腕を掴まれ、無気力に引っ張られるがままに足を進めて。 俯いたまま、その腕の持ち主に声をかけた。 「・・・・離せよ、レイ。」 すると彼はすぐにシンの腕を放し、そのまま足を止める。 そしてシンもまた無言で立ち止まり、徐に手で顔を覆ったのだ。 そして、先ほどから感じている衝動をやり過ごすために、ぎゅっと目を瞑った。 それは、泣きたいような、叫び出したくなるような、そして何だか笑い出したくなるような、そんな複雑な衝動。 「馬鹿みたいだな・・・・・」 無意識に出てしまった言葉を自覚することもなく、シンは続けて言葉を紡ぐ。 「・・・・・・“キラ”が、フリーダムのパイロットだとか・・・っ」 シンとレイしかいない廊下に、シンの声が小さく響いていた。 奪われる翼30―――――時は、数十分ほど前に遡る。 アスランによって医務室に運び込まれたキラは今、白く清潔なベットに横たわっていた。 運悪くドクターがいなかったので、レイが呼びに行くと出て行き。 その前にアスランも何も言わずに医務室から出て行ったが、シンには彼のことなんてどうでも良かったので、目も向けなかった。 シンの関心は今、ただ一つの存在に注がれているのだ。 その対象が、ベットの傍に持ってきた椅子に座るルナマリアに、心配そうに覗き込まれている少年である。 彼はアスランにそこに寝かされてから、一寸たりとも動いている様子は見えない。 ただその秀麗な顔を青白く染めて、固く目を閉じているだけ。 息をしているのかも怪しいその寝顔は、本当に人形のようで、シンは僅かに眉根を寄せた。 それから、そんなアテナの顔を見ているのが辛くなり、不意に彼を起こしたい衝動に駆られたシンは、何となく呟いたのだった。 「・・・・“キラ”って呼んだら、起きるかな・・・・・?」 アテナから目をそらす事無く呟いたシンのその言葉に、ルナマリアは盛大に眉を顰めた。 「ちょっと、何言ってるのよ。・・・・・・決めたでしょう? アテナが自分から“キラ”と名乗るまで、私たちは彼を“アテナ”って呼びつづけるって。」 ―――それは、いつのことだったか。 アテナのいない食堂で、大勢いたクルーの内の誰かが、突然そう言いだしたのだ。 誰が言い出したのかはわからない。けれど、その場にいた誰もがそれに同調し、食堂にいなかった者達にも伝わって、アテナの本名が“キラ”と分かった今も尚、彼のことを皆“アテナ”と呼ぶのである。 シンはそれを思い出し、バツが悪そうに顔を歪めた後、小さく「ゴメン」と呟いた。 それに困ったよう微苦笑して、ルナマリアはアテナに視線を戻す。 ・・・それは、本当に人形のような顔で。 顔が整っている上に、全く動かない彼は、シンのみならずルナマリアをも不安にさせる。 それから、こんな風になる前に相談してくれればいいのに・・・とも思わずにはいられないのだ。 だが、そんな事は所詮無理なのだと・・・・・・・・ここニ・三日で思い知らされた。 口には出さないが、ルナマリアは別の意味でも不安を感じていたのだ。 ――――アテナにとって、自分達は何なのだろうか・・・・? と。 アテナにとって自分達が、仲間であり、友人であることは疑う事などない。 だが、アスランとは絶対に違う位置にルナマリア達はいるのだ。 そして多分、端末のディスプレイ越しに見えた、イザークとも違うのだろう。 友人という枠の中で位分けをしていいものではないと思うが、少なくとも自分達は、重要なことを相談されたりはしないのだ。 だが、イザークやアスランにはどうなのだろうか・・・? ルナマリアも、そしてシンもそんな事を考えている中、不意に彼らの耳か小さな音を拾ったのだ。 「・・・・・・・・・ス・・・・・・」 寝息か、と一瞬思ったが、どうやら違うようだ。 思わず音の発信源であるアテナを二人して凝視していると、彼は目を閉じて表情を変える事無く、唇だけを動かして言葉をつむいでいたのだ。 「ラクス・・・・・・・」 「「・・・・ぇ・・・・・・?」」 それは、紛れもなく女の人の名前なのだとわかってしまう単語で。 よってシンとルナマリアは一瞬引きつった笑いを浮かべて視線を交わし、しかしすぐにそれをアテナに戻したのだった。 「・・・・・かぁ、さん・・・・・・・」 「・・・・・・・・・あぁなんだ・・・・。・・・・ただの寝言、よね・・・・?」 「寝言、だな・・・・・。」 