何やら自分を見て呆然としている人たちを見。

なぜシンが自分の上に乗っているのかと、未だ覚めきっていない頭で思って。

空腹感は否めなかったが、元より食に対する欲がそう大きいわけでもなかったので、大して気にせずキラは再び目を瞑った。

それから、緩慢にシンの手を自分の肩からどけて、口を開く。


―――その愛らしい形の唇からこぼれるのは、謝罪か苦笑付きの疑問のどちらかであろう。

シンは今までのアテナの行動パターンからそう当たりをつけると、反射的に身構えてしまう。


しかし、寝起きの掠れた口調で紡がれた言葉は。


「・・・・僕、は・・・・・・・・・・・・・・・もう一回、寝る・・・・・。」

「え、ぁ、オヤスミ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って寝るのかよ!!?」


そのまま寝返りを打とうとしていたアテナに思わず体を退けてしまい、しかしすぐさま我を取り戻し。

きっと自分が倒れたことを自覚していたであろうアテナに、シリアスな展開を予想していたシンは。

反射的に手をビシッと音が鳴りそうなほど素早く動かしながら、ツッコミを入れてしまったのである。



奪われる翼33





「アテナ! ちょっと待てよ、寝る前に俺の話を聞けって!!」


シンは思わずまた身を乗り出し、アテナの肩をがくがく揺すりながらそう言ったが、アテナはまったく気にせず「おなか減った〜・・・・眠い〜・・・・・」などと唸りながらも、明らかに夢に片足を突っ込んでいる状態である。


「待て! とりあえず俺、この後涙の友情劇が見れると思ってたんだけど、何なんだこの展開!?」

「俺に聞くな。そんな物を期待するな。そしてアテナから退け。」


わからない事があったら何故か何でも知っているレイに聞く。その習慣がついていたシンは、思わずレイを振り向いて彼に疑問をぶつけてしまった。

しかし返ってきたのはそんな非情な言葉(しかも全部命令形)で、更にはこめかみに何か金属製の物まで当てられてしまったのだ。

ジャコっと安全装置が音を立てて外れる、その黒光りする筒状の物体の正体とは。


しょ、正体とは・・・・・・・・・・・・っ、・・・・・とりあえずレイのキャラを壊したくは無いので、明確な名称は伏せておこう。


しかしシンはそれで「こいつ、本気だ・・・・・!」と確信し、自分の今の体勢―――アテナの上に乗りかかってる―――を漸く自覚し、やけにゆっくり彼から退いたのだった。


そしてレイに次いでシンの体勢の危うさに気付いていたルナマリアは、そんな彼らの動きを無感動に見、一瞬だけシンに刺すような視線を向けたあと、柔らかな微笑を浮かべてアテナに近づいたのである。


「アテナ。あなた倒れたの、覚えてる?」

「・・・・・覚えてるよ。」


実はとっくに覚醒していたアテナは、笑いを堪えながら身を起こし、ルナマリアに返事をした。

そう、と安心したように頷く彼女に、キラは心配させてしまった事を申し訳なく思いながらも微笑み返す。

そしてそれから俄かに苦笑して、無言で火花を散らしているシンとレイを見、口を開いたのだ。


「シン、レイ」


名を呼ぶことで彼らの意識を自分へと向かせ、睨み合いを止めた彼らに作った物ではない、穏やかな微笑を浮かべて。

アテナは一つ瞬きをし、僅かに嬉しそうに続けた。


「・・・・・・ありがとう。受け入れてくれて。」

拒絶しないでくれて、ありがとう。そして君達に何も言うことが出来なくて、ごめんなさい。

後半はあえて言わない。今言うべきは、感謝の念なのだとわかっているから。


穏やかな微笑を浮かべたままそう言われ、一瞬何を言っているのかわからなかったシンとレイは。

ほぼ同時に顔を見合わせ、それからすぐにアテナの言葉の意味に気付く。

そしてレイは困ったような、例の兄のような優しい微笑を浮かべ。

シンは驚いたように目を見張った後、照れくさそうに視線をあらぬところへと飛ばしてたのだった。


それから、シンは照れ隠しなのか何なのか知らないが、徐にアテナに視線を戻して尋ねたのだ。


「ってか、聞いてたのか? ・・・・・俺達がフリーダムの存在を知っちゃったこと。」


それは、疑問に思っても当然な事。

レイがフリーダムの話を出したのはアテナは寝ていた時だし、起きてからはまだその件を話題にしていない。

なのに知っているとなると、もしや狸寝入りをしていたのでは?

そう思って情けない顔をしているシンを見、アテナはそんな事心外だと顔に出して答える。





「実は歌姫・・・・・・もとい運命を握る女帝からの電波通信によって、自分の母がこれまた電波でゲットした情報を、横流ししてもらったんだ。」






・・・・・・・・・・・・・・・・だなんて、果たして言うことが出来るだろうか。いや、出来ようはずがない。(反語)


例えそれが真実であっても、そんな事を言ったら確実に変な目で見られる。

って言うか僕は、まだ人間でいたいんだから。

そう、思わず心の中で呟いてしまったが、それはまぁ、軽く見逃してやって欲しい。


そしてそれと同時にふっ、と遠い目をしてキラは力なく笑い、とりあえず無難な返事をする事を決意したのであった。


「いや、カマ掛けてみただけ。シンの様子から、何となくばれてるのかな? って思って。」


何しろ女帝とその師匠たる母からの情報だ。ぶっちゃけ確信していたが、それを言っては堂々巡り。彼らが彼女達の(裏の)存在を知るその時まで、キラが真実を言うことは決してないだろう。


今までの行いが良かったからか、簡単にその理由に納得してくれたシン達に素直に感謝して。

キラは脳裏に浮かぶピンク色の残像を白いペンキで塗りつぶし、にこやかに笑ってもう一度繰り返したのだった。


「・・・・本当に、ありがとう。」


ルナマリアと、ドクターも。

フリーダムという名前が出てきても困惑していなかった様子から、彼らも知っているのだと悟る事が出来、だからキラは彼らにも改めて謝礼をしたのだ。


すると、医務室にいた者皆から温かい微笑を返され、キラの心もほっと温かくなったのだった。







ほんわかしたムードが流れる医務室。

きっと皆すでに時間が明け方に近いことに気付いていない。

キラは「夜勤明け用にそろそろ朝食を作り始める頃かな?」と思いつつ、皆に遅い就寝を促した。

すると彼らも漸く時間間隔が戻ってきたのだろう。

シンが大きくあくびをし、ルナマリアはそれにつられて小さくあくびをする。

パイロットである彼らは比較的健康的な生活を送っているため、このような時間帯に起きていることは極稀なのだ。

各々習慣で体が眠いと訴え、アテナも目を覚まし、元気なようだから・・・と安心してしまったことも助長し、一気に睡眠欲が頭角を出してしまった少年少女達は。

結局すぐさま医務室から出、ふらふらした足取りで各自部屋へと帰って行ったのである。







―――そして、その日の昼。

ミネルバの慣れない航海も、漸く終わりを告げるのだった。




(あとがき)
一件落着〜? 今回はほんわか。

黒キラ様はいったいいつになったら戻ってくるんでしょ〜ね〜?(ぇ

そして、終わりがますます近づいて参りました。次回、オーブ到着です。



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