に「ちゅう」・・・・・・・・


「・・・・・って貴様何か邪な物を考えているだろう!! よだれ出てるぞ!!!」

「はっ! しまった、俺(ディアッカ・エロスマン★)としたことが!!」


 一応このサイト健全サイトなのに・・・・。とかすかに聞こえた言葉は、いったい誰の声なのか・・・・。


激しく自己嫌悪に浸っているディアッカはさて置き、必死になってテキストだけ繋がった回線を頼りに辿っていくと、不意に画面がぱっと明るくなったのだ。


「「『え・・・・・・・・・?』」」


思わず呟き、そのあと慌てたように音声を切ったが、イザークも早くも復活したディアッカも、目の前に広がる光景に思わず言葉を失ってしまったのだった。


なんとイザークの軍付属端末に、キラの顔がアップで映っていたのである。

「ひゃ、100%無理だったはず・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・失礼だな、後でしばくぞコラ


どうやらつなげた本人すら予想外だったらしく、ディアッカの言葉に返す声はなんとなく力が無い。しかもイザークの辛うじて残っていた威厳漂う口調さえ、今ではただのチンピラ化してさえいる。

しかしそんなことは今大して問題ではなく、イザークもディアッカもすぐ我に戻り、キラの様子に眉を顰めたのだった。


「・・・・・流石イザークの野性の勘・・・・・・」

「・・・貴様ついに( )カッコで隠していた部分まで言いやがったな・・・・?」


・・・・いや、残念ながらまだ正気づいていなかったのかもしれない。


そんなふたりの会話に通信機越しにキラは笑い、即興で画像の下にテキストを打つ部分を作る。

 その辺は流石だな・・・と思いつつも今度こそ本当に正気を取り戻したイザークは、その部分に文字を打ち込んだ。


<何があった?>

<何も? 君たちこそ、何してるの>


その文字と共に伝えられたのは、見慣れた苦笑。

しかしこの画面に映る人物は、イザーク曰く童顔で女顔という綺麗な顔に何でもかんでも押し隠してしまう癖がある上に、イザークもディアッカも、通信が繋がった直後に見たキラの表情を見逃しはしなかったのだ。

 それは、今にも泣きそうな、それでいて自嘲の笑みが浮かんだ顔。

しかもすぐにそれを消して驚いたような―――あれはしょうがないとも言えるが―――顔に変えたのも、なんだかわざとらしい。

 どんどん眉間にしわが寄っていくのを自覚しながら、イザークは悠然と腕を組み、キラの言葉を鼻で笑ったのだった。


「フンッ! そんな顔で言うセリフか、白々しい!! 言え、聞いてやる!!」


それをすかさず文字にするディアッカのなんと甲斐甲斐しいことか。

 しかしそんなことせずとも最近の通信技術は随分発達しているため、キラには唇の動きからしっかりと文字を読み取れていたのだが。

キラはそれにまた苦笑し、ディアッカが文字を打つのを制してから、唇を噛んで逡巡した。


言うべきか、言わざるべきか。


そもそも、彼らに何を言えばいいのかすらわからない。


キラのそんな戸惑いに気付いてしまったイザーク達は、「本当に珍しい」と互いの顔を見合わせた後、思わず苦笑したのだった。


「思ってること、悩んでることを片っ端から言ってしまえ。俺達に言いにくかったらアスランにでもいい。とにかく溜め込むな。」


戦後にキラと会ったイザークは、いや、戦時中に会ったディアッカさえも、彼のこのような弱い面は知らなかった。

いつも凛とした風情を崩さなかったから。いつも穏やかな微笑を浮かべ、たまにさっきのようにコッチをおちょくってきたから。

だから、しばらくは気付けなかった。しかし長く付き合えば、それも変わる。

波長が合うのか何なのか。アスランと比べれば短い付き合いではあるが、その笑みに違和感を感じることが多くなったのだ。

 それが、こんな笑顔。色々と複雑な感情を笑顔の下に押し隠し、軽い調子で何も無いのだとこちらに錯覚させる。


 じっと待つイザーク達の視線を受け、キラは顔を僅かに俯かせて目を閉じた後、ゆっくりと開いて口を開いたのだった。


『・・・・・怖いんだ、僕。・・・・シン達に嫌われるのが・・・・・』



それは、言うつもりのなかった告白。

   




(あとがき)
・・・・・・・・・・・・・キラの悩みは結局まだ続きます。

お、終わりが遠ざかった・・・・・・!

そしてキラ“様”もどこか遠くに行ってしまわれた・・・。いいもん。最終回付近で誰かさんと一緒に黒々するもん。(ぇ



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