続けて言われた何故か庇護欲を誘う言葉に、今度は僅かに安堵して。 微妙に嫌な汗をかいた、と二人同時に詰めていた息を吐く。 だが更に続けられた言葉に、二人は今度こそ息を呑んでしまったのだ。 「・・・・・・・・・助けて・・・アス・・・・」 『助けて、アスラン』 その言葉を聞き、思わず二人してまたアテナを凝視し。 我に返ると同時に、ルナマリアは泣きそうになるのを我慢して呟く。 「・・・・・いったい、貴方に何が起こっているのよ、アテナ・・・・・。」 自分達に救いを求めることはしないのに、あの人には躊躇いなく求めるのか。 自分達は、そんなに頼りないのか。 そう思わない訳でもないけど、それを軽く上回る強さで、シンもルナマリアも、何が何でもこれ以上彼を苦しめたくはないのだと、そう強く思ってしまったのだ。 双方強く拳を握り締め、視線をアテナに固定したまま、先にシンが呟いた。 「・・・・俺、あの人探してくる・・・・・・。」 「うん、お願い・・・・。」 ―――――そうして、彼を探し始めて。 比較的早く見つけられたのは、コーディネイターの優秀な耳が彼の声を聞き取ったため。 誰と何を言っているのかはよく聞こえないが、走ってそちらへ向かうと、前方からレイが一人で自分の方に歩いてきていたのだ。 だからドクターはどうしたのかと聞こうとした、その時。 アスランがいると思われる、ドアの無いレクルームへの入り口付近にいた彼らは、聞いてしまったのだ。 ≪・・・・・シン、という赤服がいたはずだが・・・・・・・≫ ≪そいつらに、嫌われるのが怖いのだと言っていた。≫ ≪“真実”を言うことが出来ないと悩んでいた。≫ 「シン・・・オーブ・・・・フリーダム・・・・・・・アスハ・・・・? ・・・・・そうか!」 「“キラがフリーダムに乗っていた」 それを聞き、シンの頭は一瞬真っ白になった。 それから、力なく背中を床に預けて。 その際生じてしまった音に反応したアスランに、とっさにレイが進み出た。 それを何とはなしに聞きながら、シンは小さく呟いたのだった。 「・・・・・・・・何だ、 どうしようもなく、泣きたくなった。 アスランとの会話を引き上げたレイは、その言葉とシンの様子に軽く驚愕した。 そして、いつまでもその場に留まる訳にもいかず、彼はシンを促して歩き出したのだ。 ―――――そして、今に至る。 「“キラ”が、フリーダムのパイロットだとか・・・っ」 それがいったいどうしたと言うのだ。 アレは確かに、シンの憎むべきMSの名前ではある。 だが、それが何だ。 「バッカじゃねぇの・・・・・?」 フリーダムのパイロットだとか、そんな事を気にして。 それを負い目に感じていた? 「ホント、馬鹿だ・・・・・・・。」 負い目を感じていたアテナも、そんなアテナに気付かず、アカデミー時代にポロリと「フリーダムは家族の仇」だと言ってしまった自分も。 「・・・・・本当に、馬鹿・・・・・」 何でもっと早く気付いてやれなかったんだろう。 アテナがあんなになったのは、自分のせいだった? そうシンの中で結論付くと同時に、湧き上がったのは、 ―――――後悔と安堵、そして歓喜。 彼は十分自分を気にかけてくれていたのだと、不謹慎にも嬉しくなった。 そしてそんなシンを、レイは苦笑して見ていたのだった。 そう、レイもまた、フリーダムがどうだとか、自分の片割れの仇なのだとか、そんなことは大した問題ではなかったのだ。 むしろ、フリーダムのパイロットには感謝していた。 自分を追い込み、悲しい運命を歩むことしか自分に許さず、また世界をその道連れにしようとした彼を止めてくれたのだから。 それに、レイもシンも、“アテナ”という人物をちゃんと知っているのだから。 結局、“フリーダム”なんて関係ないのだ。 彼らが大事にしていて、大好きなのは、“アテナ自身”であるのだから―――・・・。 (あとがき) 青春ですね・・・・(ぇ シン君、微妙に桃色の勘違い★ レイ君、あっさり容認v ・・・・・・・いやはや、けっこう丸く収まりましたねぇ・・・・。 ちなみにココで突っ込んでおく。 シンよ、キラが気にかけていて、あんな状態になってのは、君だけのせいじゃないですから〜残念っ!!(ちょっと古いな・・・) |
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